華燭の城

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 外見はまるで人の温か味など感じられない冷たい石造りの城だったが、その城内では役人や臣下、使用人達が慌ただしく行き来し、今日、世継ぎとしてやってくる神国の皇子を歓迎すべく、その準備に追われていた。

「あの神の子が我が国の世継ぎ様になられるぞ!」

「なんとめでたい事だ!」

「それはそれは美しい方だぞ! 私は一度その舞を見たことがあるのだ」

「先方より我が国に、是非とも皇子を……と、打診があったそうだ」

「それもこれも全て陛下のお力があっての事! 
 さすが我が陛下、ガルシア様だ!」

 行き交う人々があちらこちらでそんな会話を交わし、城内は活気と喜びに溢れていた。



 皇子を出迎えに行った王一行が戻ったと連絡が入ると誰言うとなく、役人以下……手の空いている使用人までもが正面の大ホールに続々と集まって来る。
 初めのうちこそ輪になり塊になりし祝話に興じていたが、いつしか扉前に自然と整列し、今か今かとその時が来るのを待っていた。

 そしてやっと「陛下のお帰りでございます!」と声がし、その重厚な扉が開かれると、臣下の兵は一斉に片膝を地につき礼を示し、役人達は深々とこうべを垂れる。

 その迎列の中央へ、多くの私兵――黒服の側近達に守られながら、満足気にゆっくりと歩み入る国王ガルシア。
 と、その後に続く一人の青年。


「ほ、本当にシュリ様だ……!」
 その姿を一目見ようと、恐る恐るに顔を上げた一人の男が思わず声をあげた。
 それは過去に舞を見たことがある、そう言っていたあの役人だった。

「おお……!」 
 その声に場内が一斉にどよめいた。


 ガルシアは右手を軽く挙げそれを制すると、
「皆、出迎えご苦労。
 すでに話は聞いている事だろう。
 本日、我が国は、神国のシュリ皇子を世継ぎとして迎えた!
 早速披露目もしたいところだが、長旅だ。
 まずは一休みし、準備を整えた後に改めて宴を開く事にする。
 これからは祝宴が続くぞ! 存分に楽しむがいい!」

「おおっーー!!」
 そのガルシアの言葉に大歓声が上がった。


「シュリ様ーー!」
「シュリ様ようこそーー!」

 諸所で歓迎の声が上がり大きな拍手が沸き起こった。
 皆、隣の者と手を取り合い、頷き、笑い合っている。

 外の冷たい空気から一変、熱いほどの歓喜に包まれたその空間で、シュリはただ一人、その光景を理解できずにいた。
 黙ったまま、ただ茫然と喜ぶ人々を見つめ続けるしかなかった。


「シュリを部屋へ連れて行け」

 人々の中へガルシアが声を掛けると、出迎えの列の最後尾にいた一人の若い男が、
「シュリ様、こちらへ……」と、杖をつきながら歩み出た。
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