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第2章 Girl meets boy and fantasy

2-1 武神の少女は落ち着かない

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 ただいまの時刻は、朝の5時でございます。私は今、実家の道場の中で、朝の日課の瞑想を行っております。まだ辺りは薄暗く、周りから聞こえてくるのは自然界の音のみ、このぴんと張り詰めたような静謐な朝の空気が、私は大好きです。

 私の朝は、まず道場の清掃を行い、その後瞑想をして心を落ち着け、それから日々の稽古を始めるのが日課です。いつもなら瞑想をしていると、とても穏やかな気分になり、その後の稽古もとても清々しい気持ちで臨むことができます。でも、今日は瞑想をしていても、ちっとも心が落ち着きません。むしろ考えないようにすればするほど、逆に思考がぐるぐるとなり、心が千々に乱れるのです。

 いけないいけない、心を落ち着けないと。・・・はぁ。でも、ため息が自然と出てしまいました。なぜならば、私、武神舞(たけがみ、まい)は今まで16年の人生で最も悩んでおります。・・・はぁ。私がこんなに悩んでいるのにはわけがあります。それもこれも昨日、お父様が変なことを言うのが悪いのです。



 事の発端は、昨日の夜でした。家族との晩御飯が終わったあと、私はお父様とお母様に道場へ来るようにと呼ばれました。2人からの呼び出しなんて珍しくて、なんだろう?と不思議に思いながら、2人の待つ道場へ向かいました。要するに、父母私の3人での内緒話ということですね。

 正直なところ、この段階で怪しいことに気づくべきだったのかもしれません。我が家で内緒話をするという異常事態なことに。

 代々、我が家は武道を嗜んでおります。そのためかどうかわかりませんが、はっきり申し上げて、脳みそまで筋肉でできていらっしゃる方々が多いのです。特に、私の兄などはガハハ系の極みと申しますか、筋肉さえあれば、全てを解決できると考えているくらいです。ええ、それはもう、見ていて恥ずかしい上に、暑苦しいことこの上ありません。ただ、性格はひどく真っすぐで素直なバカのため、憎むに憎めないのが難点なところですね。そんな兄のことですから、もしこの話を聞いたら、家を飛び出して人様に迷惑をかけるんじゃないかと不安になって呼ばなかったのも肯けるというものです。そうなったら、きっと兄は犯罪者街道に向けて華麗にスタートダッシュを決めてしまうでしょう。猫もまっしぐらな勢いです。

 おっと、話が逸れてしまいました。両親に呼び出しを受けた私は、夜の道場の扉をあけました。道場の上座には、相変わらずのしかめっ面で目を閉じたまま腕組みをして座ったお父様と、その隣にはいつもより無駄にニコニコして座っているお母様がいました。もうこの時点で、すでに嫌な予感しかしません。正直回れ右して部屋に帰りたい気分です。しかし、ここに呼ばれた以上お父様と話をしなければ埒もあかないので、道場の中に入ると5メートル手前くらいで正座をして、父に話しかけました。

「お父様、参りました。それで、お話はなんでしょうか?」
 
「まぁそう急ぐでない。どうだ、最近の調子は?学校とか、勉強とか、友達はいるのか?」

 私が話しかけると、そのしかめっ面は目を開きました。そして、こちらをちらりと見ると今まで聞いてきたこともないことを聞いてきました。いつもお父様との会話の大半は稽古のことばかりです。握りが甘いだの、踏み込みが数瞬遅いだの、そんな色気もない会話が日常でした。なのに、急にこんなことを聞いてくるなんて、このしかめっ面は、いったい何を考えているのでしょう・・・。

「ええ、問題はないですよ。勉強はあまり得意ではありませんので、学校では真ん中くらいの成績でしょうか。体育は得意ですので、学年で1番です。友達はあまり多いほうではないと思います。クラスで仲のいい女の子が3人くらいでしょうか。私は、学校が終わると道場優先で行動していますから、なかなか交流ができていないというのが現状ですね。」

「おう、そうか・・・。どうだ、舞が必要と思うなら、稽古の時間を削って、もっと学校や友達との時間を作ってみるか?お前にはこれまでそういう配慮をしてこなかったからな。すまなかったと思っている。もう16になったことだし、これからはそう言う時間も必要ではないか?彼氏とかおらんのか?」

 このしかめっ面は本当に何を考えているのでしょうか。稽古の時にでも頭を強打したのでしょうか。もしくは、幻覚作用のあるものでも食べたのでしょうか。今まで口を開けば、やれ稽古だ、やれ走り込みだとかほざいていたのは一体誰でしょう。私がこんな性格に育ってしまった一端は確実にこのしかめっ面のせいです。きっと、そうです。

「私は自分がしたいことをしておりますので、そういう気遣いは結構です。今は稽古が楽しいので、彼氏なんていりません。お父様は何が言いたいのでしょうか。今日の稽古で頭でも打たれましたか?それとも、もうボケましたか?」

「まあまあ、だめですよ、舞。お父様も舞のことが心配なのです。そんな言い方をしては、めっ、です。」

 おっと、つい素が出てしまいました。それはともかく、お母様が初めて反応しましたね。しかし、私もう16になるのに、この年にもなって、めっ、はないでしょうに。

「ごほん、ごほん。」

 わざとらしい咳払いをしましたね、このしかめっ面は。話を変えようとしているのがバレバレです。

「そうか、彼氏はいないか。うむ、実はだな、お前も16になったことだしだな。許嫁を決めておいたのだ。知り合いの孫なのだが、お前と歳も近い。お前がそんな性格になってしまったのは私たちのせいでもあるが、このまま放っておいたら行き遅れてしまいそうだし。いい機会だと思ってな。」



 ・・・・・・・・・・・・・・・はっ?!

 このしかめっ面は今何とほざきやがりましたか????
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