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第4章 旅にアクシデントはお約束?
4-64 それぞれの想い
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棲龍館では豪勢な夕食を堪能して、大きなお風呂で寛ぎ、みんなで布団を敷いて休む。まるで修学旅行のような光景だ。最後の夜はみんな一緒に大部屋で。澪の粋な計らいだった。このメンバーで過ごすこと1週間、明日からは普通の日常に戻らなければならない。そんな寂しさを紛らわせるためなのかもしれない。
ちなみに大部屋には毛玉たちもこっそりと潜んでいた。具体的には鞄の中のケージ内にだ。麗華たちが給仕を終えて部屋を出た途端にカバンから出してコールが始まった。早速、夕食とは別に夜食用に包んでもらったものを食べて大満足だ。隣でリリが羨ましそうに見ていたのが微笑ましい。君は司たちと一緒に夕食を食べたでしょう。
ゆっくりと休み、麗華たちに見送られて、朝から車で移動すること数時間。一行の行く先に武神家が見えてきた。とうとう家に帰ってきたのだ。
「もう着いちゃいましたね……」
誰からか、ぽつりと漏れたその言葉に、想いの全てが込められている。
一緒の時間を共有し、親切な人たちに巡り合い、初めての船酔いを経験し、大自然の情景に感動し、女性陣の意外な水着姿にどぎまぎして、地産の美味しいものを食べ、突然の乱入で気持ちの変化に驚いて、艶やかな浴衣と夜の炎に照らされて、淡い恋心を自覚して、みんなで笑い分かち合った。
「いろいろありましたけど、今までで一番楽しかったです~。みんなを誘って、この仲間で旅行に行けて、本当によかったです~」
澪のこの想いも万感だろう。何よりも計画の立役者。確かに色々な仕込みをしたけども、大きく進展することになった司と舞の関係。彼女がいなければ、この旅行が無ければ、舞が司への想いに気づくことはなかったのかもしれない。もちろん、自分が楽しむことも忘れていないところが、彼女が強かな証なのだけれども。
「絶対、また行こうね! このメンバーでさ」
「やはり海が近いと食べ物が美味い。次は沖釣りもしたい。マグロ釣る」
今回の詠美はちょっと残念だった。船酔いで女子とは思えない惨劇だったし、色気を全面的にアピールしたけど、宗司には気づいてもらえなかった。まぁ、もともとダメ元みたいな感覚だったし、本人は諦める気はない。この経験を次回に生かしてもらいたい。
優は相変わらず欲望に忠実で、食べ物の事しか考えていなさそう……に見えて実は色々考えていたりもするかもしれない。何はともあれ、色々な個性が集合しているからこそ、絶妙なバランスで保たれているわけだ。誰が欠けても、この結果にはならなかっただろう。
「リリにはいい思い出を作ってやれたし、橙花たちにも良い息抜きになった。うちには自主的に休むやつがいないからな。こういう機会でもないと休まないんだ。もちろん、俺も楽しかったよ」
リリは初めての海を満喫していたし、海産物も口に合ったようでおいしそうに食べていた。ボルゾイたちとも友達になった。だが、何よりも司が嬉しかったのは、リリが毛玉たちを助けたことだ。
リリは、いつでも何をするにも司の顔色を窺っていた。それは司に迷惑をかけたくないという想いからなのだが、それが逆にリリの素直な思考や行動を妨げているのだ。しかし、毛玉たちの時は違った。リリは、司に相談することなく|自分で考えて(・・・・・・)、助けるという行動を選択した。結果、司と舞にしこたま怒られたのだが、それはそれである。
リリは、身体も思考もまだまだ子供だ。だが、窮地の他者には、何をおいても手を差し伸べることができる優しさを持っている。そう、リリ自身が司に助けられたように、だ。リリはちゃんと成長している。しかも、心優しい子に。そのことが今回わかったことが、司はとても嬉しかった。
「それに、毛玉たちも助けれたしな。あの時、あの場所に俺たちがいなかったら、毛玉たちがどうなったか想像もしたくないよ。リリのお手柄だ。えらいぞ~、リリ」
リリは司の膝の上で寛いでいたのだが、褒めてもらって、さらに頭を撫でてもらえてご満悦だ。それはもう、満面の笑みで、にっこにこである。
「がははは、愛する妹の意外な一面が見れて私も満足だ! 司! これからも舞の事をよろしく頼む! だが、もし捨てたりしたら……許さんぞ?」
本気か冗談か、いまいち判断のできないことをいう宗司。だが、舞のことを大切に思っている気持ちに嘘偽りはないだろう。今回の旅行で司との仲も少しは進展したのを見ることができて満足そうである。
