華燭の城

文字の大きさ
上 下
66 / 199

- 65

しおりを挟む
 使用人棟と呼ばれる館の一角にあるラウの部屋。

 全てが石造りに見えていた城内の館だったが、意外な事に室内は木造りだった。
 いや、元々、木造建築だった物の外側だけを戦に備え、上からぐるりと石で囲ったと言うべきだろうか……。

 その木造の、決して充分な広さとはいえない部屋には、小さな窓がひとつとベッドに机、椅子。
 あとは衣類を置く棚ぐらいしか家具らしきものはないが、今、自分の寝ているこの部屋の奥にも、もう一つ部屋が続いているのか……出入口の他に別の扉も見えていた。
 床も壁も、使われている木材が薄いのだろう。
 廊下を行き交う人の気配も感じられ、わずかに薬品のような匂いもする。


「……これは……薬の匂い……」
「あ、申し訳ありません。
 ご不快でしょうが、しばらくここで御辛抱を……」

 確かに、多くの薬剤が混ざり合い、決して良くはない匂いだ。
 慣れない者が不快に思っても仕方がないと、ラウが頭を下げる。

「それは構わない……。
 でも、ラウ……自分の部屋で薬を……?」

「はい、隣の小部屋で調合しています。
 危険な薬品も多くありますので、あそこにはお近付きにはならないように……」
 ラウが、奥に見えていたもう一つの小さな扉に視線を送る。

「危険……」

 ラウの言う通りだった。
 そこはどう見ても、薬品を扱うのにふさわしいと言える場所ではない。
 簡素な木造の部屋で、小さな窓がたった一つのこの部屋では、十分な換気さえできないだろう……。
 こんな場所でいつもラウは、自分のために薬湯を作り、そしてここで眠るのだ。
 薬品の知識があまりないシュリにでも、ここで日々を暮らす事が、どれほど体に悪い事なのかぐらい容易に判る。

「ラウ……」
 横になっている自分を覗き込むように見るているラウの顔に、シュリの両手が伸びる。
 その頬に触れ……そのまま引き寄せた。

「……シュリ……様……?」
 横たわったまま、首にしがみつくように、シュリがラウを抱きしめていた。

「……どうされました?」

 そう問われても、自分でも判らなかった。

 出会った日から、いつも側で献身的に支えてくれる “感謝” の思い。 
 だが、それだけでは伝えきれないこの気持ち……。
 胸が苦しいほど締め付けられるこれは何なのか……。

 無意識の中で、それが何なのかシュリ自身もハッキリと判らないまま、唇が……ラウの唇を求め、そっと触れた。

 自分でも、なぜこんな事をしたのかわからない。
 抱きしめたラウの体が、ピクンと動いたのがわかったが、今はただ、そうしていたかった。

「……あまり力を入れられては傷に障ります」
 そんなシュリの気持ちをよそに、ラウはそっとシュリの肩を押し戻し、いつもよりも一層静かな声でそう言った。

 シュリの顔が見える距離まで離れると、その目をじっと見据え、
「眠っておられる間に薬湯を固形にしてみました。中に一錠入っています。
 これなら容易に持ち歩けますし、今日のような事があっても……外へ出られる時でも安心かと」

 そう言って、何事もなかったかのように、シュリの手に小さく折り畳まれた白い紙を一包乗せ、握らせた。

「ラウ……」
 何か言いかけたが、それは言葉にならない想いだった。

「よろしいですか? 一錠で一回分です。
 もうおわかりでしょうが、副作用がかなり強い物です。
 後でお部屋にもお届けしますが、必ず用量は守ってください」

 黙り俯くシュリに一方的に説明をすると、
「今夜からまた宴があります。それまでもうしばらくここでお休みください。
 私はもう少し、この薬を作っておきますので」

 そう言って立ち上がり、隣の小部屋へ入って行くと、カチャリと中から鍵の掛かる音がした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...