華燭の城

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「ラウ……? ガルシアの部屋へ行くんじゃないのか?
 居室は真っ直ぐだと……」
「いえ、こちらへ」

 振り向きもせず、先を進むラウを不思議に思いながらも後を追うと、正面にはまた大きな両開きの黒い鉄扉が見えていた。
 ふちには見事な銀細工が施されてはいるが、ひどく頑丈で重そうなその鉄製の漆黒の扉は、今までの煌びやかさとは正反対のズッシリと重く暗い、陰鬱とする雰囲気を漂わせていた。
 その扉の放つ気の暗さにシュリは思わず眉をひそめ、足を止める。
 自身の心臓を否応いやおうなしに押さえ付けられるような嫌な圧迫感。
 
 だめだ……。
 ここに入ってはいけない……。
 そんな感覚に無意識の防衛本能が働き、シュリは自分の胸に手を当て拳を握り締める。

 だがラウは慣れているのか、そんなシュリに構う事なく扉をノックし声を掛ける。
 するとそれは、中からゆっくりと押し開けられていった。

 奥に続くのは電灯ではなく、蝋燭が壁にポツポツと並ぶほの暗い廊下。
 真紅の絨毯も無くなり石畳だけの床になる。
 その先は、まだ数十メートルも続き正面にはまた次の扉が見えていた。

「また扉……。
 どうして一本の通路に、こんなに扉ばかり……」

 怪訝そうなシュリの問いを余所にラウが口を開いた。

「シュリ様、あの突き当たりの部屋で陛下がお待ちです。
 これからは度々、陛下がシュリ様をあちらへお呼びになられると思いますが、この扉だけは今のように扉番によって開けられます。
 普段は私がこうやってお供致しますが、もし私がいない時は、ご自分でお声を掛けてください。
 深夜、ここは少し暗くなりますので迷われないように」
 
「深夜……?」

 聞き返したが、シンと静まり返る薄暗い廊下で、その返事は戻って来なかった。


 たった今、黒い扉を内側から押し開けた二人の若い男は、それぞれが廊下の左右に分かれて立ち、ただ黙って真っ直ぐに何もない扉に直立不動に向かっている。
 服装も二人揃って全身が黒づくめで、その息づかいさえも聞こえはしない。
 まるで黒い扉に……漆黒の暗闇に自ら溶け込もうとしているかのようで、シュリの存在さえ意識に置いている様子はない。
 いや、あえて言うなら “何も見てはならない” そんな雰囲気だった。
 その二人の、あまりにも異様な雰囲気から目が離せなくなり、シュリは立ち止まったまま動けずにいた。

「シュリ様、その二人は何も見ない、何も聞かない、話さない、感じない。
 ただの人形とでも思ってください」

 それだけ言うと、シュリを促し、ラウは再び奥の扉に向かって歩き始めた。

「人形……? なぜそんな……」
 その答えも勿論、返っては来なかった。



「こちらでございます」
 ラウが扉をノックすると、中から「入れ」と、あのガルシアの声がした。
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