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第4章 旅にアクシデントはお約束?

4-7 武神宗司という男の生い立ち③

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 巌と宗司が失踪してから2年が過ぎる。

 2人がいなくなった、この2年間は、舞はずっと不安だった。兄はいったいどこへ行ってしまったというのか。舞は不安だった。最後に見た、父親の思いつめたあの表情を見て。舞は不安だった。母親のいつも以上に気丈な態度を見て。

 自分のせいで宗司が怪我をした。自分のせいで宗司が歩けない身体になった。
凛は舞に常日頃から、舞のせいではない、と言い聞かせてきたが、それでも舞は気持ちを割り切ることなんてできなかった。自分のせいだと思い続けていたのだ。

 まさか、父と兄は|死ぬつもり(・・・・・)ではないのか、と。だから、自分に黙って出て行ったのではないのか、と。舞は心配でしょうがなかったのだ。

 今日も日課の稽古をこなしながら、舞の心はここに在らずだった。父と兄のことを考えると、心配でいまいち稽古にも身が入らない。そのせいで、何度となく凛から怒られたことか。ただ、舞が悩んでいる原因もわかっているために凛も強くは言うことができないのだが。

「はぁ、お父さんとお兄ちゃんはどこにいっちゃったんだろう……」

 舞はため息をつきつつも、日課になっている道場の清掃を行っていく。これは宗司に教えてもらったこと。舞はこの作業で1日も手を抜いたことはない。心配でも不安でも、舞の身体は覚えたことを忠実にこなしていく。道場に感謝すること、故に清掃には手は抜いてはいけない、これは宗司と最後に約束したことだからだ。

「いけないいけない、しっかりしないと。考え事しながら掃除したら道場に失礼よね」

 不安と心配は考えだしたら尽きないが、舞はとりあえず日課を真剣にこなすことを優先したようだ。壁から床へ、掃き掃除から水拭きへ、いつもの手順で清掃を行っていく。

 清掃が一通り全て終わった頃、道場に入ってくる人がいた。
 背が高く、全身が筋肉ではち切れんばかりになっており、無造作に伸びた髪の長い男。舞の知り合いで、このようなフォルムの人間は一人しかいないが、顔つきが違うし、雰囲気が似ても似つかない。そして、何より年が若すぎる。何となく見たことがあるような気がするが、舞には誰かが全く分からなかった。でも、悪い人じゃないということだけは確信していた。

「あの……、どちら様でしょうか? 新しい門下の方ですか? 今はまだ道場は時間ではありませんので、後で来て頂けますでしょうか?」

 舞の姿を見た男は石像のように固まっていたが、声を聞いた瞬間、感極まって舞に突然抱き着いた。筋肉質の大男が、まだ小学生の女の子に抱き着く事案が発生、事件である。

「舞! 会いたかったよ!」

「……えっ!?」

 突然の出来事に、舞の頭が真っ白になった。そして、次の瞬間、反射的に抱き着いてきた男を全力で張り倒した。バシィっと気持ちいい音が道場内に響き、その男は床と熱烈なキッスを交わす。

「ぶふっ」

 舞の無体な行動で道場の床に突っ伏す謎の男。しかし、常識的に考えたら悪いのは100%この男である。見ず知らずの人間にいきなり抱き着かれたら、相手に殴られても文句は言えないだろう。むしろ舞の性格を鑑みれば、この程度で済んだことは御の字と思わなければならない。

 舞が不審者出現を警察に通報をしようかどうしようかと迷っていたところに、さらなる来訪者が現れた。



「そんなところで、何をやっておるのだ……宗司」

 宗司? 今、宗司と言いましたか? まさか、この床に突っ伏している男、これがお兄ちゃんですか? 全然気づきませんでした……。というか、この声はお父さんですね。そうですか。やっと、やっと帰ってきてくれたんですね……。よかった、本当によかった……。

「痛いよ、舞。久しぶりの再会なのにひどい仕打ちじゃないか。……ただいま、今戻ってきたよ」

 そう言って起き上がった男の顔は、よくよく見てみれば兄の面影を少し残したまま、すごく大人びた表情になっていました。
背も、体つきも、私が知っている2年前の兄の姿はどこにもなく、最後に見た車いすで移動していた痛々しい姿でもなく。自分の足で、しっかりと、確かに立ち上がったお兄ちゃんの姿でした。

「今まで……今まで、どこに行っていたの、ですか? 私が、どれだけ心配したと思っているの、ですか? 黙って、何も知らせずに出ていくなんて……。お母さんも何も教えてくれないし……。そ、それに、お兄ちゃん、足が……」

 私の顔を見た2人が、急にうろたえ始めました。声が掠れているし、視界が滲んでいるのがわかるので、きっと涙目になっているのでしょう。ああ、だめだ……今まで我慢していたけど、安心したら……。

 それから私はお兄ちゃんに縋りついたまま、しばらくわんわんと泣いてしまいました。お兄ちゃんは私が泣いている間、2年前よりすごく大きくなった手で、ずっと私の頭を撫でてくれていました。

 私のせいでごめんなさい。でも、生きて戻ってきてくれて、ありがとう。本当に、本当によかった……。
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