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第一章 謎の組織、異世界へ行く
悪事19 謎の組織、本人の与り知らぬところで興味を持たれる
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ここはニブルタールの王城の一室。
「お兄様、噂になっている試合の様子はご覧になられましたか? あのウエストバーン卿がご推薦されている方の、です。私は王城で政務をしておりましたので直接見ておりませんが、かなりの実力があると周囲が騒いでおりましたよ」
「……見た。一体、あれは何だ? 辛うじて目で動きは追えたが、どうやったらプレートメイルを着た人間をボールみたいにポンポン飛ばせるんだ? 本当に人間か?」
片方はニブルタール第1王女、もう片方は第2王子である。
ニブルタール国王には3人の子供がいて、第1王子、第2王子、第1王女の順番で生まれていた。
「何を他人事のように言っているのですか? その人と、お兄様はいずれ戦わなければならないのでは? 分不相応にもメアを娶りたいなんて言い出すから悪いです」
「うぐ、お前、実の兄に分不相応とか言うなよ……」
「30にもなったのに未だに想い人の1人もいない童て…おほん、お兄様がメアをとか世迷い事を言うからお父様も苦労されるのです」
「俺は軍事関係の仕事が忙しくて、そんなものを作る暇がなかっただけだ」
「それでウエストバーン卿の領地へ演習で行った時に、ちょこっと優しくされたくらいでメアを気に入ったと? とんだロリコンですね」
「お前、いくら辺境伯の娘と懇意だからって、兄に対する態度が辛辣すぎないか?」
「メアとは長年文通している友達ですから、ロリコンの変態とは比べ物になりません」
王族という割にはかなりフランクな兄妹の間柄に見えるが、今は他に監視の目がないからであろう。
「先日、メアからの手紙で、自分の事を本当に大切に想ってくれる騎士のような男の人に巡り会うことができたと報告が書いてありました。しかも、強さだけでなく優しさやユーモアも持ち合わせていると。盗賊に襲われた際は、メアが心配だからと世界に1つだけの魔法具をプレゼントされ、危険が及ばぬようにと単独で殲滅されたそうです。他にも惚気のような内容が山ほどありましたが、概ねで相思相愛のようですね」
「…………」
「あの子供だったメアが生まれて初めての盲目になるくらいの真剣な恋をしているのに、その間を引き裂くような無粋な真似をしているのが我が兄とは情けない。確かに王族や貴族として生まれた以上、女には自由な恋愛はできないのは覚悟しています。しかし、メアの場合はウエストバーン卿の公認の仲なのですよ? それを……」
実の妹である第1王女にぐうの音も出ないくらいボコボコにされる第2王子。
「俺だってごにょごにょ……」
「はぁ……まぁ、お兄様が撒いた種ですから、責任を持ってぶっ飛ばされてくればよろしいかと。現場には治癒士も待機していますから死にはしないでしょう。それにしても、それほどの強さがあるならば、是非とも国に引き込みたいところです。私も、時間を作って本戦は見に行きましょうかね」
「本人が了承すれば別だが、力ずくやメア関連の絡め手は悪手だと思うぞ。ここだけの話だが、あいつは黒竜王を従えているらしいからな。辺境伯は直接自分の目で確認したと言っていたから間違いないだろう。今は辺境伯の屋敷にいるらしいぞ」
「はい? 黒竜王というと、あの伝説の巨竜ですか? 魔導帝国を一夜で滅ぼしたという? どうすれば竜の巨体が屋敷に収まるのか不思議なところですが……もし、それが事実だとしたら、とても管理できるような人材ではないのですね。それは軍関係の会議でお聞きになったのですか? 他にはどんな話がありましたか?」
話題は移り変わって『統領』自身の話になると、
「例のアホ男爵の話あっただろ? あれのしっぽを掴んだのは、そいつらしいぞ。たまたま子竜を狙ってきた賊がアホ男爵の手の者だったらしい。10人全員生かしたまま、1人で捕らえたとウエストバーン卿が言っていた。あと、現在拠点にしているのが黒竜王の島で仲間が何人かいるらしいくらいか」
「ああ、あのバカ男爵ですか。あれだけ悪評がありながら今まで証拠がつかめなかったのは、誰かの手配でしょうね。なるほど、噂以上に優秀な人材のようです。少し興味がわいてきました。メアに頼んで、一度会わせてもらいましょうかね」
