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第6章 時の揺り籠
6-8 カノコは地球で何を想うのか
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時は少し戻って、兎神一族の集まりでの事。
兎神は悩む。考えている内容は、もちろん司の事だ。彼の仕事、生き甲斐は司に仕えること。彼にとっての司は王も同然なのだから。兎神は王の剣であり、盾。だから、兎神は悩んでいた。
「あれは、危険です。今は無害を装っていますが、いずれ何か問題を起こす予感がします。司様は手元に置く気のようですが、今後のリスクを考えれば、人知れず遠ざけることが望ましいのは明らか」
司が決定して、兎神に指示したことは、王命と同じ。基本的に絶対順守に値する内容だ。しかし、王とて人、判断を間違うこともある。些細な内容ならば良い。周りが、兎神たちがフォローしさえすればいいのだから。だが、致命的な要素は1つとて許容できない。
「しかし、あれは司様の決定です。司様の意向を無視したり、相談と承諾なしで実行したりすれば危険ではありませんか? 司様の信用を失うような行動は絶対に慎むべきです。我らは司様あっての兎神一族なのですから。もし司様の信を無くしてしまったら、私はこの先を生きていく自信がありません」
「蒼花の言う通りです。司様がお決めになったことを我々が覆すべきではありません。あれは泳がせるとして、情報漏えいと離反対策を徹底するのがベストだと思います。リリちゃんが反応しなかったのは意外でしたが、司様とて気を許しているわけではありません。しばらくは、我々の誰かが目を光らせておくのが望ましいのでは?」
兎神の問いかけに、蒼花と橙花が異を唱える。
「無論、司様の意に反する行動は論外です。当面は司様への説得と、監視で何とかするしかないでしょう。しかし、僅かな傷から全身を蝕み、致命傷に至る可能性を秘めるものも存在するのです。私の予感では、あれは『毒』。それも猛毒の類です。決して、油断することはできません。我らは、王を失うわけにはいかない」
暗殺。
人類の歴史を遡って、遥か昔から行われている蛮行。
特定の個人を狙って行うそれは、原始的で、効率的で、経済的な手法。
そして、行われた場合、極めて回避の難しい唾棄すべき非人道的な行為。
「万が一、は許されない。少しでも危険な兆候が見られた場合は、各自の判断で処置しなさい。あなたたちに責が及ぶことはありません。私が全ての責を負うことを兎神の名に誓いましょう。行動した結果、司様に恨まれようとも、王の御身に勝るものはないのですから」
改めて3人は、兎神の意思決定を確認し、共有する。長い年月を彷徨い、たどり着いた場所を脅かす存在を許さない。そんな絶対的な想いを胸に秘めて兎神の一族はここに在る。
「我らは、何のためにここにいるのか。各自、今一度、思い出しましょう。司様無くして、我らの存在意義はないのです」
3人は静かに頷き合った。
一方、その頃、件の君はというと。
「ああああああ、身体がぁ、身体がぁ……」
ベッドの上で悶え苦しんでいた。ごろごろと……は出来ず、引き攣った様にピクピクとしか動いていない。
「何ですか、この現象は、身体がぁ、身体がぁ!」
重労働を終えた後、しばらくしてから飛来するもの、筋肉痛である。本人曰く、頭脳労働派のカノコには干支神家での肉体労働は相当堪えた模様。
「リリが変な声が聞こえるっていうから、心配になって見に来てみれば、筋肉痛かよ」
屋敷に響く奇声を不審に思った司が、リリと一緒にやってきた。兎神たちが真剣な話をしているのに、本人がのこのことやってきてしまったようだ。
「カノコさんはどうされたんですか?」
「リリ、カノコは筋肉痛になったみたい。俺も前になっただろう? 身体が、ギギギってなっちゃうやつ」
「ああ! あれですね! ギギギ!」
リリが言うと筋肉痛も楽しそうである。尤も、リリは筋肉痛になったことはないので、
司がギギギっとなっていたのを見た感想を覚えているようだが。
「筋肉痛? これ、何?」
「運動をしたことで身体の筋細胞が壊れたから、その痛みだよ。昼間に宗司さんが言ってただろう? 今、筋肉は回復しようとしているんだ。身体はそうやって鍛えていくんだよ」
「なるほど、これが……」
カノコは実際に自分が体験してみて、原理が理解できたようだった。
「ぴぃぃぃぃぃ! ぴぴ?」
「ぎゃああああああ!」
そんなところへ、クーシュが無慈悲のヘッドダイビングを敢行する。惨い。
しかも、あれ? 飛びつく先を間違えたと言わんばかりの塩対応。即座にカノコから離れて司に飛びつく。どうやら起きたら司たちがいなくなっていたので心細くなったらしい。夜泣きみたいなものである。
「クーシュ、急に人に飛びついちゃダメって言ったろう? 危ないから」
正直、クーシュの頭突きはかなりの破壊力がある。出会った当初、直撃した司を吹き飛ばしたくらいである。もはや、交通事故と何ら変わらない。
「酷い……でも、こんな思いをしてまで身体を鍛えていたんだね。宗司は」
おや? 何か雲行きが怪しくなってきているようだが……気のせいだろうか?
