華燭の城

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 そのまま時が膠着こうちゃくする。

 シュリには余分な力みも気負いもなく、自然体で、側で見ていた少年兵には、シュリはじっとしているだけ、ラウもまた、それを見つめながらただ立っている、としか思えず、次第にザワザワとし始めていた。

 とうとう一人の少年が痺れを切らし、士官の方を向いた。

「どうしてラウは打ち込まないのですか?」
 シュリが双剣を握ってからというもの、ラウも一歩も動いていない。

「いや、ラウはもう頭の中では打ち込んでいるのだ。何度も何度も……。
 だが全て失策。
 だから実際には打ち込みたくても、打ち込めないのだ。
 シュリ様には一分の隙もない……」

 士官は緊張で乾き切った喉からかすれた返事をし、それを聞いた少年はゴクリを唾を飲んだ。


 それからまた数分が経った頃、ついにラウが動いた。
 どこかに小さな勝機を見出したのかもしれない。
 もしくは、イチかバチかの勝負に出たのか……。

 そうして再び始まったラウの攻撃。
 三振の剣がぶつかる金属音が広場に響く。

「これがあの噂に聞く、シュリ様の双剣……」

 無駄のない体術と素早い双剣捌きで、シュリはその場からほとんど動いていない。
 それは、舞台の上で、いつかの神儀を舞っているようでもあり、強くしなやかで美しかった。

「……す、すごい……。
 重い剣を、しかも二振り……あんなに軽々と……」
「こんなの、師範様の手合わせでも見た事ないよ……」
「皇子であるシュリ様が、これほどお強いなんて……」

 皆、二人の勝負に目を奪われ釘付けになっていた。


 “王となる者” として生まれた子は、幼い頃より帝王学と共に学問や馬術、そして剣も教え込まれる。
 それはやがて神国の王となるはずだったシュリも例外ではなく、修練は務めだった。
 そして何よりも、重い二双の剣を自在に扱う神儀を舞う為のシュリの日常でもあった。

 そんなシュリの側にはいつも、大好きな兄を憧れの眼差しで見つめ、応援する弟がいた。

 ……兄様、頑張って! 
 ……兄様……兄様……。
 
 シュリの頭の中に、優しい弟の声が響いていた。

 ……ジーナ……。


 長い攻防が続き、その時はいきなり訪れた。
 ラウの突きをかわし、体を回転させながら、わずかに一歩踏み込んだシュリの右剣がラウの真正面から入り、その喉元に触れる寸前でピタリと止まる。

 ……クッ!!
 
 ラウの体が一瞬、驚いたように硬直し、その剣先を見つめた。


「……参りました」 
 ラウがガクンと膝を付き、頭を下げる。
 
 途端に、固唾を飲んで見守っていた兵士達から、
「おおーーーーーっ!」と歓声が上がった。



「最後、手加減しなかったか?」

 ひざまずくラウに手を差し伸べながら、シュリが微笑む。

「いいえ、とんでもない。 
 本気で打ち込ませていただきました。
 久しぶりに気持ちの良い時間でした。
 ありがとうございます」

「私もだ、楽しかったよ。
 ラウは強いな」

 シュリに手を引かれラウが立ち上がると、どこからともなく拍手が湧き起こり、それに少し驚きながらも、シュリも微笑んでいた。


「ありがとう、稽古の邪魔をしたね」 

「いえ、素晴らしい剣術を見せていただきました!
 また、いつでも!!」

 借りた剣を返しながらシュリが言うと、若い兵は興奮した様子で頭を下げた。
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