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第一章 謎の組織、異世界へ行く

悪事31 謎の組織、異世界へ行く

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 メアとアリス、そしてギギが『統領』たちの拠点である竜神の島を訪れて1日が経った。

 メアとアリスは初日に拠点設備の説明や犬モフ族たちとの交流会などを行い、とても楽しい時間を過ごしていた。
 ギギは予想通り『教授』と意気投合し、2人で研究室に籠ってからは1度も外へ出てこなかった。このタイプは時間を忘れて趣味に没頭するので放置すると危険である。

「お嬢様……とても不味いです。この島は魔の島です」

「アリス、言いたいことはわかります。私も、今までの自分の認識の甘さを痛感しているところです。こんなにも現実に打ちのめされる日が来るなんて……」

 2人が言いたいのは、こういうことである。

「「部屋に備え付けられている設備が便利すぎます。特にトイレとシャワーとエアコンが」」

 洗浄機能付きの清潔なトイレ、各種アメニティでも良い香りの石鹸とシャンプーが秀逸でいつでも温水が出るシャワー、熱くも寒くもない完璧な温度調節をしてくれるエアコン。

 どれもウエストバーン領、いやこの世界のどこにもない未知の科学の叡智。
 最初は恐る恐る使用していた設備も、あっという間に順応し、1度使えば生活に無くてはならないものとなってしまった。

「「食事が美味し過ぎて、屋敷に帰りたくありません」」

 『統領』からすれば別に特別な料理を出したつもりもない。それどころか、ウエストバーン家で食べた料理よりも遥かに原始的な料理ばかりである。

 ニブルタール王国から入手してきた小麦や乳を使って『統領』が作成したのは、とある惑星の料理フレンチトーストとクレープである。

 調味料関係とパンは船の設備で必要数だけ生産して、卵はグロウンバードたちが快く提供してくれた無精卵を使用した。
 彼らは何日かに1回卵を産むが受精卵はスカイブルーに、無精卵は白くなる特徴があるので見分けやすい。受精卵にさえ手を出さなければ、グロウンバードたちはとても扱いやすい鳥なのである。

 当初は犬モフ族たちへの報酬として集会所へ設置した設備を『統領』が使用方法を実演で教えながら試食会をしていたのだが、子供たちの反応があまりにも良すぎたのを見たメアたちがもの欲しそうな目をしていたので人数分作ることになってしまった。

 メアとしては『統領』の手料理が食べたかったという想いもあったのだが、一級品の素材を使用したフレンチトーストとクレープは2人には衝撃的な味だった。
 お世辞にも料理人には見えない『統領』が手際よく料理していたことも衝撃だったのだが、簡単に作っていたように見えて味の完成度が凄まじくハイレベルだったのだ。

「お父様には何て言えばいいんでしょうか……メアはボス様の島で元気に生活しますので、特に気にされないでください?」

「お嬢様……それではお館様に家出娘と思われてしまいます」

 隣同士の部屋を割り当てられて朝一番に顔を合わせた2人は、混乱してよくわからない思考になっていた。


 一方、ギギはと言うと『教授』と技術談議に花を咲かせていた。

「この船の設備で出来ることはこれくらいかな? 基本は太陽光収束熔解だけど、船の外に普通の鍛冶設備を作ることも可能だよ。ギギは鍛冶師だろ? やっぱり金属を打って物を作りたいんじゃないかい?」

「いや、俺の鍛冶技術だけじゃ限界が見え始めてた。『統領』に託したアレがいい例だ。俺にはアレを加工する力がなかった。だけど、ここで別の技術を学べば、あいつに新しい命を吹き込んでやることができるかもしれねぇ。本当に、誘ってくれた『統領』には感謝だ」

 少しの休憩もなく、一晩中。

「ふむ、それでは今までの技術は捨てるということかい? 正直な話、この船での製作は最早鍛冶とは呼べない代物だ。ここでのやり方に慣れてしまったら、もう2度と鍛冶の道には戻れないかもしれないよ?」

「捨てるわけじゃねぇ、鍛冶は鍛冶で俺の糧になってる。ここでは新しい発想を学ぶってだけだ。そうして鍛冶の良いところと、この新しい方法を融合させて、もしかしたらさらに新しい技術を生み出せるかもしれねぇ。ああ、想像しただけでワクワクする。今後が楽しみで楽しみでしょうがねぇ」

「ほほう、それなら僕もギギの鍛冶技術を見せてもらおうかな? 鍛冶は文献や映像で知っているだけで実際を見たことがない。君の技術に学ぶことでボクの知識欲も更なる飛躍を遂げそうだ!」

「おう、構わん。設備さえ用意してくれれば、俺の鍛冶くらいいくらでも教えてやる。でも、炉や何かを作るのにはかなりの時間がかかるぞ? 大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫、うちには土木大好きな仲間がいるからすぐだよ、すぐ。それじゃ、『参謀』に許可をとって『怪人』に作ってもらうとしようかな。どこかの国では、善は急げっていうしね」

 完全に2人の世界。会話の内容が変態同士すぎて手が付けられない。


 犬モフ族たちは感動に打ち震えていた。

 『統領』がアプレット栽培の報酬と言って置いて行ってくれた設備の仕組みは、正直よくわからない。
 しかし、今まで食べたことがないほどの美味なるものを作れると教えてくれたことだけが、今の彼らにとっては全てだった。

「むにゃむにゃ、ふれんちとーすとぉ、くれーぷぅぅ……」

「だめぇ、それは、あたちのよぉ……むにゃ」

 あまりの美味しさに、子供たちが夢にまで見るほどの食べ物。それを毎日でも食べられるようになったのだから。
 しかも、『統領』がこれは手始めに過ぎず、使う材料によっては更なる応用ができると言った時には、その場の一族全員が同時に唾を飲み込んだものだ。

「あなた、私たちって幸せね……生活はガラリを変わっちゃったけど、このお家も素晴らしいし、新しい食べ物は美味しいし。最初、竜神様がどこかに飛んで行っちゃった時はこれからどうなることかと思ったけど」

「そうだな。だけど、竜神様や『統領』様たちに感謝する気持ちだけは忘れちゃいけないぞ? それに、ここまで良くしてくれるのだって俺たちがちゃんと働いて成果を出しているかなんだ。あの方たちの善意に甘えちゃいけない」

「ええ、わかってます。あなたと結婚できたことは、私の誇りよ。これからも一緒に竜神様を讃えて、『統領』様たちの役に立っていきましょう?」

「ああ、もちろんさ。だけど、子供たちが竜神様と遊んでもらっているのだけは心臓に悪いんだよなぁ……あんなにも気さくな方だとは今まで思っていなかった。竜神様が気にされていないから良いものの、恐れ多いっていうか……」

「ふふふ、そうですね。さぁ、もう寝ましょう。明日もお仕事頑張ってくださいね?」

 『統領』たちが来てから犬モフ族たちの生活は激変した。

 家族単位で散り散りの生活から、一族が全員集まり村を作る生活に。
 森の中で葉っぱに包まって寝ていた生活から、家の中で毛布に包まれて寝る生活に。
 森で実りを探し、採って食べるだけの生活から、アプレットを育て、料理を作って食べる生活に。

 男たちは育てる喜びを知り、女たちは料理する楽しみを知った。
 子供たちは一族で集まって遊ぶようになったし、竜神が遊び相手になってくれもした。

 原始的な生活から凄まじい速度で文明度が上がっていることを理解してはいなかったが、どんな環境になっても彼らが純粋な心を持ち続ける限りは平和な生活が約束されている。
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