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第二章 謎の組織、聖王国へ使者として赴く

悪事32 謎の組織、使者としてニブルタールを出発する

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 ラティス聖王国。

 ラティス教と呼称される宗教を国教とし、首都のラティーシアを中心とした1点集中型の宗教国家である。

 民族は人間種が100%で構成とされていて、人間種以外を国民と認めていない。
 内訳は首都中心部に住む聖王国民、首都の外壁と内壁の間に住む内民、首都の外壁より外側に住む外民に分類されていて、聖王国民と内民は人間だが、外民には異種族も含まれる。

 主な産業は、ケガや病気などを治療する治癒院の経営、ポーションと呼ばれる各種治療薬の製造と販売、勇者を初めとする武装戦力の派遣、特殊な付加効果を与えた武器防具の製造と販売である。

 聖王国民は主にこれらの主要産業の全てを担っており、最高位の権力と富を保有する。
 階級は聖王、枢機卿、司教、聖騎士。そして、その家族だけが聖王国民とされ、国家運営に関する決定権は全てがここに集約されている。
 白の勇者であるエリカのような勇者は聖騎士の一部だが、特殊戦力として特別な権利がいくつも認められている。

 内民は主に聖王国民の消費する食料や生活必需品を作ることで生活しているが、聖王国民とは違って国の決定権はなく、上位陣の庇護のもとで与えられた自分の役割を熟すだけの労働階級となる。

 外民は移民や難民や逃亡奴隷などが首都外壁付近に無許可で住み着いたことで構築された一団でスラム街に等しい。
 あらゆることに権限はなく完全に無法地帯だが、問題を起こしたりすると首都から討伐隊が送られ殺害または連行されてしまうため、常に聖王国の同行を注視し、最低限の仕来りを守り、潜む様に細々と生活をしている。

 総じて封鎖的で排他的で選民的で他からの評判は悪いが、治癒院や対異界戦力などの唯一無二の技術を保有するため他国からの需要は多い。



 ニブルタール王国からラティス聖王国へ向かう道中。

「聞けば聞くほど頗る気分の悪い国だな……何で、この世界には、こんな国が存続できているんだ? 私の感覚では成り立っていること自体が不思議でしょうがない。普通だったら、民が居付くわけないぞ。それとも私が認識できないメリットが存在するのか?」

 使者として訪れる国の知識を収集していた『統領』が総括した答えは、不快な国。ただ、それだけだった。

「私としても気分はよくありません。しかし、各地の治癒院や販売されるポーションにはどこの国もお世話になっていることは間違いないのです。それに自国で対処できない魔獣や野党の討伐に関しても依頼すればほぼ確実に解決できるのですから、私情を排しても付き合うしかないというのが理由の1つです」

「勇者か……確かにエリカみたいな人間兵器に勝つには相当な準備をしない限りは厳しいだろう。あいつみたいなのが何人もいないことを祈るばかりだな」

「それに、首都ラティーシアの外側でも相当に治安が良いのが現状なのです。問題を起こしたり、魔獣が発生したりするとすぐ討伐されますから。身の安全、内民や外民はそれが大きな拠り所になっているのでしょうね」

 メアやギルバードも不快感を覚えているようだが『統領』ほどではない。

「ボスさん、俺たちみたいな職業の人間にとっちゃあ、金さえ払えば傷を治してくれるポーションや治癒院は無くてはならないものなんだ。それにやつらは阿漕な商売ってわけでもない。治癒院だって金持ちからは大金を取るが、そうでもないやつからはそこそこの金額しか取らないんだぜ? そりゃ、お世話になる限りは嫌な顔はしないさ」

「ガルたちも治癒院とやらには世話になっているのか?」

「おう、俺たちくらいになると割高なポーションも買えるからな。非常用に持ってるだけで危険率はぐっと下がる。それに誓約はあるが、寄付を一定金額払えば、アリサみたいに治癒魔法を習得できるんだぜ? これがあるのとないのじゃ、旅の危険性が段違いだ」

「治癒魔法とやらは金で買えるのか……驚きの事実だな」

「金で買うってのは現地じゃ禁句だぜ? ヤツラが言うには、あくまで寄付の元に神の御業を貸し与える、らしいからな。ニブルタールなら良いが、あっちに行って大っぴらに喧伝なんてしたら聖騎士のやつらがすぐ飛んでくるぜ」

「地獄の沙汰も金次第か、安い神だ」

 『統領』からすればどちらでも同じことなのだが、下手に揉めて周囲に迷惑をかけることもないので、そこは渋々納得しておくことにしたようだ。


 今回、使者としてラティス聖王国へ行くのは8人。
 メア、ギルバード、メイドのアリス、『統領』の使者チームと、真実の剣のガル、ギル、リリー、アリサの護衛チームである。

「そう言えば、ニッグさんが馬車の屋根の上からしばらく降りて来ていませんけど、大丈夫なんでしょうか?」

「あー、きっと日向ぼっこでもしているのでしょう。それに、これくらいの速度なら落ちてもケガはしませんし、放っておいても大丈夫だと思います。何かあれば勝手に戻ってくるでしょう」

 『統領』の返事を聞いて、凄く残念そうなアリス。
 彼女が無類のドラゴン好きと判明してからは、今までやたらと献身的にニッグに構っていた謎が解明したのだが、それ故にニッグに無理に付き合えとも言えなくなってしまった。

「それで、使者としての仕事は先般の件の説明とヘイム国王からの親書を渡せば良いということでよろしいですか?」

「そうだ。しかし、今回は一点だけ不可解な点がある。聖王国の内壁の中、つまり聖王国民の領域に入る許可が出たのはメア様と私だけということだ。ボス殿たちは内民の領域で待機するように遠回しに命じられたのには何か思惑があるとしか思えん。不測の事態に備えておいた方が無難だ」

「大丈夫です、私にはコレがありますから時間くらい稼げますわ。何かあればボス様にすぐ連絡します。それに、ボス様はこっそりとお会いになるのはお得意ですよね?」

「確かに単独の隠密行動のほうが得意ではありますが……まぁ、何も起こらないことを祈っておきますよ。ん? 失礼」

 『統領』はやや含みのあるメアの言い回しに冷や汗をかいたが、丁度いいタイミングで『参謀』からの連絡が入って難を逃れることができた。

「何? 所属不明の戦艦だと? 相手に敵対する意思があるのであれば……そうだな、C戦級までの兵装を使用許可する。場合によってはB戦級も使って構わん。薙ぎ払え」

 『統領』たちの基準としてC戦級というのは人が携行可能な兵器群を意味する。
 ちなみに、B戦級は船などから攻撃する対艦ミサイルなどの兵器群、A戦級は超広範囲殲滅兵器群である。その上には使用するにはあらゆる制限を有するS戦級兵装が存在するのだが、残念ながら惑星内での使用はできない。

 どうやら拠点の島で何かがあったようなのだが、『統領』のあまりにも物騒な物言いに、メアたちの顔が引きつっていたのに気づくことなく、淡々と指示を出すのだった。
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