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第4章 旅にアクシデントはお約束?
4-17 バカンスの約束は唐突に
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3人娘が司の屋敷に夏休みのアポイントを取りに行った日の夜のこと。自分の部屋で宿題をしていた舞の携帯が着信のメロディーを奏でた。舞が現在の時刻を確認したら、22時20分だった。
『もしもし、舞ちゃん、こんばんは~』
宿題の手を止めて電話に出てみたら、声の正体は澪だった。こんな時間に電話をかけてくること自体が珍しい。
「もしもし、澪。どうしたの? こんな時間に」
基本的に澪と優は緊急要件や重要事項以外で、特に雑談が目的で電話をかけてくることはほとんどない。しかも今の時刻は22時過ぎ、それほど重要な内容なのだろうか。
『舞ちゃん、今年の夏休みは何をするの~』
「何よ、急に。今年というか、毎年だけど、武神流の稽古と合宿? かな。いつも通りね。詠美と優の都合がつけばだけど、どこかに遊びに行く? そういえば剛さんの喫茶店にもしばらく行ってないよね」
澪が聞いてきた内容は至って普通だった。数週間後から始まる夏休みの予定。舞の予定は毎年ほとんど変わらない。基本的に武神流の稽古で、合間にちょこちょこっと他の予定が入るだけ。なんとも、今時の女子高生とは思えない内容である。
『なんですかそれ~、その発言はどうかと思います~。女子高生としての自覚が足りてないですね~。女子力が枯渇してますよ~。せっかくの休みなのですから、司さんとデートとか行かないんですか~?』
「女子高生の以前に私は私ですからね。この性分は死ぬまで変わらないでしょう。女子力は……ま、まぁいつかなんとかなるでしょう。司さんも稽古に来るので道場で会う予定ですから、別の機会に場を設定してっていうのもアレなんですよね。忙しそうですし」
『…………』
「ちょ、ちょっと、電話で沈黙しないでよ……。我ながらどうかと思うけど、仕方がないじゃないですか。今までそういうことをしたことがなかったから、今更どうやればいいのかもわからないし……」
『……はぁ、舞ちゃんは女子力をどこに置き忘れてきたのでしょうかね~。ここまでくると逆に感心してしまいます~。なんでそこまで無関心になれるんですか~? 女を捨ててるんですか~?』
澪の言い方はちょっとどうかと思う節もあるが、言い分には一理ある。しかし、幼少の頃より武神流に心血を注いできた舞にとってみれば、逆に今時の女子高生の大半が興味を持っているファッションやコスメやアクセサリーなどの何が良いのかがわからない。
実際に舞は、ファッションは身体の動きを阻害しないような機動性に趣を置いた服ばかりを好み、アクセサリーもワンポイントでちょっと嗜む程度の物しか持っておらず、コスメに至っては皆無と言っていいほどの門外漢だった。それでも限られた中で、可愛らしさや爽やかな印象を与える衣装を心掛けているのだから涙ぐましい努力である。
「ひ、ひどい言われようです……。私だってそんなつもりはないんですよ? 折角、司さんとも知り合いになりましたし、できれば綺麗な格好も見せたいですし……」
『……それを聞いてちょっとだけ安心しました~。それでは夏休みに予定を空けておいてください~。旅行に行きましょ~。すべては私たちにお任せあれ~。それではまた連絡しますね~』
「ちょ、ちょっと、意味が解らないですよ。いつの予定をあけておけば、というか、旅行? どういうことですか? 澪? 澪、ちょっと!」
プツッ、プー、プー、プー。
「切れた……。うがぁー! 私にいったいどうしろと……」
この日、澪から一方的に告げられ、且つ話の途中でぶった切られた内容にモヤモヤとし、なかなか寝付けない舞であった。
そして、数日後の夜。
『もしもし、舞ちゃん? こんばんは~』
現在の時刻は23時過ぎ。再び、澪からの電話である。
「もしもし、澪、こんばんは」
『あ、あれ? 舞ちゃん、声怖いですよ~? 怒ってます? 機嫌悪くないです~?』
「それは自分の胸に聞いてみれば、いいんじゃないですか? 澪、私に隠し事してますよね? あなた何か企んでいますよね?」
『ええ~? 一体何のことでしょうか~? 心当たりが多す……無いです~。私何かしましたっけ~?』
今、一瞬、心当たりが多すぎとか言ったのは気のせいなのか……。澪はあくまで自分は無実だと白を切り通す予定らしい。なんというか確信犯すぎて、ここまでくると面白い。
「私だけならともかくとして、司さんまで巻き込んで、あなたという人は……」
(澪は、悪気が無いだけに余計に性質が悪いですね。まぁ純粋に私の為を思って計画したのでしょうが……それでも自分も楽しめるようにと悪知恵は働かせているはずです。司さんに迷惑をかけるわけにはいきませんから、あなたの思い通りにはさせませんよ!)
