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第5章 地球と彼の地を結ぶ門

5-21 グラウンド・ゼロ

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 怪鳥と対峙した宗司が取った行動、それは本気で殺りにいくという選択だった。即座に戦闘モードのスイッチを入れて、戦鬼へと変身をする宗司。いつも穏やかな宗司から、すくみ上るほど恐ろしい闘気が吹き上がる。

 後ろで様子を伺っていた2人が息を呑む音が、宗司には酷く鮮明に聞こえた。

 宗司は常々から自分が本気になるところを、舞にだけは見せたくないと思っていたが、今回に限ってはそんな悠長なことを言ってはいられない。これだけの殺気と闘気を放つ相手なのだから、最初から本気で仕留めにかからないと、こちらがやられてしまう危険性すらあった。

 怪鳥のほうも雰囲気が変わったのがわかったようで、宗司を油断なく見つめたまま、空中でホバーリングしていた。まさに一触即発の空気感である。

 その均衡を破って先に動き出したのは宗司。

 大きく膝を屈めたと思ったら、怪鳥に向かって跳び上がった。跳んだ衝撃で岩場の地面にヒビが入ったようだ。とんでもない馬鹿力である。

 何をどう考えたのか、どうやら宗司は直接殴りに行くつもりらしい。体長が数十メートルの超巨大生物に、である。正直な話、クレイジーとしか思えない。

 確かに地の利は相手側にあるし、飛んでいる以上、こちらの攻撃は届かず、一方的に攻撃されかねない状況だ。飛んでいるなら落としてしまえばいいじゃない、と脳筋の宗司が考えたとしても不思議ではないが、実行するか? 普通。

 宗司が跳びあがったのを横目に、舞は転がっていた司に駆け寄る。すぐに司を助け起こすと同時に、怪我の有無を確認する。外観からわかるのは掠り傷が少しあるくらいだ。特注の服がかなりの衝撃を吸収してくれているはずなので、この程度で済んだとも言える。

「司さん、怪我は?」

「俺は大丈夫だ。それよりもクーシュが心配だ。咄嗟に守ったけど、もしかしたらどこか打ったかもしれない」

「うきゅー」

 司に心配されているクーシュは転がった衝撃でぐったりとしていた。司に抱えられたままダイナミックに10回転以上の地獄車をしたのだから盛大に目を回したのだろう。しかし、ぐったりとしているにも拘らず、司からは離れないのだから相当の根性である。

 そんな会話をしている2人の近くに何かが落ちてきた。落下した衝撃で地面が抉れて、周囲に礫が散乱する。それが宗司だと司たちが理解すると同時に、再び起き上がって怪鳥へ向かっていく。2者の戦闘を目の当たりにして、舞は開いた口が塞がらなかった。

「な、何……あれ」

 跳びあがった宗司が攻撃しようとするのだが、怪鳥の周囲には目視でもわかる風の渦のようなものが纏わりついていて、宗司の攻撃が届かない。届かないどころか、逆に弾き飛ばされてしまう始末。弾かれた宗司は至る所に激突しながらも、即座に復帰してまた向かっていく。それはまるで特攻隊。ゾンビアタックである。

 舞は、今までこんなに子ども扱いされている宗司を見たことなかった。舞の中の宗司という人は、同じ人間とは思えないくらい人外に近いレベルの傑物であったのだから。まさに手も足も出ないというのはこういう事なのだろうか。

 怪鳥は弾かれても弾かれても向かってくる宗司に苛立っている様だった。怒りの感情を示すかのように、周囲を渦巻く風が赤みを帯びてきていた。本来であれば、宗司が時間を稼いでいるうちに逃げなければいけないのだが、余りの光景に動けずにいる2人を救出したのは……。

「わわわっ!」

 リリだった。

 リリは、怪鳥が宗司に意識を向けた隙に、全速力で司たちに駆け寄ると素早く2人の首元を咥えて洞窟まで引っ張り込んだのだ。この状況にあって、誰に言われるわけでもなく、自分のやれることを考え、それを実行したリリは、この場で最も冷静沈着だった。

「宗司さん! 司さんたちを確保しました! もう大丈夫です!」

 リリの報告を聞いた宗司は、怪鳥の相手をしつつも口に笑みを浮かべていた。そして、無謀とも思えた突撃から徐々に行動が変化していく。

 逆に、怪鳥のほうは更なる苛立ちを募らせていた。纏う風がうっすらとした赤色から鮮やかな朱色へ変化しており、轟々と音まで聞こえるようになってしまっていた。風向きも内部に圧縮するような挙動を示しており、このままでは何かマズイような雰囲気がある。

「リリ、ありがとう。クーシュ、大丈夫か?」

「ぴゅ……ぴゅぃ」

 目を回していたクーシュだったが、時間の経過と共に回復してきたようだ。頭をぷるぷると振ってから周りを確認し、司に向かって返事をした。大丈夫そうである。

 クーシュの安否確認を終えたところで、宗司が慌てて洞窟に駆け込んできた。顔には珍しく不安そうな表情が浮かんでいる。

「司、舞、まずいことになった」

 宗司の背中の先、つまりは洞窟の外、怪鳥の姿を見た2人は息を呑んだ。見て、見えてしまったのだ。そして、宗司の言葉の意味を理解した。

 そこには、今にも爆発しそうな程に収束した真っ赤な暴風の奔流があった。

 今まさに、核ミサイルの発射スイッチに指がかかろうとしていたのだ。
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