華燭の城

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「……陛下!」

 ラウが驚き顔を上げた。
 一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに顔を伏せる。

「ん? どうした? 今日からはシュリに持たせる。
 いつも持っていろと、そう言いつけたはずだ。早く出せ」

「……はい」

 ラウは呟くように答え杖を置くと、ゆっくりと自分の首から、掛けていた細い鎖を外し取った。
 その鎖の先には古い形の鍵がついている。

「よかったな。
 これでやっとお前も解放だ、嬉しいだろう?」

 ガルシアはそう言うと、受け取った鍵をそのままシュリに差し出した。

「……これは……」
「あの部屋の鍵だ」

 ガルシアが顎で指す視線の先、薄暗いが今居る部屋の一番奥にもう一つ、鉄製の古い扉が見えていた。
 その扉には大きな錠前が掛かっている。

「これからは毎日、どんな時でも、ずっとこの鍵を身に着けておくのだ。
 そしてワシが『行け』と言えば、すぐに自分で鍵を開け中に入れ。
 何でも言う事を聞くと言ったのだからな。
 愛しい弟のためにこの程度の事、容易いはずだ」

 そう言ってニヤリと笑った。

「では早速行こうか」

「ラウ、あの部屋はいったい……」

 シュリが傍らのラウに尋ねたが、ラウは黙ったまま静かに下を向いただけだった。

「行けばわかる」

 ガルシアは、グイと引っ張るようにシュリの腕を取り、部屋の前まで連れて来ると、
「開けろ」
 腕を掴んだまま鍵を指し示した。


 渡されたばかりの鍵でその錠前に手をかけると、かなり古い物なのか、所々で金属が剥げ、サビも浮き出ている。
 ザラザラと冷たい大きな鍵は、ガチャリ……と重い金属の音を響かせてその口を開け、ガルシアが扉を押すと、ギギギ……と軋んだ音させながら鉄の扉が開いた。
 ひどく古い澱んだ空気がやっと出口を見つけたように一気に流れ出し、三人を包み込む。

「……んっ……」
 シュリは入口に立ったまま、そのカビ臭い空気に顔を顰めた。


 そのままグルリと部屋の中を見渡した。
 そこは狭い部屋だった。
 石の壁が剥き出しなのは、今までの部屋と同じだったが、床も石のままで照明も窓もない。
 あるのは、薪の燃え屑が残った小さな暖炉のような窯と、壁や天井から下がった滑車の付いた鎖。
 大きなテーブル程の木の台。
 その上に蝋燭を立てるための多くの燭台と、いくつもの木箱が並んでおり、箱の中には様々な道具が入っていた。
 水が出るのか、蛇口も壁から無造作に突き出ていて、後は簡素な椅子が二脚。
 そして、わずかに残る血の匂い。

「何……。ここは……」
 シュリはその血臭に、思わず口元を押さえた。
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