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第4章 旅にアクシデントはお約束?
4-21 棲龍館での一泊、青葉様御一行の場合①
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お風呂からあがると、それぞれは部屋に戻る。夕食までは各自自由時間だ。
舞たちよりもだいぶ早くお風呂から上がった司は、ロビーで一人、飲み物を飲んでまったりしていた。すぐに部屋に戻らなかった理由は、リリを舞たちから受け取るためだ。
「こんにちは、司さん……で、よろしいんですよね?」
司が椅子に座ってぼーっとしていたら、後方から声をかけられた。
「こんにちは、ええ、合っていますよ。女将の麗華さん、でしたよね?」
声をかけてきたのは、ここ棲龍館の女将の麗華だった。出迎えの時に1回だけ見ていたので顔と名前は覚えていたが、女将だと明確に自己紹介されたわけではない。その1点だけが不確定要素だったのだが、どうやら合っていたいたようだ。
「ええ、そうです。こんなところにお一人でどうされたのかな? と思いまして、声をかけさせて頂きました」
「ああ、お気遣いありがとうございます。特にこれと言ってやることはないのですけどね。舞たちがお風呂から出てくるのを待っているんですよ」
「女性のお風呂は殿方に比べると長いですからね。出てからも色々とすることがありますし。あら? それじゃ、私はお邪魔虫でしたか?」
「いえ、大丈夫ですよ。舞たちを待っているのですけど、本当の理由はリリ、子犬を受け取るためですから。あ、そうそう、リリを受け入れしてもらってありがとうございます。子犬同伴だと泊まれないところが多くて、助かりました」
昨今、ペット同室可の宿泊施設が増えてきてはいるが、それでも昔ながらの旅館などはペット不可が多い。それは施設側が悪いわけではなく、もしペットに何か不測の事態が起きた際に常駐するスタッフでは対応できないという理由もある。
「リリちゃん可愛いですもんね。司さんが旅行に連れていきたいと思うお気持ちわかりますわ。棲龍館は本来ペット禁止なのですけどね、別邸に限ってですが、今回は特別に許可をさせて頂きました。ふふふ」
「もしかして、かなり無理を言いましたか? 申し訳ないです」
「いえ、いつもフワフワと掴みどころのない、あの澪が、すごく真剣な声で頼み込んでくるものですから、びっくりしちゃいまして。リリちゃんはとても賢いし、自分たちがフォローするから迷惑はかけない、今回限りでかまわないからって。あんな澪を見たのは久しぶりです」
「それに、実際にリリちゃんを見たらとっても可愛くて、みなさんともとても仲良しで。ああ、こういう感じもいいなって思っちゃいました。今度、ペット同伴専用の旅館を作ろうかしら。まずはマーケティングと需要調査ですね……」
なんかとてもスケールの大きい話になってきた。麗華は新しくペット同伴専用の旅館を作るとかすごい話をしている。流石はあの澪の知り合いである。それにしても、急にブツブツ言いながら何か考え事をしだした。
「あら? ごめんなさい。私、経営のことになると少し考え込んじゃう癖があるんです。それにしても、割と時間が経ちましたね。ほら、戻ってこられたようですよ? 私は澪に一声かけたらお仕事に戻らせてもらいますね」
麗華がそう言ったので司が振り返ると、舞たちがお風呂から上がって、ロビーのほうに歩いてきているのが見えた。みんな湯上りで高揚しているのがわかる。よほどいい湯だったのか、それとも別の要因があるのか、真実は当事者の舞たちしかわからない。
「司さん、お待たせしました。リリちゃんをお返ししますね。……麗華さんと何を話していたんですか?」
「ん? 世間話程度だな。今回、特別に許可してくれたみたいだったから、リリの受け入れに感謝を伝えたのと、ペット同室の宿泊施設がどうのって話かな? 最後はペット同伴専用の旅館を作るとかすごい話になってたけど」
司は舞からリリを受け取る。温泉に入って洗ってもらい、舞たちが丁寧にブローとブラッシングをしてもらったリリの毛並みは光輝くようなツヤツヤ感を放っていた。そして普段よりもモフモフ感が3割増しである。空気を十分に含んでフワッフワしているし、綺麗にブラシで整えられていて撫でるのを躊躇してしまうくらいだ。
「おー、リリ、随分綺麗になったなぁ。やっぱり、俺がやるのと女の人にやってもらうのだと毛並みが全然違うなぁ。これからは橙花に頼んだほうがいいのかもな」
司が苦笑しながらそう言うと、リリは急に司に自分の身体を擦り付けだした。まるでそれは嫌だ、それは困ると言わんばかりの行動だった。
それもそのはず、リリの中の序列では、ヴォルフたち家族を除き、司が常にトップなのだから。
リリは、地球に初めて来たときに司から受けた恩は忘れることはない。初めてお風呂に入れてもらった時や一緒に毛布にくるまって寝た時の温もりは、今も尚、色あせたことがない。例え、司よりも他の人のほうがお世話がうまかったとしても、司との時間をリリが拒むことはありえないのだ。
