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「シュリ様、まだ状況が判らず戸惑っておいでだと思いますが、先ほど下で出迎えた役人の方々、兵士、使用人達はもとより、この国の民まで……。
ほぼ全ての者が、シュリ様は……ご自分から望んでこの国に来られた……と、そう思っております」
「……望んで? ……そう思っている……?
……とは、どういう事だ……?」
隣に立つ背の高いラウを見上げるようにしてシュリが顔を上げた。
「はい、今回のこの件は……」
一度言葉を切った後、改めてシュリの目を見つめラウが続けた。
「神国の方から我が国に持ち掛けられた話。と言う事です。
シュリ様を是非、跡継ぎとしてこの国に貰って欲しいと……」
「なっ……! 何を……! そんな馬鹿な話が……!!
貰ってくれなど、自ら望んでなど……誰が来るものか!!」
余りにも無茶苦茶な話に、シュリが思わず立ち上がる。
足にぶつかった重厚なテーブルがガタンと動き、上に置かれていた水差しもカタカタと揺れる。
繊細なカットが施されたグラスも、その振動に共鳴するかのように高い音を鳴らした。だが、そんな物はシュリの眼中には入っていなかった。
目の前に立つラウに向かい、
「あり得ない!」
顔を小さく横に振りながら抗議の声を上げ、その拳はラウの上着の胸元を掴むように握り締めた。
「はい。私はシュリ様の世話役に選ばれた時、陛下から直にお話を伺いました。
ですから、事の真実を存じております」
ラウがそのシュリの手に、自分の空いている右手を優しくそっと重ねる。
「……ですが、その真実を知る者はこの城でもほんのわずかなのです。
そしてこれは、絶対に他言無用。
もしこれを誰かに、ほんの少しでも漏らされた場合は……」
「……その時はまた、私の国に攻め込むと……!
……そう言うのか!」
「一介の世話役である私にはわかりません。
ですが、陛下はそうされるおつもりではないかと……」
「自国の……全ての国民や役人にまで嘘をつくのか……!
皆をずっと騙す事になるんだぞ!
そんな事が……」
「嘘にもいろいろあります。
絶対についてはいけない嘘。
つかなければならない嘘。
ついた方が良い嘘……。
そしてこれは、ついた方が良い嘘だと、両国民のためでもあると陛下は仰られました。
一歩間違えば、戦さになっていたかもしれない……などと言う恐ろしい話は、何も知らず平和に暮らす国民には、ショックが大き過ぎるのです。
しかも攻めた相手が神国となれば、これはもう神への冒涜……。
この国の民も動揺するでしょう。
正直、私がそうでしたから……。
それに……自分達を守るために、シュリ様お一人が犠牲になられたと知れば、神国の民も悲しみます。
シュリ様は、世継ぎの居ないこの国の行く末を案じられ、両国の恒久の平和を願い、自ら望まれてこの国へ来られたのです」
「……なんて……。なんて都合のいい勝手な筋書きだ……!」
話を聞いていたシュリの手が再び強くラウの上着を握り締め、唇を噛んだ。
「……はい、承知しております」
一瞬、目を伏せながらも強い頷きと共に返されたその短い一言は、それでも全てを呑み込めと、そう言っていた。
「……クっ……!」
シュリの頭の中を、また“何も知らなければ……”と言ったガルシアの声がグルグルと渦巻く。
突き放すようにラウの体から手を離したシュリは、ドサリとソファーに体を沈め、俯き、そのまま長い時間じっと何かを考えていた。
ラウも黙ったままシュリの横に立ち微動だにしない。
徐々に暗さを増していく室内。
窓の外はすでに漆黒となっていた。
強くなった風がガラス窓を叩き始めた頃、シュリはようやく小さく息を吐き、ポツリ……と、溜息混じりに口を開いた。
ほぼ全ての者が、シュリ様は……ご自分から望んでこの国に来られた……と、そう思っております」
「……望んで? ……そう思っている……?
……とは、どういう事だ……?」
隣に立つ背の高いラウを見上げるようにしてシュリが顔を上げた。
「はい、今回のこの件は……」
一度言葉を切った後、改めてシュリの目を見つめラウが続けた。
「神国の方から我が国に持ち掛けられた話。と言う事です。
シュリ様を是非、跡継ぎとしてこの国に貰って欲しいと……」
「なっ……! 何を……! そんな馬鹿な話が……!!
貰ってくれなど、自ら望んでなど……誰が来るものか!!」
余りにも無茶苦茶な話に、シュリが思わず立ち上がる。
足にぶつかった重厚なテーブルがガタンと動き、上に置かれていた水差しもカタカタと揺れる。
繊細なカットが施されたグラスも、その振動に共鳴するかのように高い音を鳴らした。だが、そんな物はシュリの眼中には入っていなかった。
目の前に立つラウに向かい、
「あり得ない!」
顔を小さく横に振りながら抗議の声を上げ、その拳はラウの上着の胸元を掴むように握り締めた。
「はい。私はシュリ様の世話役に選ばれた時、陛下から直にお話を伺いました。
ですから、事の真実を存じております」
ラウがそのシュリの手に、自分の空いている右手を優しくそっと重ねる。
「……ですが、その真実を知る者はこの城でもほんのわずかなのです。
そしてこれは、絶対に他言無用。
もしこれを誰かに、ほんの少しでも漏らされた場合は……」
「……その時はまた、私の国に攻め込むと……!
……そう言うのか!」
「一介の世話役である私にはわかりません。
ですが、陛下はそうされるおつもりではないかと……」
「自国の……全ての国民や役人にまで嘘をつくのか……!
皆をずっと騙す事になるんだぞ!
そんな事が……」
「嘘にもいろいろあります。
絶対についてはいけない嘘。
つかなければならない嘘。
ついた方が良い嘘……。
そしてこれは、ついた方が良い嘘だと、両国民のためでもあると陛下は仰られました。
一歩間違えば、戦さになっていたかもしれない……などと言う恐ろしい話は、何も知らず平和に暮らす国民には、ショックが大き過ぎるのです。
しかも攻めた相手が神国となれば、これはもう神への冒涜……。
この国の民も動揺するでしょう。
正直、私がそうでしたから……。
それに……自分達を守るために、シュリ様お一人が犠牲になられたと知れば、神国の民も悲しみます。
シュリ様は、世継ぎの居ないこの国の行く末を案じられ、両国の恒久の平和を願い、自ら望まれてこの国へ来られたのです」
「……なんて……。なんて都合のいい勝手な筋書きだ……!」
話を聞いていたシュリの手が再び強くラウの上着を握り締め、唇を噛んだ。
「……はい、承知しております」
一瞬、目を伏せながらも強い頷きと共に返されたその短い一言は、それでも全てを呑み込めと、そう言っていた。
「……クっ……!」
シュリの頭の中を、また“何も知らなければ……”と言ったガルシアの声がグルグルと渦巻く。
突き放すようにラウの体から手を離したシュリは、ドサリとソファーに体を沈め、俯き、そのまま長い時間じっと何かを考えていた。
ラウも黙ったままシュリの横に立ち微動だにしない。
徐々に暗さを増していく室内。
窓の外はすでに漆黒となっていた。
強くなった風がガラス窓を叩き始めた頃、シュリはようやく小さく息を吐き、ポツリ……と、溜息混じりに口を開いた。
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