こうして司たちの夏のバカンスは終わりを迎えた。つかの間の休息と、それぞれの心の成長を促して。ひと夏の思い出は、今後の司たちの人生を輝かせることだろう。
ちなみに大部屋には毛玉たちもこっそりと潜んでいた。具体的には鞄の中のケージ内にだ。麗華たちが給仕を終えて部屋を出た途端にカバンから出してコールが始まった。早速、夕食とは別に夜食用に包んでもらったものを食べて大満足だ。隣でリリが羨ましそうに見ていたのが微笑ましい。君は司たちと一緒に夕食を食べたでしょう。
ゆっくりと休み、麗華たちに見送られて、朝から車で移動すること数時間。一行の行く先に武神家が見えてきた。とうとう家に帰ってきたのだ。
「もう着いちゃいましたね……」
誰からか、ぽつりと漏れたその言葉に、想いの全てが込められている。
一緒の時間を共有し、親切な人たちに巡り合い、初めての船酔いを経験し、大自然の情景に感動し、女性陣の意外な水着姿にどぎまぎして、地産の美味しいものを食べ、突然の乱入で気持ちの変化に驚いて、艶やかな浴衣と夜の炎に照らされて、淡い恋心を自覚して、みんなで笑い分かち合った。
「いろいろありましたけど、今までで一番楽しかったです~。みんなを誘って、この仲間で旅行に行けて、本当によかったです~」
澪のこの想いも万感だろう。何よりも計画の立役者。確かに色々な仕込みをしたけども、大きく進展することになった司と舞の関係。彼女がいなければ、この旅行が無ければ、舞が司への想いに気づくことはなかったのかもしれない。もちろん、自分が楽しむことも忘れていないところが、彼女が強かな証なのだけれども。
「絶対、また行こうね! このメンバーでさ」
「やはり海が近いと食べ物が美味い。次は沖釣りもしたい。マグロ釣る」
今回の詠美はちょっと残念だった。船酔いで女子とは思えない惨劇だったし、色気を全面的にアピールしたけど、宗司には気づいてもらえなかった。まぁ、もともとダメ元みたいな感覚だったし、本人は諦める気はない。この経験を次回に生かしてもらいたい。
優は相変わらず欲望に忠実で、食べ物の事しか考えていなさそう……に見えて実は色々考えていたりもするかもしれない。何はともあれ、色々な個性が集合しているからこそ、絶妙なバランスで保たれているわけだ。誰が欠けても、この結果にはならなかっただろう。
「リリにはいい思い出を作ってやれたし、橙花たちにも良い息抜きになった。うちには自主的に休むやつがいないからな。こういう機会でもないと休まないんだ。もちろん、俺も楽しかったよ」
リリは初めての海を満喫していたし、海産物も口に合ったようでおいしそうに食べていた。ボルゾイたちとも友達になった。だが、何よりも司が嬉しかったのは、リリが毛玉たちを助けたことだ。
リリは、いつでも何をするにも司の顔色を窺っていた。それは司に迷惑をかけたくないという想いからなのだが、それが逆にリリの素直な思考や行動を妨げているのだ。しかし、毛玉たちの時は違った。リリは、司に相談することなく|自分で考えて(・・・・・・)、助けるという行動を選択した。結果、司と舞にしこたま怒られたのだが、それはそれである。
リリは、身体も思考もまだまだ子供だ。だが、窮地の他者には、何をおいても手を差し伸べることができる優しさを持っている。そう、リリ自身が司に助けられたように、だ。リリはちゃんと成長している。しかも、心優しい子に。そのことが今回わかったことが、司はとても嬉しかった。
「それに、毛玉たちも助けれたしな。あの時、あの場所に俺たちがいなかったら、毛玉たちがどうなったか想像もしたくないよ。リリのお手柄だ。えらいぞ~、リリ」
リリは司の膝の上で寛いでいたのだが、褒めてもらって、さらに頭を撫でてもらえてご満悦だ。それはもう、満面の笑みで、にっこにこである。
「がははは、愛する妹の意外な一面が見れて私も満足だ! 司! これからも舞の事をよろしく頼む! だが、もし捨てたりしたら……許さんぞ?」
本気か冗談か、いまいち判断のできないことをいう宗司。だが、舞のことを大切に思っている気持ちに嘘偽りはないだろう。今回の旅行で司との仲も少しは進展したのを見ることができて満足そうである。
こうして司たちの夏のバカンスは終わりを迎えた。つかの間の休息と、それぞれの心の成長を促して。ひと夏の思い出は、今後の司たちの人生を輝かせることだろう。
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