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第5章 地球と彼の地を結ぶ門

5-55 密かに、そして確実に忍び寄る不安

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 赤土の荒野を1人の男が歩いてた。その肩には真っ黒な猛禽類が1匹留まっていた。足取りは急ぐこともなく緩やかだが、ある方向へ真っすぐと移動していた。

 彼らの背後には、通ってきた道標のように点々と生き物の死体が転がっていた。襲い掛かって返り討ちになったアーススイーパーだ。雑食で貪欲、煮ても焼いても食えないトカゲたち。吹き飛ばされた個体は、近くにいた個体に共食いされていた。

 天にある太陽は頂点を過ぎて、やや傾いた頃。それまで一定だった男の足が止まった。

「確か、この辺り、でしたよね? 反応が消えたのは」

 男の声を肯定するかのように、肩の鳥がげぇーっと一鳴きする。

「それらしいものは、見つかりませんか……」

 男は周囲を見回してみるが、トカゲの群れと荒れ果てた平地が広がるばかりで、何があるわけでもない。司たちは既に地球へと戻っていて彼の世界には存在していないからだ。

「反応が途絶えた理由は、対象の生命活動が消えたか……それとも隠れたか。しかし、血の誓を拒絶できるほどの生き物ですから、そうそう簡単に死ぬわけがありませんね。この辺りにはゴミしかいませんでしたし。そうなると、どこかに隠れた、か」

 男が確認していたのは、赤い石が破壊された原因だ。彼らがマザーと呼んでいた個体から受け取った信号パターンを目標として、新しく作り出された感知型でここまで追尾してきた。信号パターンは再活性した石が取り込んだ情報が記憶されている。

「近くには……全く感じませんね。マザーがおっしゃるには、かなりの生命エネルギーに満ち溢れた個体とのことです。そこまでの個体ならば、ある程度近づけば私にも感じられるはずなのですが、やはり隠れたとみていいでしょう」

 石に飲み込まれたのは宗司。彼らは宗司の生命反応を追いかけてきたようだ。宗司の地球外生命体級の存在力が仇になったのかもしれない。そして、男の発言を肯定するかのように鳥もげぇーっと鳴く。

「ん? あそこに見えるのは何でしょう?」

 何かに気づいた男は、ゆっくりと歩いていった。相変わらず、道々にはトカゲの死体が転がっていく。



 男が見つけたのは岩山だった。

 尤も、岩山と言っても高さは20メートルほどなので、山と呼んでいいレベルなのかは謎である。赤土の荒野に佇む、黒に近いグレーの二等辺三角形。角度を変えて真横から見ても、やはり同じ形状だった。まるで小さなピラミッドのようである。

 司たちはなぜかあまり気にしていなかったようだが、これだけ綺麗な形は自然に発生するということは考えにくい。人工的に作られた、と考えたほうが自然である。ただ、構成はピラミッドのような石積みではなく一枚岩で出来ているので、司たちは疑問に思わなかったのかもしれない。

「ふむ、何か不思議な感じがしますね。僅かに力を感じますが、気のせいでもあるような。ここに在って、ここにないような」

 岩山の周りを1周ぐるりと回って確認したが、外観からは岩山だということ以外にわかることはなかったが……。

「足跡?」

 岩山のある場所の地面が荒れていることに気づいた。大小様々なそれは、岩山の方向へ連なるように続いており、岩壁の手前で忽然と消えていた。

 男は岩山へと近づいて行き岩壁を確認するが、そこにはむき出しの岩肌があるだけで何も存在しない。足跡は一体どこへ向かったのか、まさか岩壁を透過したとでもいうのか。そう思い、岩壁に触れてみるが無機質な抵抗があるだけであった。

「少し離れていなさい」

 肩に乗っていた鳥が即座に離れる。男は鳥が後方へ3メートルほど下がり、ホバー状態になったのを確認して……岩壁を殴った。

 鈍い重低音を響かせて、岩山が、地面が、空気が振動した。周囲が物理的に鳴動し、ビリビリと空気が悲鳴をあげる。が、ただそれだけだった。

「これは……戻りなさい。帰還しますよ」

 男は結果を確かめると、鳥を伴って即座に踵を返した。来るときよりも歩調は速い。言葉通り、即座に帰還するつもりなのだろう。

 彼らが去った後には、何も変わらない岩山が佇んでいた。



 ある場所へと帰還した男は、確認した内容を報告するために急いでいた。その肩に鳥は確認できない。そして、最奥の広間の前で立ち止まると一声かけ、鼓動のような返答を得てから入室する。

「マザー、失礼します」

 薄暗い部屋の奥にいたのは赤い光を放つ物体。まるで心臓のように規則的に脈動している。物体の中央には黒い何かが蠢いているが、外側からはうかがい知れない。

「マザー、例の件をご報告します」

 ドクン。

 許可を出す様に1度だけ脈動すると、男の報告が始まった。

「反応が途切れた周囲を確認してまいりました。結論としては、神域が存在しているものと考えられます。経緯を話しますと……」
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