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第5章 地球と彼の地を結ぶ門
5-12 山登りの前にすることは?②
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それで肝心の食料調達だが、野性を取り戻したリリにとっては朝飯前のことだった。獲物に気取られない距離で索敵をこなし、森の緑に溶け込んで気配消し、一撃で仕留める。一連の工程が流れるような美しさだった。もう一端の狩人である。
内容自体はまだ粗削りな狩りだが、かつてウルの森でヴォルフが司を仕留めたのを彷彿とさせる姿。遺伝子というのは凄い物である。
ただ仕留め終わった後、舞に向かって頭を撫でろと言わんばかりに円らな目で首を傾げる仕草が無ければ、とても格好いいのだけれども。
「よくやりました。リリ、凄いです。きっと、司さんも褒めてくれますね」
「えへへ」
しかも口元が血塗られていてビジュアル的にエグイ状態……なのに、やけに雰囲気だけはほんわりしている2人である。まぁ、それがリリらしいと言えば、リリらしい。
その後、折角の獲物の味が落ちないようにさくさくっと血抜きを実行する。これについては、今は舞しかできないので舞が担当する。大量の血液が視界に入るが、舞の手は怯まない。サバイバルには慣れているので、この程度は平気なのである。
舞の作業を横目にリリがソワソワしていた。お肉を見て野生が騒ぎ出したのかもしれない。昔は生でがつがつと肉を食べていたが、司と出会ってからは調理された肉を好むようになった。特に外こんがり中レアがお好みだ。今食べるよりも司たちと焼肉パーティーを楽しんだほうが……と葛藤しているのだろう。
「おおおお! リリ、凄いじゃないか!」
「司さん! やりました!」
舞の予想通り(親バカの司がリリを褒めないわけはないのだけど)、見事に獲物を仕留めて帰ってきたリリを褒め倒す司だった。褒められたリリも尻尾がぶるんぶるんと旋回している。
宗司の手で既に2つの石竈が組まれており、火入れも行われていた。一方は強火、もう片方はほんの少しだけ焚いてあった。焼く用と保温用だろうか。
舞たちから獲物を受け取った宗司は、それを素早く担ぎ上げると川に向かって走っていった。入れ替わりで舞が火の番に入る。この辺りは阿吽の呼吸。ちなみに司はリリを担当する。つまりは子守である。
司がリリを撫でまわして褒めている間に、宗司が解体を終えて帰ってきたようだ。解体された赤身肉を山ほど担いでいる。正直、4人で食べる量ではないのだが、宗司とリリがいれば問題ないのである。何せ、胃袋が異次元空間に繋がっているのだから。
今回の獲物はシカのような動物だったので、生食をするのは知識がないと危ない。衛生的にも健康的にも焼き肉が鉄板である。熱した石板に脂を滑らせてコーティングした後、肉を乗せるとジュウジュウという食欲をそそる音と共に、周りには肉の焼ける匂いが充満する。意識しなくても唾液が大分泌して、胃がくぅくぅと音を鳴らす。肉の焼ける様子を見て、食いしん坊たちは思わずニッコリである。
獲物を仕留めた名誉で、最初に焼けた肉はリリの分だ。5センチ厚にスライスされたステーキはまさにエアーズロックの様相。石板の熱で表面をこんがりと焼かれているが中はレアな絶妙な焼き加減。
「リリ、熱いから気を付けて食べるんだぞ?」
お皿代わりの薄く切り出された石の上に乗せて渡すと、リリはお行儀よくお座りして待っていたが尻尾は早く早くと言わんばかりに左右に振れていた。目は肉を捕らえて離さず、口からは今にも涎が溢れ出さんばかりである。
食べられるくらいに冷めたあたりでリリが肉に齧り付いたのを見届けてから、3人も焼けた肉を口にする。和牛のような柔らかさはなく、しっかりとした噛み応え。だが筋張っておらず、容易に噛み千切ることができる。そして、咀嚼すればあふれ出る肉汁で舌が溺れそうになる。これぞ、血が滴るような赤身肉のうまさである。
「司さーん、おかわりくださーい」
あっという間に1枚目を食べつくしたリリが司におかわりを要求する。その後は各自が思い思いに焼いた肉を体内に収めて行った。司たちは思う存分、自然の恵みを堪能するのだった。ちなみに、リリが最もたくさん食べたことを付け加えておく。彼女は今が育ち盛りなのである。
食事を終えた後、山登り上級者というか山籠もり上級者の宗司がこう切り出した。
「さて、明日から山登りになるわけだが、注意することがいくつかある」
宗司が言うには、基本的に日本で山に登るのと変わらない。
天気に注意する事、今のところ雨は降らなさそうだが少しでも兆候が見られたら即安全な場所を確保する。特に落雷が恐ろしい。
山の上は気温が下がるので体調が悪くなりそうなら申告する事、無理をすると不慮の事故が起こりやすくなる。
食事と水分補給は1時間おきに少量ずつ行う。食べ過ぎたり、飲みすぎたりするとお花畑のコントロールが難しくなるため注意すること。などなど。
「では、他に質問がなければ順番で休んでいこう。出発は明日の朝、日が登って周りが明るくなったらだ」
