華燭の城

文字の大きさ
上 下
50 / 199

- 49

しおりを挟む
「どうだ? 
 この部屋がどういうものか、わかったか?」

 ガルシアは、吊るされたシュリの周りをゆっくりと歩きながら、上から下まで、全身を舐め回すように眺めていく。
 修練を積んだ均整のとれた体は、鎖で吊るされていても、美しさを損なうことは無い。
 むしろ、ソファーで組み伏せるよりも一層淫靡いんびさを増し、ガルシアは満足の表情を浮かべた。
 そして大きな肉厚の手でシュリの体を抱き寄せ、衣服の上から撫で始める。

「まだまだ披露目の宴が続くからな……」
 ガルシアはシュリの耳元でそう囁くと、耳朶を舐め、舌を差し入れた。

「顔や手足、見える場所に傷は付けられない。
 今は勘弁しておいてやる」
 
 耳の中で湿った声が響く。
 その不快感にシュリは強く目を閉じ首を振った。
 体を捩り、その舌先から逃れようとしても、吊るされ揺れる不安定な体は思うように動かない。

「どうあがいても無駄だ。
 ここからは逃げられない」
 再びガルシアの囁くような声が耳の中でした。

 ガルシアは、シュリの耳から首筋に舌を這わせながら、シャツの隙間から胸元へ手を差し入れ、指で胸の先端をつまみ、ギリッと捩じり上げた。

「ンっ……!!」
 
 その痛みにシュリが天井を仰ぐ。
 それでも声を上げまいと唇を噛み締めた。

「ほう、耐えるか。
 だがどこまで我慢できるかな?
 言っておくが、この部屋での我慢は身を滅ぼすぞ。
 ラウムのように脚一本、で済めばいいがな」

 その言葉にシュリは驚いたように目を開けた。

 ……ラウ……!

 ガルシアの少し後ろ……自分の正面にラウが居た。
 俯いたまま左手でグッと杖を握り、右手は小さく拳を握り締めている。

 ラウの、脚……?
 この部屋の鍵を持っていたラウ……。
 でもあの脚は、子供の頃からだと……。
 子供……。 
 まさか、ラウも……。 
 しかも、そんな頃から…………。

 シュリはラウの子供時代など何も知らない。
 だがその頭の中で、今の自分と、そしてまだ子供の、小さなラウの姿が重なり合っていく。

 鎖で吊り下げられた男の子……。
 泣き叫び、暴れ、やめてと懇願する声はすでに絶叫になっている。
 それは国に残してきた弟とも重なり、想像を遥かに超えた恐ろしい映像だった。

「まさか……。
 ガルシア!! 貴様っ!! 
 ……ラウに何をした!!」
 
 体の底から湧き上がる怒りで叫んだ。
 ガルシアに掴みかかろうと、渾身の力で繋がれた腕を振り解こうとした。
 冷たい鉄輪が腕に、足首に食い込み、ガシャガシャと鎖と滑車がぶつかり、うるさく音を立てる。

「お前だけは……!
 絶対に許さない!!
 何があっても、お前だけは……!」

「……いけません!」
 その叫びを遮ったのはラウの声だった。

「シュリ様、いけません!
 ここでは……抵抗してはなりません……。
 大人しくしていてください……」
 
 絞り出すようなラウの声に重なり、ガルシアの大きな笑い声が響いた。

「さすがだ、ラウム! 
 お前はよく判っている。
 それでこそ、幼い頃よりしつけた甲斐があったというものよ。
 縛った痕が見えぬように、わざわざ手首を避け、腕を縛るあたりは手慣れたものだ。
 シュリ、お前も口の聞き方には気をつけろ。
 そして、このラウムのように従順になれ。
 ワシを存分に愉しませるのだ」

 ガルシアの右手の鞭が、見せつけるように大きく振り上げられ、細く黒い革製の影がしなやかにうねる。
 その姿は、執拗に狙いを定めた蛇が獲物に飛びかかろうとする様に似ていた。


 ―― ビシッッ――!! 

 床を叩く乾いた音に、ラウは思わず目を背ける。
 15年前、まだ少年だったラウの記憶が蘇る。

 ここで起きた事……。
 ここで受けたガルシアの行為……。
 歩けなくなった日の事……。

 そして悟ったのだ。
 
 ガルシアには逆らうな。……と……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...