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シュリは無言のまま、その男の後に付き、ある一室へと案内された。
そこは華美では無かったが、きちんと整えられた広間程はありそうな大きな部屋だった。
左側は一面に窓らしく、金の房飾りのついたビロードの、それでいて落ち着いた濃紺色の重厚なカーテンが延々と続く。
その壁のほぼ中央辺りに大きな暖炉、一番奥に天蓋付きのベッドが見えていた。
大理石の床には柔らかな絨毯が敷かれ、足を投げ出して座ってもまだ余る程のゆったりと寛げそうな大きなソファーセット。
天井にはシンプルだがガラス細工の美しいシャンデリアがいくつも下がっている。
食事用のアンティークテーブル、右側の壁に掛けられた絵画の数々、調度品、寝具……。
どれも嫌味なく品良くまとめられ、好感が持てる物ばかりだった。
暖炉にはすでに暖かな火が入り、この大きな部屋でも寒かった外の冷気など一切感じさせることがない。
「ここがシュリ様のお部屋になります。
拝命が急でしたのでお好みがわからず、勝手に準備させていただきました。
気に入っていただけると嬉しいのですが」
案内してきた杖の男が頭を下げる。
「……ここが私の?」
「はい。足らない物、欲しい物があれば何でも仰って下さい。
これからは私が、シュリ様のお世話をさせていただきます。
何かあれば、すべて私にお言いつけ下さい」
長く美しい黒髪を背中の中央辺りで一つに束ねた背の高い男は、静かだが、よく透る声でそう言うと、もう一度、深々と頭を下げた。
「……ああ……」
未だ状況が呑みこめず、シュリはそれだけ答えるのが精一杯だった。
皇太子……。
新しいこの国の世継ぎとは名ばかりで、現実は捕虜同然。
薬を打たれ眠らされ、自国の民の命、そして家族の命と引き換えに、いきなり拉致のように連れて来られた。
これからは、この冷たい異国の城でたった一人。
どんな生活を送るのか……。
牢に幽閉され、一生陽を見る事さえできないかもしれない。
そう覚悟していたのも事実だった。
しかし、ここは……。
この暖かい部屋は……?
そしてあの純粋に喜ぶ人々は……?
シュリは自らが置かれた状況が何一つとして理解できぬまま、ただ困惑の中にいた。
だが、整った暖かな部屋と、落ち着きのあるこの静かな男の態度に少しだけ安堵したのも、また事実だった。
そこは華美では無かったが、きちんと整えられた広間程はありそうな大きな部屋だった。
左側は一面に窓らしく、金の房飾りのついたビロードの、それでいて落ち着いた濃紺色の重厚なカーテンが延々と続く。
その壁のほぼ中央辺りに大きな暖炉、一番奥に天蓋付きのベッドが見えていた。
大理石の床には柔らかな絨毯が敷かれ、足を投げ出して座ってもまだ余る程のゆったりと寛げそうな大きなソファーセット。
天井にはシンプルだがガラス細工の美しいシャンデリアがいくつも下がっている。
食事用のアンティークテーブル、右側の壁に掛けられた絵画の数々、調度品、寝具……。
どれも嫌味なく品良くまとめられ、好感が持てる物ばかりだった。
暖炉にはすでに暖かな火が入り、この大きな部屋でも寒かった外の冷気など一切感じさせることがない。
「ここがシュリ様のお部屋になります。
拝命が急でしたのでお好みがわからず、勝手に準備させていただきました。
気に入っていただけると嬉しいのですが」
案内してきた杖の男が頭を下げる。
「……ここが私の?」
「はい。足らない物、欲しい物があれば何でも仰って下さい。
これからは私が、シュリ様のお世話をさせていただきます。
何かあれば、すべて私にお言いつけ下さい」
長く美しい黒髪を背中の中央辺りで一つに束ねた背の高い男は、静かだが、よく透る声でそう言うと、もう一度、深々と頭を下げた。
「……ああ……」
未だ状況が呑みこめず、シュリはそれだけ答えるのが精一杯だった。
皇太子……。
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薬を打たれ眠らされ、自国の民の命、そして家族の命と引き換えに、いきなり拉致のように連れて来られた。
これからは、この冷たい異国の城でたった一人。
どんな生活を送るのか……。
牢に幽閉され、一生陽を見る事さえできないかもしれない。
そう覚悟していたのも事実だった。
しかし、ここは……。
この暖かい部屋は……?
そしてあの純粋に喜ぶ人々は……?
シュリは自らが置かれた状況が何一つとして理解できぬまま、ただ困惑の中にいた。
だが、整った暖かな部屋と、落ち着きのあるこの静かな男の態度に少しだけ安堵したのも、また事実だった。
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