華燭の城

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 石牢に入ると、男はグルリと周囲を見渡した。

「なんと……。これは良き部屋ですなぁ」
 クンクンとわざとらしく鼻を動かし、部屋に残る血臭を嗅ぐ仕草をする。

 そして、台の上に自分が抱えて来た鞄を置きながら、そこにあった木箱の中身を、チラと盗み見る事も忘れなかった。
 天井から下がった滑車と鎖もガチャガチャと触り、感触を確かめ「これはいい」などと独り呟いて、シュリに向き直った。


「さあ、シュリ様、始めましょうか!」

 そう言うと、自分の鞄から何やらゴソゴソと包みを取り出した。
 それはクルクルと幾重にも筒状に巻かれた革製の包み。
 縛ってあった中央の紐を解き、台の上に転がすように開いていくと、最初に現れたのは、薄紅色の液体の入った小瓶だった。

 男がその液体を台の上の蝋燭……蝋溜まりにポタポタと流し込む様子を、ガルシアがいぶかし気に見つめる。

「それは何だ?」
 
 問われた男が手を止めた。

「これは香料です。
 私の仕事は我が国の、国防の全てを統括すること。
 中でも、他国の密者を捕らえ取り調べる事は、私の仕事の中でも最重要事項。
 その時に自白剤を使うのですが……」

「ああ、自白剤なら、それは我が国でも同じだ」

「ええ、その自白剤を作る時に偶然出来たのがこれでございます。
 淫なる気にさせてくれる事、この上なしで……。
 陛下も是非、いかがですかな?」

 包みから同じ小瓶をもう一本取り出すと「どうぞ」と目配せしながら、ガルシアの目の前にコトンと置いた。

「淫なる気か……」
 興味有り気にガルシアはそれを手に取り、目の前の炎にかざすと、中身をしげしげと見つめた。

「まぁ、いわゆる麻薬の一種なのですが……」
「麻薬だと?」
 ガルシアが思わず口に手を当てる。

 この時代でも麻薬はすでに世界中で横行し、その危険性は大きな問題になっている。
 それを商売にし、法外の財を得ている者が居るのも事実だ。

「そんなものを使って、ワシの体に害はないのか!?」
 口を押さえたまま、鋭い眼差しが男を捉える。

「心配御無用。大丈夫でございますよ。
 麻薬と言っても、これは合法の域の物。
 効き目は一過性で、数時間で完全に体から抜ける事が実証されております。
 私も同じ部屋に居るのです。どうぞご安心を」

 男は薄ら笑いながら、わざとらしく大きく手を広げ深呼吸をしてみせる。
 その言動には説得力があった。
 自らの命を脅かす物など、使うはずがないのだから。

「確かだな?
 それならば……まあよい。続けろ」

 ガルシアのこの一言で作業は再開された。
 
 程なくすると、その蝋燭から甘い香りが匂い立つ。
 それと同時に意識はより鮮明になり、体だけが脈打つように敏感に反応し始めていた。

「なるほど……これが……」

 かなり強い甘い匂いにうんざりしながらも、ガルシア自身も、その身に起きた変化を感じ取り、その絶大なる効果に満足したのか、自らも上着を脱ぎ捨てる。
 男もまた同じだった。
 その香りを存分に鼻から吸い込んだ後、急かすように、シュリの残った衣服を剥ぎ取った。

 
 全裸になったシュリが二人の前に立たされる。
 透き通る肌に纏っているのは、上腕や腿に巻かれた、わずかに残る包帯と数えきれない程の傷。

「ああ……この痛ましい姿が、なんとも美しい」

 男は嬉しそうにシュリの傷だらけの体を引き寄せると、両腕で抱きつき頬擦った。
 そのまま胸にも長い舌をベロリと這わせていく。

「……ッっ……」

 ガルシアは男の技量を測るように、椅子に腰かけ、シュリが顔を背け、目を閉じ嫌がる様子をじっと黙って見ているだけだ。

 舌が傷の上までくると、男はシュリの体を抱き寄せたまま、右手でも執拗に傷口を弄り回した。
 その度に、シュリの顔が痛みに歪む。
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