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第5章 地球と彼の地を結ぶ門
5-56 予てからの問題への光明
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時間は夜23時頃、干支神家の司の自室にて。この時間は恒例になっているテレビ電話タイム。プチ遠距離の2人にとって日常の出来事とか、ちょっとした連絡事項とか、リリも参加したりとか、色々なことを伝えるのに重宝しているのだ。しかも相手の表情が見えるのがコミュニケーションにとても有効なのである。
『えっ!? それでは、あの3人が、そっちにいったのですか?』
「ああ、突然来るから驚いたよ。少し話をして、オヤツ食って帰ったけどな」
司の前に映るのは舞である。基本的に機械オンチな舞だが、これだけは気合を入れて捜査を覚えたという乙女な一面もあった。いつも司の側にいるリリとクーシュは、既にベッドで寝ている。珍しいこともあるものだ。
『(あの3バカめぇ、私に黙って司さんに何を聞きに行ったのか……。絶対にろくなことじゃないはずです。まさか、先日のあの事を? いえ、あれは仕事の内容なので司さんが3バカにしゃべるはずがありません。だとすれば、一体何を?)司さん、あの3人と何を?』
「ん? まぁ、大したことじゃないよ。ほとんど暇つぶしみたいな感じだったさ。俺も忙しかったからな。世間話をして、適当に切り上げた」
『そうですか、あの3人が迷惑をかけていないなら問題ありません(いえ、これはきっと何か面倒くさいことがあったはずです。それも、司さんが私に言いにくい事をです。このままごり押しすれば教えてくれそうですが……いえ、だめです、私の関係者の事で迷惑をかけている場合じゃありません。明日、3バカをとっちめて吐かせればよいのです)』
「おっと、もうこんな時間か。いつの間にか、1時間くらい経ってるな。すまないが、この後少し書き物をしてから寝るから、そろそろな」
『いえ、気にしないでください。それではまた明日。あ、今週末にはお家にお伺いします。リリとクーちゃんの様子を見に行きたいので、お土産を持っていきますね。それじゃ、おやすみなさい』
「ああ、おやすみ」
お互いに夜の挨拶をしてからプログラムの窓を閉じる。しかし、通信を終えた司の顔は舞と話していた時の笑顔と違って曇っていた。
しばらく何かを考え込んでいた司だったが、思考を中断するようにノックの音がしてから部屋に橙花が入ってきた。
「司様、舞様との逢瀬は終わりましたか?」
「……それは、笑えないぞ?」
「ちょっとした冗談です。我々が時々叱咤しませんと、遅々として関係が進む気配がありませんので。いい刺激になりません? それはそうと、こちらの準備が整いましたので、参りましょう」
冗談なのか本気なのか、イマイチわからないやり取りを交わしながら、橙花と一緒に部屋を後にする司。
「遅い時間にお呼びして申し訳ありません」
司と橙花を待っていたのは、兎神と蒼花だった。机の上には何かしらの資料が折り重なって置いてあり、兎神が言う様に、その確認を行うのだろう。
「司様、先ほど依頼していたものの結果が届きました。結論から申し上げると、今回採取した作物はどれも標準サンプルМと同等かそれ以上のアンノウン栄養素、魔素を含有しているという結果でした」
その結果が示すのは、兎神たちが抱える食糧問題を解決できるかもしれないという可能性。彼らの定期的に魔素を含有する食物を摂取して体内に取り込まなければ衰弱していくという体質のためにも食物の増産が急務だったのだ。
今回試験したのは3つ。
「今回の検証では、標準サンプルにモンスタープラントから採取した果実МP、ブランクサンプルに組成が限りなく類似している地球産の果実ESを使用しました。また、評価対象には小竜の魔素水を注がれた初期成長組から果実系としてA、木の実系でB、葉物系でCとしました」
今までは橙花が散々試しても発芽しなかったという問題を抱えていた『彼の世界』産の植物たちが、小竜たちの活躍で成長を開始したことで、今後の活動方針を決めるべく色々と調査をしたのだ。
「試したのはそれぞれ、無加工状態、10分間の煮沸した状態、完全乾燥させた状態の3パターンを測定しています。サンプル10グラム当たりの魔素の含有量が最も多かったのは乾燥状態、次いで無加工状態、最後に煮沸状態のものでしたが、煮沸状態のものでも無加工状態と比べて約5%減に留まっています。逆に乾燥状態は無加工状態と比べて約20%増という結果でした。これは単純に乾燥したことによる凝集と思われます」
簡単に考えると、新しく育てた食物類はプラちゃんたちから収穫していた果実と同等。生で食べても良し、料理して食べても良し、保存食にしても良しということである。
「わかった。それじゃ、今後は自然放置による含有量の減少の有無の確認か?」
「そうですね。色々なパターンで測定しておきたいと思っています。もしかしたらですが、今の地下エリアに保存しておけば劣化が防げる可能性すらありますから」
