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第7章 話が進んだら変更します
7-10 再起への道を駆け抜ける
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あの時の怪しい行動は、実はカノコの演技だった。
リリたちから齎された衝撃の事実に、周りにいた人たちは困惑を隠せなかった。
「それで、体調はどうだい? アレの本質をかなり調整したから、司の身体には馴染んでいると思うけど、何か違和感があればすぐに言ってほしい」
「今のところ、問題らしい問題はないぞ。視界が少し悪いくらいかな?」
「うーん、目はどうしても影響の出やすい部分だからね、私たち寄りになってしまうのは致し方ないか。今、視力が一時的に下がっているのは、こちらの光源に慣れていないからだと思うから、すぐに慣れると思うよ」
「なら、後は早く元の状態に戻せるように運動するだけだな。起き上がるくらいは出来る様になったから、少しずつでも動いていかないと」
色の変わってしまった司の目を除き込みながら、うんうんと観察するカノコ。
カノコが顔を近づけた時に、少しだけムッとしてしまったのは可愛い反応だった。
「そうだね。でも、無理はしちゃいけないよ。司は他人のために頑張りすぎる傾向があるからね。リリちゃんからも言われただろう? 今、優先するのは自分自身だ。司が倒れてから、この家の人は誰一人として本当の意味で笑った人はいなかった。君が居てこそ、幸福を感じる者達がいるということ、それを肝に銘じておかなければならない」
司が昏睡していた1年間。
誰もが司の看病と自分の生活との両立がいっぱいいっぱいで、お世辞にも日常を楽しむなんて言える状態ではなかった。
回復の切っ掛けさえつかめない日々が続き、精神は疲弊し、苦悩を続け、笑顔は絶え、徐々に苛立ちすら募っていった。
特に、自分の責任を大きく感じていた舞に至っては、ストレスで顔つきすら変わりそうな勢いだった。
「カノコ、ありがとう。あの時は、自分1人が頑張れば、舞やリリたちが助かるからって思って後先を考えていなかった。でも、夢を見て、大切な人とは一緒にいることが一番大事だったことに気づいたから。だから、もう大丈夫だ」
「本当ですか? もう二度とあんな無茶はしないですか? 約束、してくれますか?」
「ああ、もう二度としない。その前に、全員が幸せになる道を全力で考えるさ。だから、もう泣かないでくれ、舞」
1年間、抑制され続けてきた舞の感情は、情緒不安定だった。
司が目覚めてからは基本的に側にべったりだし、必要以上に位置が近いし、すぐ感情的になって涙を流すことも多い。
大切な人を失う恐怖が、今も尚、心から消し去れない結果なのかもしれない。
「それで、俺が寝ている間にどうなった?」
「それは、私の方から報告します」
この1年の出来事を兎神が簡潔に報告すると、インデックスから詳しい内容が知りたい項目をピックアップしていく作業が続いた。
「そうか、ついにリリに弟妹が出来たんだなぁ……それにハムダマたちも無事に生活できているようで良かったよ。地下は……もう魔境だな、うん」
司が一番懸念していたのは、干支神家の居候たちのこと。
やむ負えない事情があったにせよ、結果的に自分が面倒を見ると言ったのに無責任に放置してしまったのだから。
「はい、ハムダマの長には少しだけ調整するようにお願いはしたのですが、中々難しいようですので、近いうちに地下に住居を移そうかと計画しています。あそこであれば、食料も豊富ですし、現地と近い暮らしができると思いますので」
ウルの民たちに新しくできた子供に喜び、予想外に増えていたハムダマたちの数に驚き、プラントエリアで栽培している謎の植物たちやミツバチ? たちも元気に過ごしていることを聞いて嬉しそうだった。
「で、結局、カノコはあっちに戻るつもりなのか?」
「え? 今更、それを聞く? そんなつもりがあったら、司を助ける協力なんてしてなくない? 敵の総大将を助けるんだよ?」
「そうか……それは悪かったな」
心外だと言わんばかりのカノコに対して、何となく思うところがある司だったが、それを口に出すことはなかった。
それから1週間があっという間に過ぎた。
食事と運動に気を付けて過ごし、周りの献身的な協力のおかげで、司の身体は見る見るうちに回復していった。
一度は人外レベルまで身体強化をして自身の身体を壊したものの、もともと宗司に鍛えられていて地力があるし、魔素を大量に取り込んだことで『彼の世界』の生物寄りの頑強さを手に入れたことが要因だ。
「うむ、無茶をして大量の気を流した割には異常が見られない。それどころか、伝導率が著しく向上しているようだな。最悪、もう武神流はダメかと思ったが……不幸中の幸いだ。司よ、禁術はあれほど使うなと言ったのに」
「宗司さん、ごめんなさい。舞たちを守るためには仕方なかった」
「それを言われると何とも言えんが……今回は結果的に助かっただけだ。次も助かると思うなよ? わかったな?」
