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第5章 地球と彼の地を結ぶ門

5-64 地球と彼の地を結ぶ門①

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 相談を終えた男と女は、早速行動を開始していた。

「ふむふむ、ほおほお、これはこれは、なかなか」

 岩壁をぺたぺたと手で触りながら、女が入念に調べているのは、司たちが彼の世界へ移動している洞のある岩山。彼らが神域と呼ぶ場所である。ちなみに、その様子を遠目に見守る男は若干引き気味だった。

 女が男に案内されてこの場所を訪れて早3時間程、男の存在のことなど初めから無かったかのように1人で岩山を調べ続けているのだ。しかも、ぶつぶつと確認するかのような独り言をしゃべりながら延々とである。この第二位と呼ばれている女、見た目はセクシー系なキャリアウーマンのような出来る女のイメージなのに、中身はとても残念なキャラなのかもしれない。

「これ、第一位が物理破壊しようとしてもダメだったのよね?」

「散々放置して、初めてしゃべった言葉がそれですか……まぁいいでしょう。全力で殴りましたがダメでしたね、拳で」

「ふむふむ、もう一度、試してもらっていい?」

 男の非難の言葉は完全放置して自分の要求だけを伝える女。そういうものだと諦めることにした男は、言われたままに岩山に攻撃する。結果は前回と同じく、与えた衝撃が岩山周囲の空気が鳴動する。手ごたえは無く、岩山は何事もなかったように佇む。

「ふむふむ、おや? そう言う事か。もう一度、頼むよ」

 訝し気に思いながらも言われたとおり実行する男。再び、同じ現象が発生した。2回の現象を確認して女は満足そうに1つ頷いて、

「どうやら、この岩山は悪意のある攻撃には防衛機能が働くようだね。ほら、私が触れても特に何も起こらない。でも、第一位が物理破壊をしようとすると触られまいと拒絶した。ちなみに、1回でも岩山自体に拳が当たった感触はあったかい?」

「……そう言われてみれば、ありませんね。何か、透明の壁を叩いている感触です」

「今度は、心を落ち着けて触ってみてくれないか? こういう風にだ」

「……! っっつ」

 男も女がするようにゆっくりと掌で触ろうとしたが、触れるか触れないかくらいで静電気がスパークしたような音を伴って弾かれた。

「あれ? おかしいな。私が触っても何も問題はないけど、第一位が触れると弾かれる? 今は特に攻撃的な意思を伴っていないはずだが、それでも拒絶対象になる場合がある? これは要研究だな」

 これに何の差があるかわからないが、第一位が触れようとすると弾かれる、破壊を試みると防がれる。第二位は問題なく岩山を触ることができる。

 再び、ぺたぺたと岩壁に触れながら周囲を散策し始めた女。これは長くなりそうだと思った男は、少し離れて休んで待つことにしたようだ。



 一通り、知識欲を満たして満足した女は、近くに男がいないことに漸く気づいた。研究に没頭するあまり、それ以外の周りが一切見えなくなるという、研究者にありがちな現象である。

「ひどいじゃないか、私一人に働かせて、自分は休んでいるなんて。第一位は、私のヒモか何かか? 女だけに労働をさせて自分は搾取するなんてナンセンスだよ?」

 女は離れて休んでいた男に近づいてそう言ったが、今の今まで散々自分が放置しておいてそれは酷い言い草である。

「それよりも何かわかりましたか?」

「何か、私の扱いが酷い気がするが……まぁいい。驚け、どうやらこの岩山はそれぞれの生き物が持つ生体パターンを鍵として、それが自分の敵か味方かを判断している。何をどれだけくみ取っているかは要研究だが、少なくとも第一位の持つ力と思想は、コレに危険と判断されたようだ」

「……つまりは、どういうことですか?」

 女は一瞬呆れたような表情を浮かべて、

「結果だけを聞きたがる男はモテないよ? 過程も家庭も大事にしないと……おっと、話が逸れた、同じマザーから生まれた生物である私たちは、特性は違えども兄妹のようなもの。なのに、私は触れられるのに、第一位は触れられもしない。ならば、別の条件で選別されていることになる。それは何か?」

 勿体ぶった様子で説明を始めた。

「私は、条件は最低でも2つあると思っている。1つ目は、ある一定以上の力を持つ者。つまりはコレ自身が破壊されうる可能性がある生物を拒絶すること。先ほど、D級に第一位と同じことをさせてみたのだが、全く同じ現象を確認できた。攻撃が当たる前に拒絶されたし、優しく触れようにも弾かれた。しかし、私のような戦闘能力に乏しい個体は特に制限をされることはない」

「そして2つ目は、体内に保有する魔核の有無、かな」

 女がこの短い時間の検証で導き出した結論は、男には納得のいくものではなかった。

「第二位。それではあなたは、マザーの眷属たる証の魔核を、持っていないと?」

 男の表情に憤怒の感情が浮かぶ。返答1つで、今にも相手に襲い掛からんとするほどの。

「そんなに睨まないでくれるかな? 私が、魔核を持たずに生まれたことは、マザーの意思。こういう可能性を熟慮してのことだ。それを君にとやかく言われる筋合いはない」

 男の放つ殺気にひるむことなく、自分の確固たる意思を伝える女。その視線には男と同じ、彼らがマザーと呼ぶものに対する絶対の信頼が見て取れる。

 お互いに全く引く気はない。まさに、一触即発。
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