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第4章 旅にアクシデントはお約束?
4-54 旅にアクシデントはお約束?⑤
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ところ変わって干支神家。
留守番をしていた兎神は来客を迎えていた。この日、干支神家を訪れたのは男と女が1人ずつ。1人は髪がぼさぼさの見るからにズボラそうな男、もう1人はビジネススーツをきちっと着こなした見るからに出来そうなキャリアウーマンだ。
「やぁ、依頼されてた分析結果が出たから報告に来たよ」
「博士! お知り合いとは言え、相手はクライアントでスポンサーなんですから、そんな態度で報告するひとがありますか!? もう良いお歳なんですから、いい加減、ビジネスマナーとかコミュニケーション能力とかというものを学んで頂けませんでしょうかね!?」
「いや、兎神君に会って話をするのに、今更態度を変えてもしょうがないだろ? もう数えるのがバカバカしくなるくらいの付き合いの長さなんだから」
「そういう問題ではありません! 社会人としての常識というものです! 博士がいつもそういう態度だから、私が同行をしなければならないんですよ!?」
「ハハハ、私の事を未だに『兎神君』と呼ぶのは君くらいですよ。久しぶりですね、神崎博士、神崎女史。今日はわざわざ屋敷までご足労頂いてありがとうございます」
兎神でも声をあげて笑うことがあったのか……この光景を司が見たらどういう反応をしたのだろうか? きっと、ハトが豆鉄砲食らったようになるに違いない。
「いやいや、君からの依頼なんだから最優先事項だよ。それは彼女にだってわかっているさ。それに、|昔から(・・・)そう呼んでるんだから、今更、君の呼び方は変えられないだろ?」
「兎神様、博士が言うように遠慮は無用です。クライアントのご要望に応えるのが私たちの仕事ですから。特に干支神家からのご依頼は特別ですから」
「……相変わらず、あなたたち夫婦は仲が良いですね」
苦笑しながらも、兎神の口元には笑みが浮かんでいる。まるで、古くからの親友に再会したかのような、そんな態度だった。
「さて、前置きはこれくらいにして……依頼のほうだが、君の予想通りだったな」
神崎博士と呼ばれたほうの男の雰囲気が一変した。緩かった空気が引き締まり、眼光が鋭くなった。とても今までボケボケしていたとは思えない。完全に一流の研究者のそれだ。
「預かった紅い石の正体……何らかの方法で結晶化させた『血液』だ」
「博士がおっしゃるように、いくつか未知の物質が含まれておりますが、概ね成分的には血液です。どのような手段で結晶構造に固定されているのかは、現時点ではわかっておりませんので引き続き分析が必要です」
「さて、これが血液なのはわかったわけだが、君は、これをどこで手に入れたのかな?」
「……どことは?」
「はぁ、君に顔芸は似合わないよ。この世界に、血液を、この硬度で結晶化する技術がどこにある? 硬度だけだったらもはや宝石に近い、砕かないように表面を削り取るのにも苦労した。そんな代物の出所がまともだとは、僕は思わないよ」
神崎博士と女史の視線が兎神に突き刺さる。
「君が|言えない(・・・・)ということは、例のお仕事関係か。いい加減、僕たちを信用してくれてもいい頃だと思うんだけどね」
「あなたたちを信用していないわけではありませんよ。安易に巻き込むわけにはいかないのですよ。それに私にはその権利がありません」
「今更、気を遣うような間柄かい? はぁ、気が向いたら教えてくれよ。そう言えば、最近、当主が変わったそうだね。今後の研究のためにも仲良くしといたほうがいいのかな?」
ピリリリリ、ピリリリリ……
「失礼」
携帯が鳴り、兎神が席を外す。
『司様、お疲れ様です。旅行は楽しまれていますか? ええ、それは結構ですね。ええ? 謎の生物……またですか? 見た目はどういった……毛玉? 食べる物は問題ないならば、保護しましょうか。わかりました、戻ったら手続きできるように用意しておきます。ええ、ヴォルフたちには話しておきます。ええ、それでどういった経緯で? 海で保護ですか。え? リリの正体がばれた? それは……お話になるかどうかは司様にお任せします。わかりました。それで……』
電話の相手は司だった。兎神は司としばし打ち合わせると大凡の指針を決定した。どうやら干支神家に新しいメンバーが加わるらしい。
「お待たせしました」
「いやいや、ご当主様からだろう? そちらを優先してくれて問題ないよ。それで、今後の予定だけど……」
その後、神崎博士たちと今後の方針を打ち合わせて解散となった。
