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第5章 地球と彼の地を結ぶ門
5-10 とある執事の独白
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私たちはとても残酷だ。我々の十分の一も生きていない、年端も行かぬ人の子に、かの世界の命運を任せようとしている。
私たちはとても残酷だ。あんな年端も行かぬ人の子の双肩に、滅びゆく世界のすべてを押し付けようとしている。
ああ、世界は残酷だ。
世界は、こんなにも悪意に満ちている。種の繁栄を逸脱し、なぜ、同じもの同士で無益に争うのか。強きものが生き、弱きものが贄となる、それは自然の摂理なれど、生(しょう)無き争いになんの意味があるのだろうか。
なぜ、滅びの道を歩んでいることに気づかないのか。限りのある生に、限りのある地に、同じもの同士で争うことで何を得ようとしているのか。幸福か? 自由か? 平等か? 支配か? 嗜虐か? 愉悦か? はたまた、己の快楽のためか。
この世界は有限だというのに、いつかは終わりが来ることがわかっているのに、それでも、この世界で生きるものたちは気づかない。世界によって、圧倒的強者に淘汰されるその日まで、きっと気づくことなく日々を過ごすだろう。そして最後の瞬間に気づくのだ。
自分たちは、今までいったい何をしていたのか? と。その時には、既に手遅れだというのに。その時には、後悔しても遅いというのに。
なぜ、人はこんなにも愚かなのだろうか。
私は、かの世界で素体No.12として生まれた。最後の素体、星を救う担い手たる兎、母なる始まりの木は私を星兎と呼んだ。私は生まれながらに、ある使命を持ち、それを成し遂げるためだけに生かされている。ただそれだけの存在だった。そのはずだった。
母なる始まりの木は言った。我らが王は必ず現れると。そして星兎こそ、その王を影で支える存在だと。その身が塵となって朽ちるまで、例え朽ちたとしても、それでも王の傍らにあるものたちよ、王を頼むと。そのための鋼のごとき強靭な肉体、そのための圧倒的な力、そのための遥か遠方を見通す視覚、そのための心音すら聞き取る聴覚、我らは生ける兵器だと。
例え、運命を変えることはできずとも、その腕(かいな)をもって王の刃となり、その身をとして王の盾となり、王の傍らにあり続けるのが、我ら星兎の使命だと。
母なる始まりの木よりの使命を携え、我ら3名は滅びゆく世界を後にした。まだ見ぬ王を探すために。かの地を離れ、使命を胸に幾百の時が流れたが、ついに干支神の血脈に巡り合った。
源様の姿を初めて見たとき、王の可能性を感じた。そして、司様が生まれ、その姿を初めて見たとき、私の全身が歓喜に震えた。ああ、この方こそが我らが王の器。ああ、この方こそが我らの希望。私たちの全てを託す方だと。
司様、どうか我らの願いをお聞きください。我らでは救えぬ世界に、救いの手を差し伸べてください。代わりに、私のすべてを捧げましょう。この命すらあなたのために使いましょう。どうか我らの母を、かの世界をお救いください。
私たちはとても残酷だ。
それでも、祈らずにはいられない。それが本当にとても小さな小さなひとかけらの希望だとしても。それでも、縋らずにはいられない。あの世界を唯一救済する術を持つ少年に。私たちには到底成しえなかった事柄さえも、あの少年ならば、成せることを信じて待つことしかできない。こんなに歯がゆいことがあってもよいのだろうか。
私はきっと楽には死ねないだろう。それだけのことをあの方に課すのだから。
故に、私は刃となって、あの方と敵対するすべての者たちを打ち払おう。この命が燃え尽きようとも、これからあの方に降りかかるすべての害悪を、この身をとして打ち払おう。いつか、この身が朽ちて、崩れ落ちるその時まで。あの方とともに地獄を歩もう。
そして……あの世界の真実を知った時の、あの方の嘆きも苦しみも、怒りも憎しみも、すべてをわが身に受け止めよう。きっと、それこそが私が負うべき咎なのだから。きっと、それこそが私が生まれてきた意味なのだから。