今日はテントを張らないため、休む時は寝袋である。リリが伏せたところにくっ付いて休むことで体温の維持が容易となる。モフモフの冬毛に替わりつつあるリリは、もはや歩く高級毛布状態なのだ。リリも司たちの役に立ててご満悦である。寝る前に存分にモフモフして英気を養った司たちはあっという間に夢の世界に旅立った。
内容自体はまだ粗削りな狩りだが、かつてウルの森でヴォルフが司を仕留めたのを彷彿とさせる姿。遺伝子というのは凄い物である。
ただ仕留め終わった後、舞に向かって頭を撫でろと言わんばかりに円らな目で首を傾げる仕草が無ければ、とても格好いいのだけれども。
「よくやりました。リリ、凄いです。きっと、司さんも褒めてくれますね」
「えへへ」
しかも口元が血塗られていてビジュアル的にエグイ状態……なのに、やけに雰囲気だけはほんわりしている2人である。まぁ、それがリリらしいと言えば、リリらしい。
その後、折角の獲物の味が落ちないようにさくさくっと血抜きを実行する。これについては、今は舞しかできないので舞が担当する。大量の血液が視界に入るが、舞の手は怯まない。サバイバルには慣れているので、この程度は平気なのである。
舞の作業を横目にリリがソワソワしていた。お肉を見て野生が騒ぎ出したのかもしれない。昔は生でがつがつと肉を食べていたが、司と出会ってからは調理された肉を好むようになった。特に外こんがり中レアがお好みだ。今食べるよりも司たちと焼肉パーティーを楽しんだほうが……と葛藤しているのだろう。
「おおおお! リリ、凄いじゃないか!」
「司さん! やりました!」
舞の予想通り(親バカの司がリリを褒めないわけはないのだけど)、見事に獲物を仕留めて帰ってきたリリを褒め倒す司だった。褒められたリリも尻尾がぶるんぶるんと旋回している。
宗司の手で既に2つの石竈が組まれており、火入れも行われていた。一方は強火、もう片方はほんの少しだけ焚いてあった。焼く用と保温用だろうか。
舞たちから獲物を受け取った宗司は、それを素早く担ぎ上げると川に向かって走っていった。入れ替わりで舞が火の番に入る。この辺りは阿吽の呼吸。ちなみに司はリリを担当する。つまりは子守である。
司がリリを撫でまわして褒めている間に、宗司が解体を終えて帰ってきたようだ。解体された赤身肉を山ほど担いでいる。正直、4人で食べる量ではないのだが、宗司とリリがいれば問題ないのである。何せ、胃袋が異次元空間に繋がっているのだから。
今回の獲物はシカのような動物だったので、生食をするのは知識がないと危ない。衛生的にも健康的にも焼き肉が鉄板である。熱した石板に脂を滑らせてコーティングした後、肉を乗せるとジュウジュウという食欲をそそる音と共に、周りには肉の焼ける匂いが充満する。意識しなくても唾液が大分泌して、胃がくぅくぅと音を鳴らす。肉の焼ける様子を見て、食いしん坊たちは思わずニッコリである。
獲物を仕留めた名誉で、最初に焼けた肉はリリの分だ。5センチ厚にスライスされたステーキはまさにエアーズロックの様相。石板の熱で表面をこんがりと焼かれているが中はレアな絶妙な焼き加減。
「リリ、熱いから気を付けて食べるんだぞ?」
お皿代わりの薄く切り出された石の上に乗せて渡すと、リリはお行儀よくお座りして待っていたが尻尾は早く早くと言わんばかりに左右に振れていた。目は肉を捕らえて離さず、口からは今にも涎が溢れ出さんばかりである。
食べられるくらいに冷めたあたりでリリが肉に齧り付いたのを見届けてから、3人も焼けた肉を口にする。和牛のような柔らかさはなく、しっかりとした噛み応え。だが筋張っておらず、容易に噛み千切ることができる。そして、咀嚼すればあふれ出る肉汁で舌が溺れそうになる。これぞ、血が滴るような赤身肉のうまさである。
「司さーん、おかわりくださーい」
あっという間に1枚目を食べつくしたリリが司におかわりを要求する。その後は各自が思い思いに焼いた肉を体内に収めて行った。司たちは思う存分、自然の恵みを堪能するのだった。ちなみに、リリが最もたくさん食べたことを付け加えておく。彼女は今が育ち盛りなのである。
食事を終えた後、山登り上級者というか山籠もり上級者の宗司がこう切り出した。
「さて、明日から山登りになるわけだが、注意することがいくつかある」
宗司が言うには、基本的に日本で山に登るのと変わらない。
天気に注意する事、今のところ雨は降らなさそうだが少しでも兆候が見られたら即安全な場所を確保する。特に落雷が恐ろしい。
山の上は気温が下がるので体調が悪くなりそうなら申告する事、無理をすると不慮の事故が起こりやすくなる。
食事と水分補給は1時間おきに少量ずつ行う。食べ過ぎたり、飲みすぎたりするとお花畑のコントロールが難しくなるため注意すること。などなど。
「では、他に質問がなければ順番で休んでいこう。出発は明日の朝、日が登って周りが明るくなったらだ」
今日はテントを張らないため、休む時は寝袋である。リリが伏せたところにくっ付いて休むことで体温の維持が容易となる。モフモフの冬毛に替わりつつあるリリは、もはや歩く高級毛布状態なのだ。リリも司たちの役に立ててご満悦である。寝る前に存分にモフモフして英気を養った司たちはあっという間に夢の世界に旅立った。
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