司たちからちょっと離れたところでは、こっそりと澪と麗華が密談をしていたのだが、その様子に誰も気づくものはいなかった。今日も今日とて、平和な1日が流れていた。
舞たちよりもだいぶ早くお風呂から上がった司は、ロビーで一人、飲み物を飲んでまったりしていた。すぐに部屋に戻らなかった理由は、リリを舞たちから受け取るためだ。
「こんにちは、司さん……で、よろしいんですよね?」
司が椅子に座ってぼーっとしていたら、後方から声をかけられた。
「こんにちは、ええ、合っていますよ。女将の麗華さん、でしたよね?」
声をかけてきたのは、ここ棲龍館の女将の麗華だった。出迎えの時に1回だけ見ていたので顔と名前は覚えていたが、女将だと明確に自己紹介されたわけではない。その1点だけが不確定要素だったのだが、どうやら合っていたいたようだ。
「ええ、そうです。こんなところにお一人でどうされたのかな? と思いまして、声をかけさせて頂きました」
「ああ、お気遣いありがとうございます。特にこれと言ってやることはないのですけどね。舞たちがお風呂から出てくるのを待っているんですよ」
「女性のお風呂は殿方に比べると長いですからね。出てからも色々とすることがありますし。あら? それじゃ、私はお邪魔虫でしたか?」
「いえ、大丈夫ですよ。舞たちを待っているのですけど、本当の理由はリリ、子犬を受け取るためですから。あ、そうそう、リリを受け入れしてもらってありがとうございます。子犬同伴だと泊まれないところが多くて、助かりました」
昨今、ペット同室可の宿泊施設が増えてきてはいるが、それでも昔ながらの旅館などはペット不可が多い。それは施設側が悪いわけではなく、もしペットに何か不測の事態が起きた際に常駐するスタッフでは対応できないという理由もある。
「リリちゃん可愛いですもんね。司さんが旅行に連れていきたいと思うお気持ちわかりますわ。棲龍館は本来ペット禁止なのですけどね、別邸に限ってですが、今回は特別に許可をさせて頂きました。ふふふ」
「もしかして、かなり無理を言いましたか? 申し訳ないです」
「いえ、いつもフワフワと掴みどころのない、あの澪が、すごく真剣な声で頼み込んでくるものですから、びっくりしちゃいまして。リリちゃんはとても賢いし、自分たちがフォローするから迷惑はかけない、今回限りでかまわないからって。あんな澪を見たのは久しぶりです」
「それに、実際にリリちゃんを見たらとっても可愛くて、みなさんともとても仲良しで。ああ、こういう感じもいいなって思っちゃいました。今度、ペット同伴専用の旅館を作ろうかしら。まずはマーケティングと需要調査ですね……」
なんかとてもスケールの大きい話になってきた。麗華は新しくペット同伴専用の旅館を作るとかすごい話をしている。流石はあの澪の知り合いである。それにしても、急にブツブツ言いながら何か考え事をしだした。
「あら? ごめんなさい。私、経営のことになると少し考え込んじゃう癖があるんです。それにしても、割と時間が経ちましたね。ほら、戻ってこられたようですよ? 私は澪に一声かけたらお仕事に戻らせてもらいますね」
麗華がそう言ったので司が振り返ると、舞たちがお風呂から上がって、ロビーのほうに歩いてきているのが見えた。みんな湯上りで高揚しているのがわかる。よほどいい湯だったのか、それとも別の要因があるのか、真実は当事者の舞たちしかわからない。
「司さん、お待たせしました。リリちゃんをお返ししますね。……麗華さんと何を話していたんですか?」
「ん? 世間話程度だな。今回、特別に許可してくれたみたいだったから、リリの受け入れに感謝を伝えたのと、ペット同室の宿泊施設がどうのって話かな? 最後はペット同伴専用の旅館を作るとかすごい話になってたけど」
司は舞からリリを受け取る。温泉に入って洗ってもらい、舞たちが丁寧にブローとブラッシングをしてもらったリリの毛並みは光輝くようなツヤツヤ感を放っていた。そして普段よりもモフモフ感が3割増しである。空気を十分に含んでフワッフワしているし、綺麗にブラシで整えられていて撫でるのを躊躇してしまうくらいだ。
「おー、リリ、随分綺麗になったなぁ。やっぱり、俺がやるのと女の人にやってもらうのだと毛並みが全然違うなぁ。これからは橙花に頼んだほうがいいのかもな」
司が苦笑しながらそう言うと、リリは急に司に自分の身体を擦り付けだした。まるでそれは嫌だ、それは困ると言わんばかりの行動だった。
それもそのはず、リリの中の序列では、ヴォルフたち家族を除き、司が常にトップなのだから。
リリは、地球に初めて来たときに司から受けた恩は忘れることはない。初めてお風呂に入れてもらった時や一緒に毛布にくるまって寝た時の温もりは、今も尚、色あせたことがない。例え、司よりも他の人のほうがお世話がうまかったとしても、司との時間をリリが拒むことはありえないのだ。
司たちからちょっと離れたところでは、こっそりと澪と麗華が密談をしていたのだが、その様子に誰も気づくものはいなかった。今日も今日とて、平和な1日が流れていた。
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