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第二章 謎の組織、聖王国へ使者として赴く

悪事37 謎の組織、ラティス聖王国で夜盗の襲撃を受ける

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 ラティス聖王国に入国し、その日の夜に事件は起こった。

 この日も『統領』たち3人は、男だけで火を囲んで夜営をしていた。

「ガルたちは冒険者とやらなんだよな? その冒険者って何だ?」

「ボスさん、冒険者を知らないってマジか? いや、島で生活していたなら知らなくてもしょうがないか。冒険者っていうのはな……」

 この世界における冒険者の定義は、ギルドという機関に所属する傭兵部隊……と言えば聞こえは良いが、実際は何でも屋という位置づけである。
 主な仕事内容は幅広く、通称魔獣と呼ばれる特殊な生物の討伐、食肉の確保、建築用の木材や石材の確保、鍛冶職などへ提供する鉱物などの確保、農業地の開拓や護衛、商人の護衛など多岐にわたる。
 いずれの仕事もギルドで仕事の斡旋を一括管理しており、ギルド員が冒険者の資質を見ながら各仕事を依頼することになる。また、仕事の関係上、ギルド証を所持していれば加盟国間を行き来することも容易に出来る。

「ほら、これがギルド証だ。古代魔導帝国のなんとかっていう技術で作られてるみたいで仕組みはわからんけど、本人以外に反応しない身分証明書みたいなものだな」

 階級は純粋に力量。
 ギルド証には個人のステータスを数値化し、階級を色で表示する謎のシステムがあるのだが、これは古代魔導帝国において軍人が己の技量を把握するためのものだったと言われている。尚、力量の表示分類はF赤、E橙、D黄、C緑、B青、A藍、S紫の7等級で色分けされる。

「こうすると、ほら青くなっただろ? 俺の階級はBランクってわけだ。ステータスのほうは、俺は盾役だから体力系が高くて魔力系が低いって評価だな。あ、俺は別に構わないけど、他の人はギルド証を見せたがらないと思うから、無理やり見ようとはしないでやってくれ」

 見せてくれたガルのギルド証の評価は体力・筋力・判断力の数値が高く、知力・魔力の数値が低かった。しかし、他の数値に比べて低いというだけで、それがどの程度の物なのかがわからない。

(総合レベル52、ランクB。体力64、筋力68、判断力57、知力40、魔力25……これって一体どうやって評価してるんだ? 謎すぎるぞ。『教授』に解析してほしいところだが、問題はどうやって現物を手に入れるかだな。人から盗んだり奪ったりするわけにもいかんし)

 その他にも何個も表示があるのだが、『統領』には読めない字で書いてあるので内容の判別ができなかった。

「ちなみに、そのギルドとやらで登録すれば、私も冒険者になれるのか?」

「少し試験があるけど、ボス殿なら楽勝だと思う。個人の強さは一定以上必要だけど、それ以前に依頼に対して誠実に行動できる人間性のほうが重視される傾向がある。それを見極める試験」

 ガルたちが言うには冒険者は信頼が全てで、いくら個人的な技量が高くとも性格に難がある人間は冒険者には成れないという。
 場合によっては国家間を移動しながら依頼をすることもある。その際に無用なトラブルを量産するような人間では仕事にならないのである。

「思ったより現実的な職業だった……」

「そりゃそうさ。冒険者には色々な権利が認められてるんだから、行使する側にも相応の責任があって当然だろ? それが理解できないやつは危なくてギルドに入れられない。ボスさんだって自分勝手やって人の話を聞かない人間なんて仲間に要らないだろ?」

 『統領』は内心汗をかいていた。自分の仲間は、自分に管理できているだろうか、と。
 元々、『統領』たちは1つの物事に特化した人間ばかりが集まって出来た集団である。そのため、かなり癖の強い……というか普通には使いづらい人材が多い。
 『参謀』と『怪人』はまだ良い、彼らは理性的なので自身で制御できるのだから。
 問題なのは『教授』と『医者』で、この2人は自分に興味があるかないかで物事に対するモチベーションが100か0という極端差を持つ。
 ガルが言う、自分勝手やって人の話を聞かない人間の代表とも言える存在なのである。

(ま、まぁ、別に冒険者になるわけじゃないから良いか。私が最後まであいつらの面倒を見ればいいだけの話だしな。うん)

「ん? こんな時間に来客とは珍しいな。それもかなりの団体様のようだ」

「おいおい、こんな場所で夜盗とか、マジかよ」

「これくらいの数なら俺たちで問題ない。でも、一応リリーたちに知らせる」

 『統領』が気づくと同時に、ガルとギルもそれぞれ反応して動き出した。
 近づいてくる気配を探ると、だいたい10人くらいで徒歩ということがわかった。

「む……2手に分かれたか? だが、この分かれ方は悪手じゃないか?」

「リリーたちに伝えてきた。で、ガルに任せるって」

「まぁ、大丈夫だけどよぉ。頼られてるのか、サボりなのかわかんねぇな」

 推定夜盗の10人は目視できるかギリギリの範囲で留まり、そのうちの2人だけが『統領』たちのところへ近づいてくるのが見て取れた。

「ガル、ギル殿、ここは私に任せてもらっていいか?」

「どうも普通の夜盗じゃなさそうだし、話ができるならボスさんに任せるわ」「同意」

 2人とも襤褸切れのようなローブを頭から被っていて顔は見えない。

「お、お前たち! 命が惜しかったら、持っている食べ物と水をよこせ!」

 襲撃者たちは兎のような小動物しか殺せないような粗末なナイフを握り、ぷるぷると身体を振るわせて精一杯の威嚇を見せる。

「ふむ、よこせと言われて、黙って渡すようなバカはいないぞ? まぁ、少し落ち着け。武器を下ろして、話をしよう。何か事情があるなら聞いてやる」

「俺の話を聞いていたのか!? 命が大事なら、食料を置いて行けと言ったんだ!」

 相当切羽詰まっているのだろうか。
 襲撃者たちは『統領』の話にも耳を貸さずに苛立ちを募らせていた。

「少しは頭を使え。こっちの男の武器の長さを見てみろ。お前たちのナイフが届く前に大剣で身体が半分になるぞ?」

「イピピ……怖いよぉ。ぼくたちが大人に敵うわけないってぇ。それに、こんなことしたらこっちが逆に殺されちゃうよぉ」

「バカ! 俺たちが諦めたら、ウーナたちはどうなる!?」

 『統領』は最初からわかっていた。
 襤褸切れで見えないが襲撃者たちの中身は、子供だったのだ。

 子供たちだけで構成された夜盗が、『統領』たち大人に食料と水を要求している。
 それが意味することは、1つしかなかった。
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