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第3章 干支神はファンタジーな一族を家に迎える
3-22 武神の少女の本質、そして……① the power
しおりを挟む この獣を見たときのリリの反応は異常でした。プルプルと小刻みに震えだし、身体全体に余計な力が入っています。つい先ほどまでのリラックスした状態は一体どこへ行ったかのような緊張度合です。これは、あの獣に怯えている反応? リリはアイツを知っている?
「リリ? アレを知っているのですか?」
「……舞さん、逃げましょう。あれはダメです。あれは私の家族の、お父さんとお母さんでもやっつけられなかった魔獣です。とっても強いんです」
「アレはこちらを見逃してくれるような、生易しい存在じゃありませんよ。仕方がありません。リリ、下がっていなさい、手を出さないように」
「ダメです! 舞さん逃げましょう、アレと戦っちゃダメです! アレは……」
「リリ、下がりなさい」
私は言の葉に力を込めて、リリを強制的に下がらせます。こんな怯えた状態で戦闘に巻き込まれたらケガをしかねません。それに、リリのような子供に戦わせるわけにもいきません。言葉を聞いたリリは、一瞬びくっと反応してからおずおずと後方に下がっていきました。それを気配で確認してから、今の私の相棒である旋棍を構えます。まぁ、最初から油断していたわけでもなく、もし向こうから不意打ちされたとしても反応はできますけどね。
「さぁ、お待たせしました。それにしても、律儀に待ってくれるとは意外でしたよ。顔は不細工な原始人のようにむさ苦しいので全然好みではありませんが、意外に知性的なのでしょうか?」
皮肉の一つも言ってみましたが、魔獣さんとやらに変化はありませんでした。やはり言葉を解するような知性はないようですね。しかし、相変わらず肌がピリピリするくらいの敵対心です。なんか恨み骨髄って感じです。
私はゆっくりと歩いて魔獣へと向かいます。そして、距離が残り3メートルくらいになった瞬間に、それまで見ているだけだった魔獣の身体が動きました。大きく空に向けて振りかぶられ、そして力任せに思いっきり振り落とされる右の腕。体捌きだけで左にそれを避けると、私に向けて振り下ろされた右腕は、何も存在しない空を切り、地面の土を大きく抉りとりました。身体の大きな魔獣からしたら私は小動物みたいなものですから、叩き潰せば終わりとでも思ったのでしょう。
地面を叩いた自分の腕と、未だ立っている私とを見比べて、魔獣の顔に初めて感情というものが浮かびました。それは憤怒なのか、それとも憎悪なのか、何かはわかりませんが、少なくともそういったドロドロとした負の感情です。
「ゴルゥウアアアアア!!!」
魔獣は苛立ったように咆哮をあげると、今度は左右の腕を使って駄々っ子のように私めがけて振り下ろしてきました。これでもかというくらい連続で地面に叩きつけられる左右の腕、それこそ叩き潰して欠片も残さないと言わんばかりの行動ですが、私は一撃目が振り下ろされる瞬間に、魔獣の背後に回り込みました。結果、魔獣が必死に叩いているのは、そこに誰もいない地面の土のみ。その無防備な背中を一瞥しつつ、私はお返しとばかりに、旋棍を使って横殴りに叩きつけます。狙いは右脇腹です。
肉を叩く鈍い音と同時に、確かな手ごたえがありました。旋棍が当たった瞬間に、私の手に分厚いゴムタイヤでも殴ったような抵抗がありましたから。これ、もし人間にやったらあばら骨が折れますね。危ないですから真似はしないように。
すぐに軽く後ろに飛び退いて距離を取ります。魔獣のほうは何をされたか意味がわからないといった様子ですね。地面を叩くのを止めて、叩かれた自分の脇腹を調べています。あれだけ強く叩いたのに痛くないんでしょうか? でも、気にしているくらいですから衝撃はあったはずですよね。あ、後ろでピンピンしている私に気づいたようです。これは相当、頭にきたようですね。眉間にしわがよっています。人間でいうところの怒り心頭って感じです。
「ガルァァアアアアア」
魔獣は、怒りの咆哮をあげながら私に向かって突進してくると、今度は手に生えている爪を使って薙ぎ払ってきました。叩き潰すのは諦めましたかね? それにしても、こんな大振りで見え見えな攻撃が当たるとでも思っているのですかね。私は体捌きで避けつつ、躱し切れないものは特殊合金製の旋棍で受け流していきます。爪を受けても旋棍は折れたり、切れたりはしないようでした。未知の生物の攻撃ですから、本気で受ける前に当たりをつけておかないといけません。あの爪もどんな強度と硬度かわかりませんし。いざという時に受けたら防御できませんでした、じゃ冗談にもなりません。
しばらく回避しながら、隙があれば旋棍で胴を叩いてみたのですが、まったく効くそぶりがありません。どの攻撃も普通の人間が受けたら骨の1本や2本折れてもおかしくないんですけれど、頑丈な身体ですね。
あちらの攻撃は一発でも貰ったら致命的で、こちらの攻撃は普通に打っても効いているのかいないのかわからず、あちらはあれだけ激しい動きをしているのに体力は減っている気配もありませんが、こちらは回避するたびに徐々に体力が奪われています。この調子だと持って1時間というところでしょうか? このまま時間が経過して体力を消耗したら、判断ミスをした瞬間に形勢を持っていかれそうです。これは本格的にどうやって対処するかを考えないと不味いですね。
