209 / 278
第6章 時の揺り籠
6-6 3人娘の悪巧み
しおりを挟む
これは、ある日の夜の出来事。
『それで~、そのカノコさんでしたっけ? 司さんの秘書さんみたいな感じなんですかね? お話を聞く限りはそんな印象を受けましたけど~。でも、年頃の男女が同じ屋根の下で寝泊まりするなんて、舞ちゃんとしてはアリなんです?』
「まぁ、直接会ってみた感じは大丈夫そうでした。勿論、釘も刺しておきましたけどね。秘書というよりは、ホームステイ? みたいな感じでしたね。司さんのお屋敷で橙花さんたちに色々と教えてもらって過ごしているみたいです」
『ふむ、司も隅に置けない。私たちという女子が周りに居ながら、新しい女に手を出すなんて。その女のことは要確認。我々の敵になり得る存在の場合は排除を試みる。間女は死すべし、慈悲はない』
『優……司さんはあんたのなんなのさ? 舞にとっては恋人だけど、私たちはただの知り合いだよ? どの顔して、そんなこと言うつもりなのさ? 頭、大丈夫?』
順番に青葉澪、武神舞、黄瀬優、赤穂詠美のいつもの4人である。今、彼女たちが行っているのは、某ネット回線を使用したテレビ会議。話題は様々、今は司のようである。
機械オンチだった舞が苦労して習得したパソコンスキル。最初は司と連絡を取り合うためだったのだが、一度操作を覚えてしまえば応用することは容易い。舞は出来る女なのだ。とは言っても、パソコン操作を手取り足取り教えたのは澪たちなのだが。
『失礼な。私はいつだって正常。今回の調査だって舞のため。親友の幸せを願わない人がどこにいる? 私は至って真面目に考えている』
『ごめんごめん。普段からネジが飛んでる発言するものだから勘違いしてた。で、舞のためと言いつつ、本当は?』
『舞が失敗した時は、あわよくば司は私がもらう。そのための布石は全力で設置する所存』
『完全に私利私欲じゃん……アホか』
『まぁまぁ2人とも~、もう深夜なので落ち着いてくださいね~。そうですね~、この前のお願いの案件もありますし~。今度、司さんのお家にお邪魔しましょうかね~? エイミーたちはいつ頃が都合いいです?』
「澪、その件、私は聞いてないんだけど……」
『あれ~? そうでしたっけ~? おっかしいな~』
舞が問い詰めるが、澪は白を切るばかり。しかし、舞は澪が干支神家へ連絡を入れたことを司から聞いているのだから、連絡を敢えてしなかったのは完全に確信犯である。大体、こういう時の澪は碌なことを企んでいない。
「別に私に黙って何か画策することを咎めはしませんけど、もし司さんに迷惑をかけたら、許しませんからね?」
『あ、ハイ』
『大丈夫、私たちが舞を困らせることはない。ないはず。ないよ?』
「どうして、そこで疑問形になるんですか……余計に怪しいです」
『大丈夫、大丈夫! 舞にとっても悪い事にはならないから! 私たちを信用してよ!』
ここまで大丈夫のバーゲンセールをされると、逆に不安になるのが人間なのだが……会話の流れから察すると澪の企みは3人で共有されているらしい。舞だけが除け者にされているのは、吉と出るか凶と出るか。
「何か釈然としませんけど、まぁいいでしょう。でも、くれぐれも言いますけど、司さんに迷惑をかけないようにしてくださいね? わかりましたか?」
『『『あ、ハイ』』』
同時刻、干支神家では1人の女が力尽きていた。
「もうダメ……立てない……腕上がらない……動けない……」
今日も今日とて橙花たちにがっつりと雑務を仕込まれたカノコ。夕食も食べられないほどに疲労困憊しているようだ。
「情けない、最初のふてぶてしさと自信はどこにいったのですか? この程度の仕事量で根を上げるようでは我々の仕事は務まりません。今日終わらなかった分は明日に回しますので、明日はもっとやることが増えますよ」
「ううう、私、頭脳労働派なのに……」
「それよりも早く夕食を食べてくれませんか? 調理場が片付かないのですけど」
「橙花って、案外化け物よね?」
食堂で休んでいたカノコの元に、司とリリとクーシュがやってきた。
「なんだ、まだ飯食ってなかったのか?」
「橙花さん、お風呂いただきましたー!」
「ぴっぴー?」
どうやらお風呂上がりのようだ。リリの毛並みはツヤツヤと輝いている。司に丁寧にブラッシングしてもらってご機嫌の様子だ。クーシュは……体毛が短くて違いがよくわからない。
「クーシュ、ダメですよ? もう夕食分は食べたのですから、これ以上は健康によくありません。食べ過ぎで太ってしまいますから」
「ぴぃ……」
カノコがご飯を食べようとしているのを見たからか、クーシュが橙花にご飯を要求したようだ。あっさりと却下されたが。
「もう、しょうがありませんね……これをお部屋に持って行きなさい。喧嘩せずに、仲良く食べるのですよ?」
「ぴぴー!」
「クーシュ……1人で食べるのは食いしん坊すぎです! 橙花さんにみんなで分けるように言われたばかりですよ!」
橙花が懐から出した小袋を渡されて、しょんぼりしていたのが嘘のように元気になるクーシュ。中身は、ちょっと小腹が空いたときに便利なナッツとドライフルーツである。夜のおやつをもらったリリとクーシュはウキウキな気分で司の部屋に戻っていった。
「子供って、元気だよね……」
去っていく2匹を見て呟くカノコはかなり深刻そうであった。
