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シュリを部屋へと戻し、自室で皇帝との長い電話を終えたガルシアは、ゆっくりと、そして静かにその受話器を元に戻した。
「クッ……、、クククッ……」
途端に喉の奥から、こらえ切れないモノが込み上げてくる。
「ククッ……、クッ……、、、 ハハ……!
アッハハハハハ!!!!」
深夜の城にガルシアの大きな笑い声が響き渡った。
「やったぞ! やはりお前の言う通りだった!!」
「そんな大声では、外にまで聞こえます」
窘める傍らの男の声も耳に入らない程、ガルシアは上機嫌で話し続けた。
「これが喜ばずに居られるものか!
閣下からの直々の電話、こんな時間に何事かと思ったが……なんと、先ずもって祝いだそうだ!
この国に良き跡継ぎを迎える事ができて良かったと、それもこれも、全てこのワシの人徳だとお褒めの言葉を頂いた!
どうだ! これは名誉だぞ!」
「それは宜しゅうございました」
男も頭を下げながら薄く笑う。
「祝宴には『閣下も是非に』とお願いしたのだが、残念な事に閣下は多忙ゆえ無理らしい。
シュリを正式な跡継ぎとして認めるという直筆の書状は代わりの者に持たせるそうだが、ああ、なんとも残念だ……。
閣下が来て下されば、益々箔が付くというのに」
ガルシアは小さく舌打ちをすると、大きなソファーの中央で両腕を広げ、片手に持ったグラスをクルクルと手のひらで器用に転がした。
「……閣下に……書状を頼まれたのですか?」
男の眉間にシワが寄る。
「陛下が跡継ぎだと宣言さえすれば、その様な物、わざわざ頼まなくても……」
その言葉にガルシアが首を振った。
「いや、これは保険だ。
神国に攻め行った事がもし他国にバレてみろ……。
それこそワシの首が危うい。
だが閣下直筆の書状さえあれば、もうこちらのものだ!
後から何を言われようが黙らせる事ができる!
いわばこれは免罪符。
どうだ? お前もそこまでは考えつかなかっただろう?」
つい先程、自分の脳内で……想像の中で起こった最悪の状況。
そこから脱すべく自らが考え出した策。
それがこの、当の皇帝さえも逆手に取った唯一であり最良最善の策。
それに満足なのか、ガルシアが豪快に笑った。
……余計な事を……。
男はガルシアの足元に跪いたまま、聞こえない程の小さな声でボソリと呟いた。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も。
しかし陛下、閣下がお見えにならないのは、かえって好都合。
もし祝宴の席で、万が一にもシュリが余計な事を口走っては全てが水の泡。
こうして祝いを頂いておくだけでも、十分、近隣諸国への抑止力になります」
「……なるほどな……! それもそうだ!
万事が追い風になっているという事だ!
これで我が国に対し、密かに反発の芽を持っておった他国も、今まで以上にワシに一目置く事だろう。
何と言っても閣下のお墨付きがある上に、世継ぎは神の子だ。
もう誰もワシに刃向かいはできぬ!
全く、お前の頭の良さには驚かされる!
……そうだ! お前にも何か褒美をやらんとな?
何がいい? 金か? 地位か? ん? 何でも言ってみろ」
ガルシアは脚を組み直すと、満足げにグラスの酒を口へと運ぶ。
男はその様子を上目遣いに見ながら、ゆっくりと頭を下げた。
「褒美……ですか……。
そのような事、考えてもおりませんでした……」
急な申し出に、少し考える仕草で首を捻った後、
「では……。あの、一番左端の小剣でも頂ければ……」
男は再び深く頭を下げながら、チラと右側の壁に視線を送った。
そこには、ずらりと壁一面、輝く宝剣が掛けられていた。
壁の一番左端の物は長さ1メートル程で少々小ぶりだったが、随所に銀細工のある黒鞘に収まっていた。
柄から鍔までは草花らしき凝った彫金が見事に輝き、握りの先端……柄頭には青い房が下がっている。
「あれか……。
あれに目を付けるとは、お前も相当欲深いな。
ここにある宝剣はただの飾りではないのだぞ。
ワシの元へ妃として嫁いで来た女共が、婚姻の証として持参した物。
どれもその国の宝とも言える一級の品ばかりだ。
特にあの左端の剣は最初の女が持参した物で、握り柄に巨大なサファイヤが入っている。
この世に二つとない逸品だぞ」
男の視線を追ったガルシアはしばらく考えていたが、
「まぁ、いいだろう。
あれ程の大きさの石、手放すのは、ちと惜しいが……。
今夜は気分が良い。
今回の働きの褒美に特別だ、持って行け」
「ありがとうござます」
男はもう一度、深々と頭を下げた。
「ああ、そうだ。代わりにこのシュリの剣を掛けておけ」
そう言ってテーブルの上にあった双剣をグイと突き出す。
「だが、言っておくが……褒美はこれで最後だ。
要らぬ欲を出し、あれもこれもと後で無心するなよ?」
そう言って、壁に双剣を掛け終えた男に、下がれと言わんばかりに、クイと顎で指図すると再び酒を飲み始めた。
「クッ……、、クククッ……」
途端に喉の奥から、こらえ切れないモノが込み上げてくる。
「ククッ……、クッ……、、、 ハハ……!