しかし、どうやったら止まるんですかね? この生き物は。
「リリ? アレを知っているのですか?」
「……舞さん、逃げましょう。あれはダメです。あれは私の家族の、お父さんとお母さんでもやっつけられなかった魔獣です。とっても強いんです」
「アレはこちらを見逃してくれるような、生易しい存在じゃありませんよ。仕方がありません。リリ、下がっていなさい、手を出さないように」
「ダメです! 舞さん逃げましょう、アレと戦っちゃダメです! アレは……」
「リリ、下がりなさい」
私は言の葉に力を込めて、リリを強制的に下がらせます。こんな怯えた状態で戦闘に巻き込まれたらケガをしかねません。それに、リリのような子供に戦わせるわけにもいきません。言葉を聞いたリリは、一瞬びくっと反応してからおずおずと後方に下がっていきました。それを気配で確認してから、今の私の相棒である旋棍を構えます。まぁ、最初から油断していたわけでもなく、もし向こうから不意打ちされたとしても反応はできますけどね。
「さぁ、お待たせしました。それにしても、律儀に待ってくれるとは意外でしたよ。顔は不細工な原始人のようにむさ苦しいので全然好みではありませんが、意外に知性的なのでしょうか?」
皮肉の一つも言ってみましたが、魔獣さんとやらに変化はありませんでした。やはり言葉を解するような知性はないようですね。しかし、相変わらず肌がピリピリするくらいの敵対心です。なんか恨み骨髄って感じです。
私はゆっくりと歩いて魔獣へと向かいます。そして、距離が残り3メートルくらいになった瞬間に、それまで見ているだけだった魔獣の身体が動きました。大きく空に向けて振りかぶられ、そして力任せに思いっきり振り落とされる右の腕。体捌きだけで左にそれを避けると、私に向けて振り下ろされた右腕は、何も存在しない空を切り、地面の土を大きく抉りとりました。身体の大きな魔獣からしたら私は小動物みたいなものですから、叩き潰せば終わりとでも思ったのでしょう。
地面を叩いた自分の腕と、未だ立っている私とを見比べて、魔獣の顔に初めて感情というものが浮かびました。それは憤怒なのか、それとも憎悪なのか、何かはわかりませんが、少なくともそういったドロドロとした負の感情です。
「ゴルゥウアアアアア!!!」
魔獣は苛立ったように咆哮をあげると、今度は左右の腕を使って駄々っ子のように私めがけて振り下ろしてきました。これでもかというくらい連続で地面に叩きつけられる左右の腕、それこそ叩き潰して欠片も残さないと言わんばかりの行動ですが、私は一撃目が振り下ろされる瞬間に、魔獣の背後に回り込みました。結果、魔獣が必死に叩いているのは、そこに誰もいない地面の土のみ。その無防備な背中を一瞥しつつ、私はお返しとばかりに、旋棍を使って横殴りに叩きつけます。狙いは右脇腹です。
肉を叩く鈍い音と同時に、確かな手ごたえがありました。旋棍が当たった瞬間に、私の手に分厚いゴムタイヤでも殴ったような抵抗がありましたから。これ、もし人間にやったらあばら骨が折れますね。危ないですから真似はしないように。
すぐに軽く後ろに飛び退いて距離を取ります。魔獣のほうは何をされたか意味がわからないといった様子ですね。地面を叩くのを止めて、叩かれた自分の脇腹を調べています。あれだけ強く叩いたのに痛くないんでしょうか? でも、気にしているくらいですから衝撃はあったはずですよね。あ、後ろでピンピンしている私に気づいたようです。これは相当、頭にきたようですね。眉間にしわがよっています。人間でいうところの怒り心頭って感じです。
「ガルァァアアアアア」
魔獣は、怒りの咆哮をあげながら私に向かって突進してくると、今度は手に生えている爪を使って薙ぎ払ってきました。叩き潰すのは諦めましたかね? それにしても、こんな大振りで見え見えな攻撃が当たるとでも思っているのですかね。私は体捌きで避けつつ、躱し切れないものは特殊合金製の旋棍で受け流していきます。爪を受けても旋棍は折れたり、切れたりはしないようでした。未知の生物の攻撃ですから、本気で受ける前に当たりをつけておかないといけません。あの爪もどんな強度と硬度かわかりませんし。いざという時に受けたら防御できませんでした、じゃ冗談にもなりません。
しばらく回避しながら、隙があれば旋棍で胴を叩いてみたのですが、まったく効くそぶりがありません。どの攻撃も普通の人間が受けたら骨の1本や2本折れてもおかしくないんですけれど、頑丈な身体ですね。
あちらの攻撃は一発でも貰ったら致命的で、こちらの攻撃は普通に打っても効いているのかいないのかわからず、あちらはあれだけ激しい動きをしているのに体力は減っている気配もありませんが、こちらは回避するたびに徐々に体力が奪われています。この調子だと持って1時間というところでしょうか? このまま時間が経過して体力を消耗したら、判断ミスをした瞬間に形勢を持っていかれそうです。これは本格的にどうやって対処するかを考えないと不味いですね。
しかし、どうやったら止まるんですかね? この生き物は。
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