華燭の城

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 そこもかなり広い部屋だった。
 廊下と同じく電灯は点いておらず、明りは暖炉の炎と燭台に立てられた数多くの蝋燭だけだ。
 そのせいか、ここも薄暗くひどく重苦しい。

 その暗い部屋の中央で、一点だけ不気味な程に不似合いな真紅の大きなソファーにガルシアが座り、こちらを見ていた。
 炎に照らされた大きな影が壁にユラユラと揺れている。

「ラウム、お前はそこで待っていろ」  
 
 シュリの後ろに立つラウにそう顎で指示すると、
「シュリ、こっちへ来い」 
 ゆっくりと手招きをする。

「シュリ様、陛下のお側へ」
 ラウはそれだけ言うと頭を下げ、そのまま入口の脇に立った。

 シュリは無言のままガルシアの数メートル手前まで進んだが、そこでピタリと足を止めた。 

「もっと側に来い」
 ガルシアは手に空のグラスを取ると、シュリの方へと向ける。

「酌をしろ」


 自分の父よりも年上と思われるガルシア。
 妃も亡くなったばかりで、世継ぎの子もいないという。
 家族と言える者が誰も居ないこの巨大な石の城でたった独り……。 
 ラウの話を聞いた時は、このガルシアにわずかな哀れみさえ感じた。

 だが、再びこうしてその顔を見てその声を聞くと、この男が自分の国に、そして自分の家族に、民に、銃を向けたのだという事実がどうしても許せなかった。
 それ以上側に寄る気になれず、シュリは立ち止まったままじっとガルシアを睨み続けた。

「聞こえないのか! さっさとしろ!」
 
 黙ったまま動こうとしないシュリに、ガルシアは苛立ちの声を上げる。

「今日からワシがお前の父王だ。
 父に逆らう事は絶対に許さん!
 さあ、ひざまづき酒をつげ。
 逆らえば、どうなるか……わかっているのだろうな?
 できぬと言うなら、お前の弟をここへ連れて来て、代わりに酌をさせてもよいのだぞ!」

 それだけ怒鳴るとガルシアは、側にあった酒瓶を握りグイと差し出した。

「……卑怯な……」
 
 だが、従うしかなかった。
 シュリはガルシアの前まで行くと、ゆっくりとその足元に跪き、差し出された酒瓶を受け取った。
 唇を噛んで、それをガルシアの持つグラスへ傾けると、朱の酒が静かにグラスを満たしていく。

「そうだ、それで良い。
 最初から大人しくそうしていろ。いちいち言わせるな」

 ガルシアは薄く嗤うと、注がれた酒を一気にあおり、空になったグラスをトンとテーブルに置いた。

 そして今度は、自らがそのグラスへなみなみと酒を注ぎ、
「今度はお前が飲め」
 と、シュリに差し出した。
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