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第5章 地球と彼の地を結ぶ門

5-40 地の底を這いずる者

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 薄暗い空間に、まるで大地が鼓動しているかのような音が響く。

 ドクン、ドクンと、規則正しく、1分間にぴったり30回。鼓動の度に、赤い光を伴って鳴動している。

 音の発生源は空間の中央。植物で出来た心臓のような塊から発せられていた。それは見方によっては繭の様にも、卵の様にも見える。非現実的な光景だが、1つだけ言えるとすれば、アレは生きているということだろうか。

「マザー、どうされましたか?」

 塊の前で跪いて顔を伏せていた男が、顔を起こして言葉を発した。そして、その言葉に反応するかのように規則的だった鼓動に変化が起こった。

「なんと……反応の途絶えていた個体が見つかったと? あの一件では、私の不手際によって、マザーにご心労をおかけして申し訳ありません。……はい、お心遣いありがとうございます。しかし、再発見できたことは喜ばしいことではありませんか。それで、今どこに?」

 ドクン。塊は大きく1回鳴動して、その意思を伝える。

「場所は、空ですか? なぜ、そのようなところに……。いえ、マザーのおっしゃることに間違いはございません。恐らく何らかの方法で運ばれたのでしょう。しかし、空では回収は難しそうですね。どういたしましょうか?」

 ドクン。再び大きく鳴動する。

「なるほど、では現在、敵性勢力と交戦中ですか。位置が位置だけに厄介なことになりましたね。相手の技量はいかほどですか? ……ほう、それは中々。それだと尚の事、回収は無理そうですね」

 ドクン。

「では、アレは使い捨てるのですか? ……いえ、マザーがお決めになったことですから、私に異はありません。そうですね、出来る限り、相手の情報を引き出したほうがよろしいでしょう。今後の障害となるかもしれませんので。それと直感型ではなく、思考型に変更したほうが良いと具申いたします。D級とはいえ、前回と同様にあの力が通じない相手が予測されますので、直感型には荷が重いでしょう」

 ドクン。

「考慮頂き、ありがとうございます。尤も、思考型になったからと言っても、どの程度持ち堪えられるかわからないのが難点ですが……出来る限り、相手の情報を引き出してくれることを祈りますね」

 …………ドクン。

「倒されましたか。思ったよりも時間を稼げたと褒めるべきですね。それでお相手はどのような……ほう、これはかなりの力量ですね。このレベルを撃退するならば、C級複数……いえ、B級でも荷が重いかもしれません。マザー、これは私が直接排除する案件でよろしいでしょうか?」

 ドクン。

「感謝いたします。それでは、準備を進めて排除してまいります。では、失礼します」



 話し合いを終えた男はマザーと呼ばれた物があった部屋を退出していき、そして一人になった瞬間に、豹変した。

 鋭かった両眼を、まるで赤い満月を彷彿とさせるかのように見開いて……。

「あの愚物がぁぁ!!! マザーに何度も、何度も、何度も心労をかけさせやがってぇぇぇええ! あのゴミムシがぁぁぁぁ!! 死ねぇぇぇ!」

 男は癇癪を起した子供の様に地面を踏み鳴らす。子供と違う点は、その一撃一撃は大地が悲鳴をあげるような力だということだ。この一帯に地震感知装置があれば、少なくとも震度3は計測していることは間違いない。

「……おっと、いけないいけない。私の怒りは、マザーにお力を頂いておりながら何の役にも立たない出来損ない本体にこそ向けられるべきもの。お造りになったマザーに非は一切ありません」

 それまでの烈火の如き猛りはどこへやら、急に冷静になった豹変ぶりには恐怖すら覚える。確かに過度のストレスを物理的に発散した直後は冷静な思考になることがあるが……余りにも急激な感情の起伏はどこかに異常があるとしか思えない。

「しかし、出来損ないとはいえ、D級を退けるだけの力を持った生物とは何者でしょうか。私が出ている時には、そんな生物と遭遇した試しがないのですが。そうですね、任務遂行にあたり、索敵できるような何かを作って頂きましょうか。感知型、とでも命名しましょう」

 どうやら直感型、思考型の他に、感知型という新しいタイプが生まれるようだ。もし、その感知型とやらが宗司のような強い人間を狙い撃ちできるような能力となるならば、司たちにとっては脅威以外の何物でもない。

「それほどに強い個体がいるならば、私が直接処理しておいたほうがマザーの心労もなくなるでしょうし……うん、それが良いでしょう。我ながらなんという名案」

 いい案を思いついたと言わんばかりに、男に笑顔が浮かぶ。しかし、それは無邪気とは正反対の、子供が見たらすぐに泣き出してしまいそうな邪悪な笑みだった。

「マザーの意向に障害となる者は、如何なる存在も殲滅しなければなりませんからね」

 そう言うと、男はどこかへ去っていった。クヒヒと気味の悪い笑い声を残して。
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