『それで~、そのカノコさんでしたっけ? 司さんの秘書さんみたいな感じなんですかね? お話を聞く限りはそんな印象を受けましたけど~。でも、年頃の男女が同じ屋根の下で寝泊まりするなんて、舞ちゃんとしてはアリなんです?』
「まぁ、直接会ってみた感じは大丈夫そうでした。勿論、釘も刺しておきましたけどね。秘書というよりは、ホームステイ? みたいな感じでしたね。司さんのお屋敷で橙花さんたちに色々と教えてもらって過ごしているみたいです」
『ふむ、司も隅に置けない。私たちという女子が周りに居ながら、新しい女に手を出すなんて。その女のことは要確認。我々の敵になり得る存在の場合は排除を試みる。間女は死すべし、慈悲はない』
『優……司さんはあんたのなんなのさ? 舞にとっては恋人だけど、私たちはただの知り合いだよ? どの顔して、そんなこと言うつもりなのさ? 頭、大丈夫?』
順番に青葉澪、武神舞、黄瀬優、赤穂詠美のいつもの4人である。今、彼女たちが行っているのは、某ネット回線を使用したテレビ会議。話題は様々、今は司のようである。
機械オンチだった舞が苦労して習得したパソコンスキル。最初は司と連絡を取り合うためだったのだが、一度操作を覚えてしまえば応用することは容易い。舞は出来る女なのだ。とは言っても、パソコン操作を手取り足取り教えたのは澪たちなのだが。
『失礼な。私はいつだって正常。今回の調査だって舞のため。親友の幸せを願わない人がどこにいる? 私は至って真面目に考えている』
『ごめんごめん。普段からネジが飛んでる発言するものだから勘違いしてた。で、舞のためと言いつつ、本当は?』
『舞が失敗した時は、あわよくば司は私がもらう。そのための布石は全力で設置する所存』
『完全に私利私欲じゃん……アホか』
『まぁまぁ2人とも~、もう深夜なので落ち着いてくださいね~。そうですね~、この前のお願いの案件もありますし~。今度、司さんのお家にお邪魔しましょうかね~? エイミーたちはいつ頃が都合いいです?』
「澪、その件、私は聞いてないんだけど……」
『あれ~? そうでしたっけ~? おっかしいな~』
舞が問い詰めるが、澪は白を切るばかり。しかし、舞は澪が干支神家へ連絡を入れたことを司から聞いているのだから、連絡を敢えてしなかったのは完全に確信犯である。大体、こういう時の澪は碌なことを企んでいない。
「別に私に黙って何か画策することを咎めはしませんけど、もし司さんに迷惑をかけたら、許しませんからね?」
『あ、ハイ』
『大丈夫、私たちが舞を困らせることはない。ないはず。ないよ?』
「どうして、そこで疑問形になるんですか……余計に怪しいです」
『大丈夫、大丈夫! 舞にとっても悪い事にはならないから! 私たちを信用してよ!』
ここまで大丈夫のバーゲンセールをされると、逆に不安になるのが人間なのだが……会話の流れから察すると澪の企みは3人で共有されているらしい。舞だけが除け者にされているのは、吉と出るか凶と出るか。
「何か釈然としませんけど、まぁいいでしょう。でも、くれぐれも言いますけど、司さんに迷惑をかけないようにしてくださいね? わかりましたか?」
『『『あ、ハイ』』』
同時刻、干支神家では1人の女が力尽きていた。
「もうダメ……立てない……腕上がらない……動けない……」
今日も今日とて橙花たちにがっつりと雑務を仕込まれたカノコ。夕食も食べられないほどに疲労困憊しているようだ。
「情けない、最初のふてぶてしさと自信はどこにいったのですか? この程度の仕事量で根を上げるようでは我々の仕事は務まりません。今日終わらなかった分は明日に回しますので、明日はもっとやることが増えますよ」
「ううう、私、頭脳労働派なのに……」
「それよりも早く夕食を食べてくれませんか? 調理場が片付かないのですけど」
「橙花って、案外化け物よね?」
食堂で休んでいたカノコの元に、司とリリとクーシュがやってきた。
「なんだ、まだ飯食ってなかったのか?」
「橙花さん、お風呂いただきましたー!」
「ぴっぴー?」
どうやらお風呂上がりのようだ。リリの毛並みはツヤツヤと輝いている。司に丁寧にブラッシングしてもらってご機嫌の様子だ。クーシュは……体毛が短くて違いがよくわからない。
「クーシュ、ダメですよ? もう夕食分は食べたのですから、これ以上は健康によくありません。食べ過ぎで太ってしまいますから」
「ぴぃ……」
カノコがご飯を食べようとしているのを見たからか、クーシュが橙花にご飯を要求したようだ。あっさりと却下されたが。
「もう、しょうがありませんね……これをお部屋に持って行きなさい。喧嘩せずに、仲良く食べるのですよ?」
「ぴぴー!」
「クーシュ……1人で食べるのは食いしん坊すぎです! 橙花さんにみんなで分けるように言われたばかりですよ!」
橙花が懐から出した小袋を渡されて、しょんぼりしていたのが嘘のように元気になるクーシュ。中身は、ちょっと小腹が空いたときに便利なナッツとドライフルーツである。夜のおやつをもらったリリとクーシュはウキウキな気分で司の部屋に戻っていった。
「子供って、元気だよね……」
去っていく2匹を見て呟くカノコはかなり深刻そうであった。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる