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コツコツと足音の響く廊下を二人は並んで歩いていた。
杖をついてはいるがラウの歩みは遅くはなく、この城は戦さの為に、ガルシアが中世の頑強な古城を移設させたのだと説明してくれた。
そう言われてみれば、丘を丸ごと使い、周囲を堀で固めたこの城は、まさに戦さのためにあるような造りだ。
古めかしく冷たいという印象も中世の石城と言うなら納得がいく。
だが、あの外壁の素晴らしい彫刻は近代の技術でしか成し得ない。
あれはガルシアが彫らせたのだろう。
「ですが、中の設備は移設時に現代の物に取り変えられていますから、電気も水道もちゃんと使えますよ」
そんな事を漠然と考えていると、黙ったままのシュリを心配したのだろうか……ラウが、わずかに首を傾げて目線を合わせ優しく微笑んだ。
すれ違う臣下達は、シュリのために道を開け、廊下の端に寄って片膝を付き、右手を左胸に当てるという最上位の礼を尽くした。
使用人達も、ラウと一緒に居るのがシュリだとわかっているのか、礼の作法を知らぬなりにも喜びの表情で何度も繰り返し頭を下げて行く。
中には本当の神にでも祈るように、
「ありがとうございます。ありがとうございます」と崇め、手を組み祈る者さえいる。
その顔は皆、一様に嬉しそうだった。
「本当に皆、私が望んでここへ来たと思っているんだな……」
そんな臣下の顔を見ながらシュリが呟いた。
「はい」
ラウが小さく頭を下げて返事をする。
そして、突き当たりにある扉の前でラウは立ち止まった。
「この向こうが、陛下のおられる主棟になります。
ここから先は何人であっても、陛下の許可が無ければ立ち入る事はできません」
扉を開けるとそこは、廊下にも真紅の絨毯が敷き詰められ、凝った柱や天井など造りは一段と煌びやかになる。
「ラウ、この城に侍女やメイド、女性は居ないのか?」
許可のある者しか入れない、というだけあって、すれ違う人間の数は一気に少なくなったが、それよりも……今日、城へ入ってから見た者が全て男だった事をシュリは不思議に思っていた。
普通ならば、食事の支度や身の回りの世話など、城には多くの女性達が働いているものだ。
「女性、ですか……。そうですね。
城の最下層、下働きにはわずかに老女もおりますが、城内のほぼ全てが男子です。
この主棟に限っては、出入りできるのも男子のみ。
陛下は女性がお嫌いなのです」
「嫌いって……では、妃はどこに?」
自分より少し背の高いラウを見上げるようにしてシュリが顔を上げる。
「妃様は、先日お亡くなりになりました」
「亡くなった……?」
「はい。ですからシュリ様、陛下の前では妃様のお話はされない方がよろしいかと」
「そうか……妃が……」
目を伏せるシュリに、
「このまま真っ直ぐ行くと、陛下の居室があります」
二手に分かれた廊下角で足を止めたラウがそう告げる。
シュリがそれに頷くと、ラウはなぜか、その角を曲がって歩き始めた。
杖をついてはいるがラウの歩みは遅くはなく、この城は戦さの為に、ガルシアが中世の頑強な古城を移設させたのだと説明してくれた。
そう言われてみれば、丘を丸ごと使い、周囲を堀で固めたこの城は、まさに戦さのためにあるような造りだ。
古めかしく冷たいという印象も中世の石城と言うなら納得がいく。
だが、あの外壁の素晴らしい彫刻は近代の技術でしか成し得ない。
あれはガルシアが彫らせたのだろう。
「ですが、中の設備は移設時に現代の物に取り変えられていますから、電気も水道もちゃんと使えますよ」
そんな事を漠然と考えていると、黙ったままのシュリを心配したのだろうか……ラウが、わずかに首を傾げて目線を合わせ優しく微笑んだ。
すれ違う臣下達は、シュリのために道を開け、廊下の端に寄って片膝を付き、右手を左胸に当てるという最上位の礼を尽くした。
使用人達も、ラウと一緒に居るのがシュリだとわかっているのか、礼の作法を知らぬなりにも喜びの表情で何度も繰り返し頭を下げて行く。
中には本当の神にでも祈るように、
「ありがとうございます。ありがとうございます」と崇め、手を組み祈る者さえいる。
その顔は皆、一様に嬉しそうだった。
「本当に皆、私が望んでここへ来たと思っているんだな……」
そんな臣下の顔を見ながらシュリが呟いた。
「はい」
ラウが小さく頭を下げて返事をする。
そして、突き当たりにある扉の前でラウは立ち止まった。
「この向こうが、陛下のおられる主棟になります。
ここから先は何人であっても、陛下の許可が無ければ立ち入る事はできません」
扉を開けるとそこは、廊下にも真紅の絨毯が敷き詰められ、凝った柱や天井など造りは一段と煌びやかになる。
「ラウ、この城に侍女やメイド、女性は居ないのか?」
許可のある者しか入れない、というだけあって、すれ違う人間の数は一気に少なくなったが、それよりも……今日、城へ入ってから見た者が全て男だった事をシュリは不思議に思っていた。
普通ならば、食事の支度や身の回りの世話など、城には多くの女性達が働いているものだ。
「女性、ですか……。そうですね。
城の最下層、下働きにはわずかに老女もおりますが、城内のほぼ全てが男子です。
この主棟に限っては、出入りできるのも男子のみ。
陛下は女性がお嫌いなのです」
「嫌いって……では、妃はどこに?」
自分より少し背の高いラウを見上げるようにしてシュリが顔を上げる。
「妃様は、先日お亡くなりになりました」
「亡くなった……?」
「はい。ですからシュリ様、陛下の前では妃様のお話はされない方がよろしいかと」
「そうか……妃が……」
目を伏せるシュリに、
「このまま真っ直ぐ行くと、陛下の居室があります」
二手に分かれた廊下角で足を止めたラウがそう告げる。
シュリがそれに頷くと、ラウはなぜか、その角を曲がって歩き始めた。
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