兎神は悩む。考えている内容は、もちろん司の事だ。彼の仕事、生き甲斐は司に仕えること。彼にとっての司は王も同然なのだから。兎神は王の剣であり、盾。だから、兎神は悩んでいた。
「あれは、危険です。今は無害を装っていますが、いずれ何か問題を起こす予感がします。司様は手元に置く気のようですが、今後のリスクを考えれば、人知れず遠ざけることが望ましいのは明らか」
司が決定して、兎神に指示したことは、王命と同じ。基本的に絶対順守に値する内容だ。しかし、王とて人、判断を間違うこともある。些細な内容ならば良い。周りが、兎神たちがフォローしさえすればいいのだから。だが、致命的な要素は1つとて許容できない。
「しかし、あれは司様の決定です。司様の意向を無視したり、相談と承諾なしで実行したりすれば危険ではありませんか? 司様の信用を失うような行動は絶対に慎むべきです。我らは司様あっての兎神一族なのですから。もし司様の信を無くしてしまったら、私はこの先を生きていく自信がありません」
「蒼花の言う通りです。司様がお決めになったことを我々が覆すべきではありません。あれは泳がせるとして、情報漏えいと離反対策を徹底するのがベストだと思います。リリちゃんが反応しなかったのは意外でしたが、司様とて気を許しているわけではありません。しばらくは、我々の誰かが目を光らせておくのが望ましいのでは?」
兎神の問いかけに、蒼花と橙花が異を唱える。
「無論、司様の意に反する行動は論外です。当面は司様への説得と、監視で何とかするしかないでしょう。しかし、僅かな傷から全身を蝕み、致命傷に至る可能性を秘めるものも存在するのです。私の予感では、あれは『毒』。それも猛毒の類です。決して、油断することはできません。我らは、王を失うわけにはいかない」
暗殺。
人類の歴史を遡って、遥か昔から行われている蛮行。
特定の個人を狙って行うそれは、原始的で、効率的で、経済的な手法。
そして、行われた場合、極めて回避の難しい唾棄すべき非人道的な行為。
「万が一、は許されない。少しでも危険な兆候が見られた場合は、各自の判断で処置しなさい。あなたたちに責が及ぶことはありません。私が全ての責を負うことを兎神の名に誓いましょう。行動した結果、司様に恨まれようとも、王の御身に勝るものはないのですから」
改めて3人は、兎神の意思決定を確認し、共有する。長い年月を彷徨い、たどり着いた場所を脅かす存在を許さない。そんな絶対的な想いを胸に秘めて兎神の一族はここに在る。
「我らは、何のためにここにいるのか。各自、今一度、思い出しましょう。司様無くして、我らの存在意義はないのです」
3人は静かに頷き合った。
一方、その頃、件の君はというと。
「ああああああ、身体がぁ、身体がぁ……」
ベッドの上で悶え苦しんでいた。ごろごろと……は出来ず、引き攣った様にピクピクとしか動いていない。
「何ですか、この現象は、身体がぁ、身体がぁ!」
重労働を終えた後、しばらくしてから飛来するもの、筋肉痛である。本人曰く、頭脳労働派のカノコには干支神家での肉体労働は相当堪えた模様。
「リリが変な声が聞こえるっていうから、心配になって見に来てみれば、筋肉痛かよ」
屋敷に響く奇声を不審に思った司が、リリと一緒にやってきた。兎神たちが真剣な話をしているのに、本人がのこのことやってきてしまったようだ。
「カノコさんはどうされたんですか?」
「リリ、カノコは筋肉痛になったみたい。俺も前になっただろう? 身体が、ギギギってなっちゃうやつ」
「ああ! あれですね! ギギギ!」
リリが言うと筋肉痛も楽しそうである。尤も、リリは筋肉痛になったことはないので、
司がギギギっとなっていたのを見た感想を覚えているようだが。
「筋肉痛? これ、何?」
「運動をしたことで身体の筋細胞が壊れたから、その痛みだよ。昼間に宗司さんが言ってただろう? 今、筋肉は回復しようとしているんだ。身体はそうやって鍛えていくんだよ」
「なるほど、これが……」
カノコは実際に自分が体験してみて、原理が理解できたようだった。
「ぴぃぃぃぃぃ! ぴぴ?」
「ぎゃああああああ!」
そんなところへ、クーシュが無慈悲のヘッドダイビングを敢行する。惨い。
しかも、あれ? 飛びつく先を間違えたと言わんばかりの塩対応。即座にカノコから離れて司に飛びつく。どうやら起きたら司たちがいなくなっていたので心細くなったらしい。夜泣きみたいなものである。
「クーシュ、急に人に飛びついちゃダメって言ったろう? 危ないから」
正直、クーシュの頭突きはかなりの破壊力がある。出会った当初、直撃した司を吹き飛ばしたくらいである。もはや、交通事故と何ら変わらない。
「酷い……でも、こんな思いをしてまで身体を鍛えていたんだね。宗司は」
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