アッハハハハハ!!!!」
深夜の城にガルシアの大きな笑い声が響き渡った。
「やったぞ! やはりお前の言う通りだった!!」
「そんな大声では、外にまで聞こえます」
窘める傍らの男の声も耳に入らない程、ガルシアは上機嫌で話し続けた。
「これが喜ばずに居られるものか!
閣下からの直々の電話、こんな時間に何事かと思ったが……なんと、先ずもって祝いだそうだ!
この国に良き跡継ぎを迎える事ができて良かったと、それもこれも、全てこのワシの人徳だとお褒めの言葉を頂いた!
どうだ! これは名誉だぞ!」
「それは宜しゅうございました」
男も頭を下げながら薄く笑う。
「祝宴には『閣下も是非に』とお願いしたのだが、残念な事に閣下は多忙ゆえ無理らしい。
シュリを正式な跡継ぎとして認めるという直筆の書状は代わりの者に持たせるそうだが、ああ、なんとも残念だ……。
閣下が来て下されば、益々箔が付くというのに」
ガルシアは小さく舌打ちをすると、大きなソファーの中央で両腕を広げ、片手に持ったグラスをクルクルと手のひらで器用に転がした。
「……閣下に……書状を頼まれたのですか?」
男の眉間にシワが寄る。
「陛下が跡継ぎだと宣言さえすれば、その様な物、わざわざ頼まなくても……」
その言葉にガルシアが首を振った。
「いや、これは保険だ。
神国に攻め行った事がもし他国にバレてみろ……。
それこそワシの首が危うい。
だが閣下直筆の書状さえあれば、もうこちらのものだ!
後から何を言われようが黙らせる事ができる!
いわばこれは免罪符。
どうだ? お前もそこまでは考えつかなかっただろう?」
つい先程、自分の脳内で……想像の中で起こった最悪の状況。
そこから脱すべく自らが考え出した策。
それがこの、当の皇帝さえも逆手に取った唯一であり最良最善の策。
それに満足なのか、ガルシアが豪快に笑った。
……余計な事を……。
男はガルシアの足元に跪いたまま、聞こえない程の小さな声でボソリと呟いた。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も。
しかし陛下、閣下がお見えにならないのは、かえって好都合。
もし祝宴の席で、万が一にもシュリが余計な事を口走っては全てが水の泡。
こうして祝いを頂いておくだけでも、十分、近隣諸国への抑止力になります」
「……なるほどな……! それもそうだ!
万事が追い風になっているという事だ!
これで我が国に対し、密かに反発の芽を持っておった他国も、今まで以上にワシに一目置く事だろう。
何と言っても閣下のお墨付きがある上に、世継ぎは神の子だ。
もう誰もワシに刃向かいはできぬ!
全く、お前の頭の良さには驚かされる!
……そうだ! お前にも何か褒美をやらんとな?
何がいい? 金か? 地位か? ん? 何でも言ってみろ」
ガルシアは脚を組み直すと、満足げにグラスの酒を口へと運ぶ。
男はその様子を上目遣いに見ながら、ゆっくりと頭を下げた。
「褒美……ですか……。
そのような事、考えてもおりませんでした……」
急な申し出に、少し考える仕草で首を捻った後、
「では……。あの、一番左端の小剣でも頂ければ……」
男は再び深く頭を下げながら、チラと右側の壁に視線を送った。
そこには、ずらりと壁一面、輝く宝剣が掛けられていた。
壁の一番左端の物は長さ1メートル程で少々小ぶりだったが、随所に銀細工のある黒鞘に収まっていた。
柄から鍔までは草花らしき凝った彫金が見事に輝き、握りの先端……柄頭には青い房が下がっている。
「あれか……。
あれに目を付けるとは、お前も相当欲深いな。
ここにある宝剣はただの飾りではないのだぞ。
ワシの元へ妃として嫁いで来た女共が、婚姻の証として持参した物。
どれもその国の宝とも言える一級の品ばかりだ。
特にあの左端の剣は最初の女が持参した物で、握り柄に巨大なサファイヤが入っている。
この世に二つとない逸品だぞ」
男の視線を追ったガルシアはしばらく考えていたが、
「まぁ、いいだろう。
あれ程の大きさの石、手放すのは、ちと惜しいが……。
今夜は気分が良い。
今回の働きの褒美に特別だ、持って行け」
「ありがとうござます」
男はもう一度、深々と頭を下げた。
「ああ、そうだ。代わりにこのシュリの剣を掛けておけ」
そう言ってテーブルの上にあった双剣をグイと突き出す。
「だが、言っておくが……褒美はこれで最後だ。
要らぬ欲を出し、あれもこれもと後で無心するなよ?」
そう言って、壁に双剣を掛け終えた男に、下がれと言わんばかりに、クイと顎で指図すると再び酒を飲み始めた。
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