華燭の城

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「いったい、この事態をどう考えれば良いのだ……」

「この数年で何人の妃様が亡くなった?
 この国は呪われているのか……」



 窓の下―― 
 小雨が降る中、石畳の庭を横切るようにして棺が運び出されていく。
 その葬列を見ながら、広間に集まったこの国の役人達は、ヒソヒソと声を潜めていた。


「六人か……いや、すでに七人……。
 誰も世継ぎ様を産まないまま、皆が皆、相次いで病死されるとは……」

「我が陛下も、もう50代だぞ。
 早く世継ぎを決めていただかなくては、国の行く末が危ぶまれる……」

「おい、あの噂は聞いた事があるか……?」

「噂と言うのは……例の、あの……」




「うるさいぞ、お前達」

 広間に太く低く響くその声にビクンと身を震わせ、その場にいた誰もが入口を振り返った。
 そこには数人の側近を従えた大きな男が立ち、薄い唇を歪ませている。

 窓を打つ雨さえも凍り付かせようかという静寂が一瞬で広間を支配し、皆、その危うい冷気に触れぬよう、一斉に深々と頭を垂れ視線を床に這わせた。

「こ……これは陛下……!
 御葬儀の方はもうよろしいのですか……?」
 
 慌てて一人の役人が声を掛けた。

「こんな雨の日に葬儀など面倒なだけだ。
 死んだ女など見たくもない。
 どうせ、この国の水が合わなかったのだ」

「しかし……」

 集まった役人の中でも白髪の……長らしき老人が、誠に恐縮ですが。と一歩前に歩み出た。


「しかし、陛下……。 
 いくら我が国が大国とはいえ、近隣諸国では戦火も絶えません。
 今はまだ、我が国が大国ゆえ、戦さを仕掛けてくるような馬鹿なやからはおりませぬが、世継ぎ様も無く、弱体化するだけの国などと噂が広まれば、いつ攻め込まれてもおかしくはございません……。
 ここは一刻も早く世継ぎ様を決め、この国は盤石であると皆に力を示さなければ……」

 長老が矢面に立った事で気を大きくしたのか、側にいた赤毛の役人も声をあげた。

「そ、その通りです! 陛下!
 今は何をおいても世継ぎ様を決められる事が先決かと!
 ……じ、実は我……」

「ほう……。
 では、お前達に聞こう」

 話し続ける声を王は途中でバッサリと断ち切った。

「ワシにどうしろと言うのだ?
 どこかで泣いている子でもさらって来いというのか?
 そのような、どんな身分とも判らぬ卑しき者を跡継ぎにしろと?」

 赤毛の男を細い視線で探るようにジロリと見ながら王は広間を一番奥まで歩き、玉座にドッカと腰を下ろすと、改めて二人を鋭い目つきで睨みつけた。

「そ……それは……」

「ですから……その……」

 その眼光に、老人と赤毛の二人は怯えたように口を閉ざす。


 再び静まり返った広間に、本降りになった雨のガラス窓を叩く音だけが一層大きく響き渡った。
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