「うん、身に染みてわかったよ」
宗司にもお墨付きをもらった司は、本来の状態を取り戻した。
リリたちから齎された衝撃の事実に、周りにいた人たちは困惑を隠せなかった。
「それで、体調はどうだい? アレの本質をかなり調整したから、司の身体には馴染んでいると思うけど、何か違和感があればすぐに言ってほしい」
「今のところ、問題らしい問題はないぞ。視界が少し悪いくらいかな?」
「うーん、目はどうしても影響の出やすい部分だからね、私たち寄りになってしまうのは致し方ないか。今、視力が一時的に下がっているのは、こちらの光源に慣れていないからだと思うから、すぐに慣れると思うよ」
「なら、後は早く元の状態に戻せるように運動するだけだな。起き上がるくらいは出来る様になったから、少しずつでも動いていかないと」
色の変わってしまった司の目を除き込みながら、うんうんと観察するカノコ。
カノコが顔を近づけた時に、少しだけムッとしてしまったのは可愛い反応だった。
「そうだね。でも、無理はしちゃいけないよ。司は他人のために頑張りすぎる傾向があるからね。リリちゃんからも言われただろう? 今、優先するのは自分自身だ。司が倒れてから、この家の人は誰一人として本当の意味で笑った人はいなかった。君が居てこそ、幸福を感じる者達がいるということ、それを肝に銘じておかなければならない」
司が昏睡していた1年間。
誰もが司の看病と自分の生活との両立がいっぱいいっぱいで、お世辞にも日常を楽しむなんて言える状態ではなかった。
回復の切っ掛けさえつかめない日々が続き、精神は疲弊し、苦悩を続け、笑顔は絶え、徐々に苛立ちすら募っていった。
特に、自分の責任を大きく感じていた舞に至っては、ストレスで顔つきすら変わりそうな勢いだった。
「カノコ、ありがとう。あの時は、自分1人が頑張れば、舞やリリたちが助かるからって思って後先を考えていなかった。でも、夢を見て、大切な人とは一緒にいることが一番大事だったことに気づいたから。だから、もう大丈夫だ」
「本当ですか? もう二度とあんな無茶はしないですか? 約束、してくれますか?」
「ああ、もう二度としない。その前に、全員が幸せになる道を全力で考えるさ。だから、もう泣かないでくれ、舞」
1年間、抑制され続けてきた舞の感情は、情緒不安定だった。
司が目覚めてからは基本的に側にべったりだし、必要以上に位置が近いし、すぐ感情的になって涙を流すことも多い。
大切な人を失う恐怖が、今も尚、心から消し去れない結果なのかもしれない。
「それで、俺が寝ている間にどうなった?」
「それは、私の方から報告します」
この1年の出来事を兎神が簡潔に報告すると、インデックスから詳しい内容が知りたい項目をピックアップしていく作業が続いた。
「そうか、ついにリリに弟妹が出来たんだなぁ……それにハムダマたちも無事に生活できているようで良かったよ。地下は……もう魔境だな、うん」
司が一番懸念していたのは、干支神家の居候たちのこと。
やむ負えない事情があったにせよ、結果的に自分が面倒を見ると言ったのに無責任に放置してしまったのだから。
「はい、ハムダマの長には少しだけ調整するようにお願いはしたのですが、中々難しいようですので、近いうちに地下に住居を移そうかと計画しています。あそこであれば、食料も豊富ですし、現地と近い暮らしができると思いますので」
ウルの民たちに新しくできた子供に喜び、予想外に増えていたハムダマたちの数に驚き、プラントエリアで栽培している謎の植物たちやミツバチ? たちも元気に過ごしていることを聞いて嬉しそうだった。
「で、結局、カノコはあっちに戻るつもりなのか?」
「え? 今更、それを聞く? そんなつもりがあったら、司を助ける協力なんてしてなくない? 敵の総大将を助けるんだよ?」
「そうか……それは悪かったな」
心外だと言わんばかりのカノコに対して、何となく思うところがある司だったが、それを口に出すことはなかった。
それから1週間があっという間に過ぎた。
食事と運動に気を付けて過ごし、周りの献身的な協力のおかげで、司の身体は見る見るうちに回復していった。
一度は人外レベルまで身体強化をして自身の身体を壊したものの、もともと宗司に鍛えられていて地力があるし、魔素を大量に取り込んだことで『彼の世界』の生物寄りの頑強さを手に入れたことが要因だ。
「うむ、無茶をして大量の気を流した割には異常が見られない。それどころか、伝導率が著しく向上しているようだな。最悪、もう武神流はダメかと思ったが……不幸中の幸いだ。司よ、禁術はあれほど使うなと言ったのに」
「宗司さん、ごめんなさい。舞たちを守るためには仕方なかった」
「それを言われると何とも言えんが……今回は結果的に助かっただけだ。次も助かると思うなよ? わかったな?」
「うん、身に染みてわかったよ」
宗司にもお墨付きをもらった司は、本来の状態を取り戻した。
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