『えへへ~、でもでも、この件には司さんも快諾してくれましたし~。思ったより大所帯になっちゃいましたけど、私も楽しみなんですよ~。舞ちゃんも同じでしょう~?』
「まぁ、悔しいですが楽しみは楽しみですね。あなたたちと一緒に旅行に行くのも、中学の修学旅行以来ですから。行くのは青葉家の島なんですよね?」
『そうです~。詳しいスケジュールは後日詰めましょ~。あ、あと宗司さんにも声をかけておいてくださいね』
「わかりました。くれぐれも悪巧みはダメですよ?」
『またまた~、私はそんなことしませんよ~。それじゃおやすみなさい』
「はい、おやすみなさい」
『もしもし、舞ちゃん、こんばんは~』
宿題の手を止めて電話に出てみたら、声の正体は澪だった。こんな時間に電話をかけてくること自体が珍しい。
「もしもし、澪。どうしたの? こんな時間に」
基本的に澪と優は緊急要件や重要事項以外で、特に雑談が目的で電話をかけてくることはほとんどない。しかも今の時刻は22時過ぎ、それほど重要な内容なのだろうか。
『舞ちゃん、今年の夏休みは何をするの~』
「何よ、急に。今年というか、毎年だけど、武神流の稽古と合宿? かな。いつも通りね。詠美と優の都合がつけばだけど、どこかに遊びに行く? そういえば剛さんの喫茶店にもしばらく行ってないよね」
澪が聞いてきた内容は至って普通だった。数週間後から始まる夏休みの予定。舞の予定は毎年ほとんど変わらない。基本的に武神流の稽古で、合間にちょこちょこっと他の予定が入るだけ。なんとも、今時の女子高生とは思えない内容である。
『なんですかそれ~、その発言はどうかと思います~。女子高生としての自覚が足りてないですね~。女子力が枯渇してますよ~。せっかくの休みなのですから、司さんとデートとか行かないんですか~?』
「女子高生の以前に私は私ですからね。この性分は死ぬまで変わらないでしょう。女子力は……ま、まぁいつかなんとかなるでしょう。司さんも稽古に来るので道場で会う予定ですから、別の機会に場を設定してっていうのもアレなんですよね。忙しそうですし」
『…………』
「ちょ、ちょっと、電話で沈黙しないでよ……。我ながらどうかと思うけど、仕方がないじゃないですか。今までそういうことをしたことがなかったから、今更どうやればいいのかもわからないし……」
『……はぁ、舞ちゃんは女子力をどこに置き忘れてきたのでしょうかね~。ここまでくると逆に感心してしまいます~。なんでそこまで無関心になれるんですか~? 女を捨ててるんですか~?』
澪の言い方はちょっとどうかと思う節もあるが、言い分には一理ある。しかし、幼少の頃より武神流に心血を注いできた舞にとってみれば、逆に今時の女子高生の大半が興味を持っているファッションやコスメやアクセサリーなどの何が良いのかがわからない。
実際に舞は、ファッションは身体の動きを阻害しないような機動性に趣を置いた服ばかりを好み、アクセサリーもワンポイントでちょっと嗜む程度の物しか持っておらず、コスメに至っては皆無と言っていいほどの門外漢だった。それでも限られた中で、可愛らしさや爽やかな印象を与える衣装を心掛けているのだから涙ぐましい努力である。
「ひ、ひどい言われようです……。私だってそんなつもりはないんですよ? 折角、司さんとも知り合いになりましたし、できれば綺麗な格好も見せたいですし……」
『……それを聞いてちょっとだけ安心しました~。それでは夏休みに予定を空けておいてください~。旅行に行きましょ~。すべては私たちにお任せあれ~。それではまた連絡しますね~』
「ちょ、ちょっと、意味が解らないですよ。いつの予定をあけておけば、というか、旅行? どういうことですか? 澪? 澪、ちょっと!」
プツッ、プー、プー、プー。
「切れた……。うがぁー! 私にいったいどうしろと……」
この日、澪から一方的に告げられ、且つ話の途中でぶった切られた内容にモヤモヤとし、なかなか寝付けない舞であった。
そして、数日後の夜。
『もしもし、舞ちゃん? こんばんは~』
現在の時刻は23時過ぎ。再び、澪からの電話である。
「もしもし、澪、こんばんは」
『あ、あれ? 舞ちゃん、声怖いですよ~? 怒ってます? 機嫌悪くないです~?』
「それは自分の胸に聞いてみれば、いいんじゃないですか? 澪、私に隠し事してますよね? あなた何か企んでいますよね?」
『ええ~? 一体何のことでしょうか~? 心当たりが多す……無いです~。私何かしましたっけ~?』
今、一瞬、心当たりが多すぎとか言ったのは気のせいなのか……。澪はあくまで自分は無実だと白を切り通す予定らしい。なんというか確信犯すぎて、ここまでくると面白い。
「私だけならともかくとして、司さんまで巻き込んで、あなたという人は……」
(澪は、悪気が無いだけに余計に性質が悪いですね。まぁ純粋に私の為を思って計画したのでしょうが……それでも自分も楽しめるようにと悪知恵は働かせているはずです。司さんに迷惑をかけるわけにはいきませんから、あなたの思い通りにはさせませんよ!)
『えへへ~、でもでも、この件には司さんも快諾してくれましたし~。思ったより大所帯になっちゃいましたけど、私も楽しみなんですよ~。舞ちゃんも同じでしょう~?』
「まぁ、悔しいですが楽しみは楽しみですね。あなたたちと一緒に旅行に行くのも、中学の修学旅行以来ですから。行くのは青葉家の島なんですよね?」
『そうです~。詳しいスケジュールは後日詰めましょ~。あ、あと宗司さんにも声をかけておいてくださいね』
「わかりました。くれぐれも悪巧みはダメですよ?」
『またまた~、私はそんなことしませんよ~。それじゃおやすみなさい』
「はい、おやすみなさい」
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