華燭の城

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 意識を失うように堕ちたシュリは夢をみた。

 ガルシアだ。
 あの大きな体が、自分の上に圧し掛かってくる。
 ざらついた卑猥な舌が体中を這いまわり、縛られたまま貫かれ、凌辱される……。 

「…………やめろ……っ……!!」
 叫ぶ自分の声で目を覚ますと、
「シュリ様」
 すぐ側でラウの声がした。

「……夢……」
 早かった呼吸が徐々にゆっくりになり、ようやく大きく息を吐く。

「大丈夫ですか?」
 ラウは暖炉の火をベッド脇の蝋燭に移すと、シュリの元へと寄せた。

「……ラウ……」

 明るさを取り戻した部屋で体を向けようとするシュリを、ベッドの端に腰掛けたラウの腕が支える。

 相変わらず気分は悪く苦しかったが、薬湯の効用か、それともあのラウの行為のお陰なのか、先程まで寝返りを打つ事さえ辛かった体の痛みと怠さは、嘘のように軽くなっていた。

「あ、の……さっきは…………」

 言いかけたが、それ以上言葉にならなかった。
 何と言っていいのか、わからなかったのだ。

 そのまま口を閉じ、黙って俯いてしまったシュリを、
「動けますか?」
 ラウの瞳が静かに見つめる。

「大丈夫……。
 ……この薬が無かったら……ラウが居なかったら……。
 私は、どうなっていたのだろう……。
 この酷い痛みと……。
 …………あんな…………」

 ガルシアに犯されたという事実を改めて認識し、シュリが再び言葉を詰まらせる。

「少しでもお役に立てたなら幸いです」

 胸元まで下がった上掛けを肩まで直すと、ラウはシュリの額の汗をそっと拭いながら微笑んだ。



「……ラウ……。
 この薬……ラウの家の物だと言っていたが、今は?
 ラウが自分で作っているのか?」

 横になったまま、暖炉の炎に照らされるラウの顔を見ていた。
 静かで丹精な整ったその顔立ちは、今夜の事など何事も無かったように思わせてくれる。
 そっと添うように握られている手も温かだった。

「はい、今は私が部屋で調合し、作っております。
 私の養父は街で薬師をしていますので、それで私も……」

 薬師……!
 その言葉にシュリが、ガバと起き上がった。

「ラウ! お前は薬師なのか!?
 もしそうなら……薬師なら……!
 弟を、ジーナを診てはもらえないか!!」
 
 横に腰掛けるラウの服を思わず掴んでいた。

「シュリ様、そんなに興奮されては、まだお体に障ります」

 シュリの肩をなだめるようにそっと押さえる。

「私はいい! 弟を……! 国にいる私の弟だ!
 生まれつきの病で、今もあまり良くはない……。
 私の国には治せる医者も薬師もいなかった。
 この国なら……。
 この大国なら、もっと優秀な医師もたくさんいるはず!
 お前が弟を……!
 ……いや、直接が無理なら、父上殿……知り合いの医師でもいい。
 誰かジーナを……!」

 シュリの手がラウの両腕をすがるように強く掴む。
 そのシュリの手に、ラウが自分の手を重ねた。

「ここは帝国一の大国。
 優秀な医師、薬師も大勢おります。
 もちろん養父にも、その知り合いにも、弟君の事を頼む事はできるでしょう。
 ですが……」

 ラウは一度言葉を切ると、真っ直ぐにシュリを見つめた。

「……ですが。
 それを神国に出向かせる事ができるかどうかは、陛下の御心次第。
 陛下のお許しが無ければ、到底無理な事です。
 ……申し訳ありません」

 小さく頭を下げるラウを、今度はシュリが見つめる番だった。

「ガルシアの……許可……」

 これだけの辱しめを受けながら、まだガルシアに頭を下げなくてはいけないのか……。

「クッ……」
 
 ドンッと自分の腿を拳で叩き付けた。
 だが自身の威信やプライドなどと言ってはいられなかった。
 自分が迷っているうちにも、弟は病に苦しんでいるのだ。
 まして手遅れなどになったら……。

「……わかった。
 ガルシアの……許可さえあれば……いいんだな……」

「はい」 

 ラウの返事にシュリはキリと唇を噛んだ。


 そのまま何かを思いふけり、ラウの腕を握ったまま、黙って一点を見つめ、じっと動かないシュリの体にラウが手を添えた。

「シュリ様、今日はもうお休みになってください。
 薬が効いているうちに……。
 弟君の事は夜が明けなければ、今いくらお考えになられても……」

 シュリの体をそっとベッドへと横たえた。
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