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第3章 干支神はファンタジーな一族を家に迎える

3-11 とある先人の手記より、自称天才冒険家の独白 ぱーとすりー

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『○月○日晴れ、探索198日目。先日、この草原に果てはあるのだろうか?と唐突に疑問に思い、ガイと一緒に住処を離れて5日を数えるに至った。ガイには、私の気まぐれの行動に付き合ってもらってとても助かっている。このまましばらく東へ進んでみようと思う。幸い、この草原が続く限りは、私とガイの食料には困らないだろう。草原に点在する果実の木からは、ガイの好物である果実が豊富に取れるし、時々見かける林では保存食になる木の実なんかもたくさん拾うことができる。本当に自然が豊かなところだ。しかし、たまには肉も食べたくなる。住処に戻ったら、食肉用に畜産でも始めてみようか。そうそう肉で思い出した、先日湿原を通った時にヘビのような生物に遭遇した。遭遇したと言っても、登場と同時にガイが踏みつぶしたのだが。見た目はでかいヘビだったのだが、せっかくだから解剖してよくよく観察したら構造的にはウナギに近い種類だった。しまった、ウナギと同一種の場合、血に毒がある可能性がある。そうはいっても、もうしょうがないから湿原の水でよくよく手を洗い、ついでにウナギモドキの身もしっかりと洗う。これかば焼き何人分になるんだろう。次の頁へ続く。』



『前の頁の続き、ガイの背中に乗って急いで湿原を移動して、再び草原に出る。ウナギモドキの肉を食べるにしても最低限火は通したい。どうやら、この辺りは草原、湿原、河で構成されているようだ。もっとも湿原は雨水が溜まっているだけなのかもしれない。手頃な林を見つけると、ガイに直径2メートル深さ20センチほどの穴を掘ってもらい、そこに拾い集めてきた枝を投入する。種火をつけて、燃え広がるまでにヤシの実のような果実の葉に先ほどのウナギモドキの肉とわずかな調味料を包んでおく。火が良い具合になったら、葉包ごとウナギモドキの肉を焚火の中に放り込む。この葉にはとても燃えにくい性質があり、中に肉などを包んで外から火で焼けば、葉の水分で中のものが蒸し焼きになるというお手軽簡単料理だ。この状態で30分も焼けば大丈夫だろう。ガイにも食事としてヤシの実モドキを渡すと喜んで齧り付いた。最近、ガイはかなり美食家になったのか、私といる間はヤシの実モドキみたいな果実類しか食べなくなった。一人の時や、空腹でどうしようもなくなった場合は、しょうがなく草を食んでいる感じだ。こんな様子では、もし私がいなくなった場合、野生に戻れるのだろうか。もちろん友として最後まで面倒は見るつもりだが、私の身にいつ何時、何が起こるかわからない。未来に一抹の不安がよぎる。次の頁へ続く。』



『前の頁の続き、そろそろ、ウナギモドキが焼きあがったはずだ。焚火から葉包を取り出して開くと、白い蒸気とともに香辛料のいい匂いがした。原始的な食欲が刺激される。やはりウナギには山椒だよ。さっき林でガイの果実を探していた時に、山椒によく似た実を見つけることができたのがよかった。確認のために、実を潰して舐めてみたが、ピリっとした山椒の風味そのものだった。さて、ウナギモドキの白焼きを食べてみる。塩と山椒のみのシンプルな味付けだが、これは美味い。もともとが筋肉質なためか、肉質はやや硬めで弾力があり歯ごたえはあるが、噛むたびに肉そのものの旨みが溢れる。山椒を潰して入れて蒸したためか、肉の臭みもまったく感じられない。貴重なたんぱく源のため、ついつい箸が進み、夢中になって食べ続けてしまった。今回はたまたまガイが踏みつぶして手に入ったが、今度湿原でウナギモドキを見かけたら積極的に捕まえようかと思う。ちなみに、ガイはウナギモドキの白焼きには見向きもしなかった。果実を食べて満足して食休みしていたガイに、白焼きを鼻先に近づけてやったら、少し匂いは嗅いだもののプイっとして、再び食休みに戻った。どうやら彼は果実のほうがお気に入りのようだ。このおいしさが共有できないのが残念だ。』



