華燭の城

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「酒は飲みません」

 ガルシアの傍らで跪いたまま、シュリは視線を逸らし横を向いた。 

「ほう……。ワシの酒を断るか……。
 それとも人間の酒など、けがらわしくて飲めぬか!?」 

 挑発するようなガルシアの声が頭上から降ってくる。
 だがシュリはそんなあおりの言葉など、歯牙にも掛けなかった。
 シュリのその態度に、ガルシアの片唇がわずかに上がる。

「お前は神の化身だそうだな?
 では、人間の酒も飲めぬ程に神聖なその身体は、まだけがれもなく、崇高なままなのであろうなあ……」

 ガルシアはソファーに悠々と座ったまま身を乗り出し、シュリが受け取ろうとしなかったグラスを、差し出したままの形でゆっくりと傾けた。
 斜めになったグラスの口からトポトポとシュリの胸元へ酒が滴り落ち、白いシャツの胸元がワインの色でゆっくりと朱に染まっていく。

「……っ!」

「何度も同じことを言わせるな!
 ワシに逆らう事は絶対に許さん!」

 突然ガルシアの手が伸び、シュリの赤く染まったシャツの胸元をグイと掴み上げた。
 その反動でボタンが引き千切ぎれ、わずかに胸元が露わになる。

「……! ……何をする!!」

 シュリは反射的に立ち上がり、悠然と座るガルシアを上から睨みつけた。

「どうやらお前は、父に対する礼儀を知らんと見える。
 しつけを一から、し直さねばならんようだ」

 持っていたグラスをテーブルへ置くと、ガルシアもゆっくりと腰を上げる。
 眼前に立ったガルシアの体は見上げる程大きく、細身のシュリの何倍にも見えた。
 その筋肉の塊のような体が、触れる程の近くにあり、闘将として名をせた風体は、威圧感さえ与える。
 
 だがシュリもひるみはしなかった。

「言われた通り酌はしました。
 もう部屋へ戻らせていただきます」
 
 破られたシャツのまま、真っ直ぐにガルシアを見上げ睨みつけた後、シュリはきびすを返した。

 扉へ向かって歩き始めたシュリの後ろで、ガルシアが怒鳴った。

「おい、誰が戻ってもよいと言った!
 お前の国の命運は、ワシが握っているのだぞ!
 拒否権はないと最初に言ったはずだ!
 もう少し利口になれ……ともな」

「……では! いったい私にどうしろと!!」

 立ち止まったシュリが、背を向けたままガルシアの言葉に叫んだ。

「脱げ、ここで裸になれ」
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