調べることは山積みになったが、確実な前進のため苦とも感じない。さらに言えば、兎神たちの生命にかかわる案件なのだから手を抜くわけにはいかない。今日は結果を周知して今後の方針決定までだが、今宵も長くなりそうなのが難点だった。
『えっ!? それでは、あの3人が、そっちにいったのですか?』
「ああ、突然来るから驚いたよ。少し話をして、オヤツ食って帰ったけどな」
司の前に映るのは舞である。基本的に機械オンチな舞だが、これだけは気合を入れて捜査を覚えたという乙女な一面もあった。いつも司の側にいるリリとクーシュは、既にベッドで寝ている。珍しいこともあるものだ。
『(あの3バカめぇ、私に黙って司さんに何を聞きに行ったのか……。絶対にろくなことじゃないはずです。まさか、先日のあの事を? いえ、あれは仕事の内容なので司さんが3バカにしゃべるはずがありません。だとすれば、一体何を?)司さん、あの3人と何を?』
「ん? まぁ、大したことじゃないよ。ほとんど暇つぶしみたいな感じだったさ。俺も忙しかったからな。世間話をして、適当に切り上げた」
『そうですか、あの3人が迷惑をかけていないなら問題ありません(いえ、これはきっと何か面倒くさいことがあったはずです。それも、司さんが私に言いにくい事をです。このままごり押しすれば教えてくれそうですが……いえ、だめです、私の関係者の事で迷惑をかけている場合じゃありません。明日、3バカをとっちめて吐かせればよいのです)』
「おっと、もうこんな時間か。いつの間にか、1時間くらい経ってるな。すまないが、この後少し書き物をしてから寝るから、そろそろな」
『いえ、気にしないでください。それではまた明日。あ、今週末にはお家にお伺いします。リリとクーちゃんの様子を見に行きたいので、お土産を持っていきますね。それじゃ、おやすみなさい』
「ああ、おやすみ」
お互いに夜の挨拶をしてからプログラムの窓を閉じる。しかし、通信を終えた司の顔は舞と話していた時の笑顔と違って曇っていた。
しばらく何かを考え込んでいた司だったが、思考を中断するようにノックの音がしてから部屋に橙花が入ってきた。
「司様、舞様との逢瀬は終わりましたか?」
「……それは、笑えないぞ?」
「ちょっとした冗談です。我々が時々叱咤しませんと、遅々として関係が進む気配がありませんので。いい刺激になりません? それはそうと、こちらの準備が整いましたので、参りましょう」
冗談なのか本気なのか、イマイチわからないやり取りを交わしながら、橙花と一緒に部屋を後にする司。
「遅い時間にお呼びして申し訳ありません」
司と橙花を待っていたのは、兎神と蒼花だった。机の上には何かしらの資料が折り重なって置いてあり、兎神が言う様に、その確認を行うのだろう。
「司様、先ほど依頼していたものの結果が届きました。結論から申し上げると、今回採取した作物はどれも標準サンプルМと同等かそれ以上のアンノウン栄養素、魔素を含有しているという結果でした」
その結果が示すのは、兎神たちが抱える食糧問題を解決できるかもしれないという可能性。彼らの定期的に魔素を含有する食物を摂取して体内に取り込まなければ衰弱していくという体質のためにも食物の増産が急務だったのだ。
今回試験したのは3つ。
「今回の検証では、標準サンプルにモンスタープラントから採取した果実МP、ブランクサンプルに組成が限りなく類似している地球産の果実ESを使用しました。また、評価対象には小竜の魔素水を注がれた初期成長組から果実系としてA、木の実系でB、葉物系でCとしました」
今までは橙花が散々試しても発芽しなかったという問題を抱えていた『彼の世界』産の植物たちが、小竜たちの活躍で成長を開始したことで、今後の活動方針を決めるべく色々と調査をしたのだ。
「試したのはそれぞれ、無加工状態、10分間の煮沸した状態、完全乾燥させた状態の3パターンを測定しています。サンプル10グラム当たりの魔素の含有量が最も多かったのは乾燥状態、次いで無加工状態、最後に煮沸状態のものでしたが、煮沸状態のものでも無加工状態と比べて約5%減に留まっています。逆に乾燥状態は無加工状態と比べて約20%増という結果でした。これは単純に乾燥したことによる凝集と思われます」
簡単に考えると、新しく育てた食物類はプラちゃんたちから収穫していた果実と同等。生で食べても良し、料理して食べても良し、保存食にしても良しということである。
「わかった。それじゃ、今後は自然放置による含有量の減少の有無の確認か?」
「そうですね。色々なパターンで測定しておきたいと思っています。もしかしたらですが、今の地下エリアに保存しておけば劣化が防げる可能性すらありますから」
調べることは山積みになったが、確実な前進のため苦とも感じない。さらに言えば、兎神たちの生命にかかわる案件なのだから手を抜くわけにはいかない。今日は結果を周知して今後の方針決定までだが、今宵も長くなりそうなのが難点だった。
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