『○月○日晴れ、探索203日目。その在り方、まさに圧巻、その一言に尽きる。風貌は雄大にして、圧倒的な存在感。この姿が見られただけで、この世界を旅している価値があったというものだ。これがあるから、楽しくて冒険家は辞められない。ガイに乗って東に移動すること数日、今我々の目の前にあるのは1本の樹。いや、目の前にあると言っても、表現が正しくないな。正確には、目の前の空に、雲一つないその虚空に、その御身の影が僅かに見えるというところか。あれでは、まるで不尽の山のようではないか。背中がムズムズするし、全身にゾクゾクと鳥肌が立つ。これを見てしまうと、一刻もはやく実物を見に行きたい欲求に駆られてしまう。これはもう職業病だな。ガイ、あそこまで頼むよ。』



『○月○日晴れ、探索205日目。我々は、ついにその姿を視界に捉えた。見上げるほどの、いや見上げても、尚その頂きは視認できないほどの、大きな大きな1本の大樹。その足元には、まるで大樹の眷属のように、まるで大地の掌のように、深く広大な森が広がっている。幾星霜、一体どれほどの月日を重ねれば、このような大樹と成り得るのか。私のように、この世に生を受けて、たかだか30数年しか経っていないこの身には、まったく想像もできない世界だ。私は敬意と、この大樹に巡り合えた幸運への感謝を込めて、この大樹をこう呼ぶことにした。・・・『長老樹』と。』






 我が子孫よ、私と同じ志を持つ者たちよ、あるいはこの手記を見たすべての者達よ。

 己が生きる世界をもう一度見まわして、そして考えなさい。君が生きる世界に、己の命を賭すだけの価値ある輝く何かはあるか?今の生き方に満足しているか?例え、今日死んだとしても悔いはないか?自分はいったい何がしたいのか、何を成すのか、何を作り上げるのか。それは別になんでもいい、その答えは君たちの数だけ、星の数ほどあるだろう。

 ただし、その答えを見つけ出すことを止めてはいけない、探すことを諦めてはいけない。

 時には、自分の知らない世界を知ることも重要だ。外の世界には君の知らない価値観があるからだ。それは必ず君の生きるための血肉となる。行き詰った時には、心を休めることも大切だ。最短距離だけが答えじゃない、回り道するのも案外悪くない。

 君たちが思っている以上に、想像できる以上に、世界は広く、そして君たちのすぐ隣に在る。自分で決めた小さき世界に閉じこもるな、箱庭のような小さき世界で生きることに満足をするな、妥協はするな。自分には無理だなんて、諦めるな。

 時には、私のように心に一握りの勇気だけを持って、未知を求めて外の世界へ旅立て。

 なに、心配などいらない、私のような矮小な人間にも出来ていることだ。君たちにできないはずはない。大切なのは、最初の一歩を踏み出すことだ。最初の一歩さえ踏み出すことが出来さえすれば、このような素晴らしき未知の世界が、外には待っているのだ。

 私の見たこの世界を、この滾る熱い情熱を、この自然の雄々しき姿を、この感動を、今度は己が眼(まなこ)と心で確かめてみるがいい。

 私は君たちに、この手記と情報を残そう。いつか君たちが、私と同じ景色を見て、私以上の感動を感じ、そして、たくさんの者たちと分かち合えることを。なんだか、ワクワクしてこないか?

 この身が志半ばで力尽きようとも、この命の期限が尽きようとも。私は、私の道を征く。

 私は君たちよりも先に行き、そこで、君たちを待っているぞ。

 この未知なる世界の果てで、そして、未だ見果てぬ世界の端で、私は君たちがたどり着くのを、いつまでも待っている。

 例え、この身が朽ちたとしても、その朽ちたるこの身が、征く先に残す私の墓標こそが、君たちの歩きだすための、一筋の導(しるべ)とならんことを。

 そして、どうか私が先駆けとなることで、一人でも多くの君たちの心に、ほんのわずかにでも勇気を与え、その背中を押すことで、私と同じ景色に至ることができる者たちが、私と同じ志を持つ者たちが現れてくれることを。

 そして、私の逝ったその先に、私がついぞ見ることができなかった景色を、その未知なる世界のその果てを、今度は君たち自身が探し出し、君たち自身の眼で見ることができる者たちが現れてくれることを、ここに切に祈る。

冒険家、干支神・E・始(えとがみ・いー・はじめ)










 まぁ、まだ死んでないし、ぜんぜん死ぬ気もないけどね!
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