司様、あなた様に縋ることしかできない、この私を許してください。そして、叶うならば、我らが母なる始まりの木を、かの世界をお救いください。
どうか、お願いいたします。
私たちはとても残酷だ。あんな年端も行かぬ人の子の双肩に、滅びゆく世界のすべてを押し付けようとしている。
ああ、世界は残酷だ。
世界は、こんなにも悪意に満ちている。種の繁栄を逸脱し、なぜ、同じもの同士で無益に争うのか。強きものが生き、弱きものが贄となる、それは自然の摂理なれど、生(しょう)無き争いになんの意味があるのだろうか。
なぜ、滅びの道を歩んでいることに気づかないのか。限りのある生に、限りのある地に、同じもの同士で争うことで何を得ようとしているのか。幸福か? 自由か? 平等か? 支配か? 嗜虐か? 愉悦か? はたまた、己の快楽のためか。
この世界は有限だというのに、いつかは終わりが来ることがわかっているのに、それでも、この世界で生きるものたちは気づかない。世界によって、圧倒的強者に淘汰されるその日まで、きっと気づくことなく日々を過ごすだろう。そして最後の瞬間に気づくのだ。
自分たちは、今までいったい何をしていたのか? と。その時には、既に手遅れだというのに。その時には、後悔しても遅いというのに。
なぜ、人はこんなにも愚かなのだろうか。
私は、かの世界で素体No.12として生まれた。最後の素体、星を救う担い手たる兎、母なる始まりの木は私を星兎と呼んだ。私は生まれながらに、ある使命を持ち、それを成し遂げるためだけに生かされている。ただそれだけの存在だった。そのはずだった。
母なる始まりの木は言った。我らが王は必ず現れると。そして星兎こそ、その王を影で支える存在だと。その身が塵となって朽ちるまで、例え朽ちたとしても、それでも王の傍らにあるものたちよ、王を頼むと。そのための鋼のごとき強靭な肉体、そのための圧倒的な力、そのための遥か遠方を見通す視覚、そのための心音すら聞き取る聴覚、我らは生ける兵器だと。
例え、運命を変えることはできずとも、その腕(かいな)をもって王の刃となり、その身をとして王の盾となり、王の傍らにあり続けるのが、我ら星兎の使命だと。
母なる始まりの木よりの使命を携え、我ら3名は滅びゆく世界を後にした。まだ見ぬ王を探すために。かの地を離れ、使命を胸に幾百の時が流れたが、ついに干支神の血脈に巡り合った。
源様の姿を初めて見たとき、王の可能性を感じた。そして、司様が生まれ、その姿を初めて見たとき、私の全身が歓喜に震えた。ああ、この方こそが我らが王の器。ああ、この方こそが我らの希望。私たちの全てを託す方だと。
司様、どうか我らの願いをお聞きください。我らでは救えぬ世界に、救いの手を差し伸べてください。代わりに、私のすべてを捧げましょう。この命すらあなたのために使いましょう。どうか我らの母を、かの世界をお救いください。
私たちはとても残酷だ。
それでも、祈らずにはいられない。それが本当にとても小さな小さなひとかけらの希望だとしても。それでも、縋らずにはいられない。あの世界を唯一救済する術を持つ少年に。私たちには到底成しえなかった事柄さえも、あの少年ならば、成せることを信じて待つことしかできない。こんなに歯がゆいことがあってもよいのだろうか。
私はきっと楽には死ねないだろう。それだけのことをあの方に課すのだから。
故に、私は刃となって、あの方と敵対するすべての者たちを打ち払おう。この命が燃え尽きようとも、これからあの方に降りかかるすべての害悪を、この身をとして打ち払おう。いつか、この身が朽ちて、崩れ落ちるその時まで。あの方とともに地獄を歩もう。
そして……あの世界の真実を知った時の、あの方の嘆きも苦しみも、怒りも憎しみも、すべてをわが身に受け止めよう。きっと、それこそが私が負うべき咎なのだから。きっと、それこそが私が生まれてきた意味なのだから。
司様、あなた様に縋ることしかできない、この私を許してください。そして、叶うならば、我らが母なる始まりの木を、かの世界をお救いください。
どうか、お願いいたします。
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