華燭の城

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「どうだ? 
 この部屋がどういうものか、わかったか?」

 ガルシアは、吊るされたシュリの周りをゆっくりと歩きながら、上から下まで、全身を舐め回すように眺めていく。
 修練を積んだ均整のとれた体は、鎖で吊るされていても、美しさを損なうことは無い。
 むしろ、ソファーで組み伏せるよりも一層淫靡いんびさを増し、ガルシアは満足の表情を浮かべた。
 そして大きな肉厚の手でシュリの体を抱き寄せ、衣服の上から撫で始める。

「まだまだ披露目の宴が続くからな……」
 ガルシアはシュリの耳元でそう囁くと、耳朶を舐め、舌を差し入れた。

「顔や手足、見える場所に傷は付けられない。
 今は勘弁しておいてやる」
 
 耳の中で湿った声が響く。
 その不快感にシュリは強く目を閉じ首を振った。
 体を捩り、その舌先から逃れようとしても、吊るされ揺れる不安定な体は思うように動かない。

「どうあがいても無駄だ。
 ここからは逃げられない」
 再びガルシアの囁くような声が耳の中でした。

 ガルシアは、シュリの耳から首筋に舌を這わせながら、シャツの隙間から胸元へ手を差し入れ、指で胸の先端をつまみ、ギリッと捩じり上げた。

「ンっ……!!」
 
 その痛みにシュリが天井を仰ぐ。
 それでも声を上げまいと唇を噛み締めた。

「ほう、耐えるか。
 だがどこまで我慢できるかな?
 言っておくが、この部屋での我慢は身を滅ぼすぞ。
 ラウムのように脚一本、で済めばいいがな」

 その言葉にシュリは驚いたように目を開けた。

 ……ラウ……!

 ガルシアの少し後ろ……自分の正面にラウが居た。
 俯いたまま左手でグッと杖を握り、右手は小さく拳を握り締めている。

 ラウの、脚……?
 この部屋の鍵を持っていたラウ……。
 でもあの脚は、子供の頃からだと……。
 子供……。 
 まさか、ラウも……。 
 しかも、そんな頃から…………。

 シュリはラウの子供時代など何も知らない。
 だがその頭の中で、今の自分と、そしてまだ子供の、小さなラウの姿が重なり合っていく。

 鎖で吊り下げられた男の子……。
 泣き叫び、暴れ、やめてと懇願する声はすでに絶叫になっている。
 それは国に残してきた弟とも重なり、想像を遥かに超えた恐ろしい映像だった。

「まさか……。
 ガルシア!! 貴様っ!! 
 ……ラウに何をした!!」
 
 体の底から湧き上がる怒りで叫んだ。
 ガルシアに掴みかかろうと、渾身の力で繋がれた腕を振り解こうとした。
 冷たい鉄輪が腕に、足首に食い込み、ガシャガシャと鎖と滑車がぶつかり、うるさく音を立てる。

「お前だけは……!
 絶対に許さない!!
 何があっても、お前だけは……!」

「……いけません!」
 その叫びを遮ったのはラウの声だった。

「シュリ様、いけません!
 ここでは……抵抗してはなりません……。
 大人しくしていてください……」
 
 絞り出すようなラウの声に重なり、ガルシアの大きな笑い声が響いた。

「さすがだ、ラウム! 
 お前はよく判っている。
 それでこそ、幼い頃よりしつけた甲斐があったというものよ。
 縛った痕が見えぬように、わざわざ手首を避け、腕を縛るあたりは手慣れたものだ。
 シュリ、お前も口の聞き方には気をつけろ。
 そして、このラウムのように従順になれ。
 ワシを存分に愉しませるのだ」

 ガルシアの右手の鞭が、見せつけるように大きく振り上げられ、細く黒い革製の影がしなやかにうねる。
 その姿は、執拗に狙いを定めた蛇が獲物に飛びかかろうとする様に似ていた。


 ―― ビシッッ――!! 

 床を叩く乾いた音に、ラウは思わず目を背ける。
 15年前、まだ少年だったラウの記憶が蘇る。

 ここで起きた事……。
 ここで受けたガルシアの行為……。
 歩けなくなった日の事……。

 そして悟ったのだ。
 
 ガルシアには逆らうな。……と……。
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