この日、明らかになったのは、魔獣の身体に埋め込まれていた紅い石の正体が血液をベースにした結晶体だったということ。誰がどういう目的で運用しているのか、謎は深まるばかりだ。
留守番をしていた兎神は来客を迎えていた。この日、干支神家を訪れたのは男と女が1人ずつ。1人は髪がぼさぼさの見るからにズボラそうな男、もう1人はビジネススーツをきちっと着こなした見るからに出来そうなキャリアウーマンだ。
「やぁ、依頼されてた分析結果が出たから報告に来たよ」
「博士! お知り合いとは言え、相手はクライアントでスポンサーなんですから、そんな態度で報告するひとがありますか!? もう良いお歳なんですから、いい加減、ビジネスマナーとかコミュニケーション能力とかというものを学んで頂けませんでしょうかね!?」
「いや、兎神君に会って話をするのに、今更態度を変えてもしょうがないだろ? もう数えるのがバカバカしくなるくらいの付き合いの長さなんだから」
「そういう問題ではありません! 社会人としての常識というものです! 博士がいつもそういう態度だから、私が同行をしなければならないんですよ!?」
「ハハハ、私の事を未だに『兎神君』と呼ぶのは君くらいですよ。久しぶりですね、神崎博士、神崎女史。今日はわざわざ屋敷までご足労頂いてありがとうございます」
兎神でも声をあげて笑うことがあったのか……この光景を司が見たらどういう反応をしたのだろうか? きっと、ハトが豆鉄砲食らったようになるに違いない。
「いやいや、君からの依頼なんだから最優先事項だよ。それは彼女にだってわかっているさ。それに、|昔から(・・・)そう呼んでるんだから、今更、君の呼び方は変えられないだろ?」
「兎神様、博士が言うように遠慮は無用です。クライアントのご要望に応えるのが私たちの仕事ですから。特に干支神家からのご依頼は特別ですから」
「……相変わらず、あなたたち夫婦は仲が良いですね」
苦笑しながらも、兎神の口元には笑みが浮かんでいる。まるで、古くからの親友に再会したかのような、そんな態度だった。
「さて、前置きはこれくらいにして……依頼のほうだが、君の予想通りだったな」
神崎博士と呼ばれたほうの男の雰囲気が一変した。緩かった空気が引き締まり、眼光が鋭くなった。とても今までボケボケしていたとは思えない。完全に一流の研究者のそれだ。
「預かった紅い石の正体……何らかの方法で結晶化させた『血液』だ」
「博士がおっしゃるように、いくつか未知の物質が含まれておりますが、概ね成分的には血液です。どのような手段で結晶構造に固定されているのかは、現時点ではわかっておりませんので引き続き分析が必要です」
「さて、これが血液なのはわかったわけだが、君は、これをどこで手に入れたのかな?」
「……どことは?」
「はぁ、君に顔芸は似合わないよ。この世界に、血液を、この硬度で結晶化する技術がどこにある? 硬度だけだったらもはや宝石に近い、砕かないように表面を削り取るのにも苦労した。そんな代物の出所がまともだとは、僕は思わないよ」
神崎博士と女史の視線が兎神に突き刺さる。
「君が|言えない(・・・・)ということは、例のお仕事関係か。いい加減、僕たちを信用してくれてもいい頃だと思うんだけどね」
「あなたたちを信用していないわけではありませんよ。安易に巻き込むわけにはいかないのですよ。それに私にはその権利がありません」
「今更、気を遣うような間柄かい? はぁ、気が向いたら教えてくれよ。そう言えば、最近、当主が変わったそうだね。今後の研究のためにも仲良くしといたほうがいいのかな?」
ピリリリリ、ピリリリリ……
「失礼」
携帯が鳴り、兎神が席を外す。
『司様、お疲れ様です。旅行は楽しまれていますか? ええ、それは結構ですね。ええ? 謎の生物……またですか? 見た目はどういった……毛玉? 食べる物は問題ないならば、保護しましょうか。わかりました、戻ったら手続きできるように用意しておきます。ええ、ヴォルフたちには話しておきます。ええ、それでどういった経緯で? 海で保護ですか。え? リリの正体がばれた? それは……お話になるかどうかは司様にお任せします。わかりました。それで……』
電話の相手は司だった。兎神は司としばし打ち合わせると大凡の指針を決定した。どうやら干支神家に新しいメンバーが加わるらしい。
「お待たせしました」
「いやいや、ご当主様からだろう? そちらを優先してくれて問題ないよ。それで、今後の予定だけど……」
その後、神崎博士たちと今後の方針を打ち合わせて解散となった。
この日、明らかになったのは、魔獣の身体に埋め込まれていた紅い石の正体が血液をベースにした結晶体だったということ。誰がどういう目的で運用しているのか、謎は深まるばかりだ。
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