第1王女の発言に目を丸くして驚く第2王子。
「何ですか? その顔は」
「お前……政務にしか興味がない冷血女じゃなかったのか? 侍女たちも男に興味がないから心配しているくらいなのに、急にどうしたんだ?」
「失礼な、人並み程度には色々なことに興味はあります。ただ、今まで私にアプローチしてくるのは碌でもない人間ばかりで、琴線に触れるような人がいなかっただけですよ。それに、あのメアが気に入るほどの人ですからね。いずれにしろ一度確認しておかなければならないでしょう」
そんな妹の様子を見て、こいつ大丈夫かな? と思っている兄だった。
『統領』はウエストバーンの屋敷に割り当てられた自室で頭を抱えていた。
「何と言う事だ……まさか、この私が怒りに身を任せて、やり過ぎてしまうとは」
「ボスに対して、そんな舐めた態度をとったやつをぶっ飛ばしたからって気に病むことなんてありませんって。そんなことで悩むなんて、ボスは真面目すぎますよ~」
「いや、仮にも私は組織を率いている立場の人間だ。それが一時とは言え、怒りで冷静な判断が出来ない状況になるとは……自覚が足らない証拠だ」
「もしアレなら、僕がちょっと行ってきてビシッとシメてきましょうか? ボスのメンツを守るのも部下の役目です!」
「ニッグの気持ちはありがたいが、それはやめい。余計に話がややこしくなるわ」
しかし、起こしてしまったことはなかったことにはできない。
まぁ、その後すぐにウエストバーンたちに詳細を説明したので大した問題にはならないだろう。
「それで、ニッグは今日何してたんだ?」
「今日ですか? アリスさんに頼んでフルーツを買ってきてもらったので、それを食べながら日向ぼっこしてました。竜は基本的にスローライフ主義ですから」
「何という優雅な生活……ちょっと待て、金はどうした? まさかお前、アリスさんに集ったんじゃなかろうな?」
「そんなことしませんよぅ。ちょっと前に賊を引き渡しましたよね? あれで見舞金が出たそうなので、代金はそこから出してもらいました」
「……あとでウエストバーン様にお礼を言っておこう」
「よろしくおねがいしまーす」
自由気ままな生活を送るニッグに少しだけ嫉妬を覚える『統領』だったが、自分が留守番を命じて外出を制限しているので、それで怒るのも違う気がする。
「ボス様? お部屋に入ってもよろしいですか?」
「メア様ですか? どうぞ」
『統領』が入室の許可を出すと、ニコニコ笑顔のメアが現れた。その後ろにはメイドのアリスも一緒だった。
「私に何かご用ですか? ああ、アリスさん、ニッグが買い物を依頼したみたいで、対応ありがとうございました。代金の件は、後でウエストバーン様にお礼に伺います」
「いえ、食材の買い物のついでですから何も問題はございません。それに、ニッグさんは何でもおいしそうに食べてくださるので見ていて楽しくなってしまいますわ」
暇さえあれば、率先してニッグの世話を焼いてくれるアリスには頭が上がらない。
「ボス様、アリスは好きでやっていることなので、あまり気にしないでくださいね? あ、それよりも、予選通過おめでとうございます! 2次予選の相手も一捻りだったとお聞きしました。流石はボス様です! 本戦からは応援に参りますので、活躍する姿を見せてくださいね?」
「あ、ありがとう? でも、予選で少しやり過ぎてしまいまして、もしかしたら本戦には出られない可能性があるのですが……」
会話をしながら、少しずつにじり寄ってくるメアに動揺を隠せない『統領』だったが、邪険に扱うこともできないため、少しずつ後退して壁際に追い詰められていく。
「その点はご安心ください。お父様が言ってましたが、不問とすることに決定したそうです。お父様以外にも本戦出場者の何人かに口添え頂けたようです」
(ウエストバーンは兎も角として、他の本戦出場者がなぜ? まさか、私と戦いたいとかいうジャンキーな思考でもあるまいし、全く意図がわからん……)
「予選でそれだけ話題になったのですから、きっと本戦は大注目ですね! 今から楽しみです! あ、今日は予選でお疲れでしょうし、ゆっくりとお休みくださいね? それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさいませ、お邪魔致しました」
言いたいことだけ言って、嵐の様に過ぎ去っていくメアとアリス。
この世界の女慣れしていない『統領』は呆然である。
「女という生き物は謎ですね~。僕、人間じゃなくて本当によかったです~」
メアの対応に苦慮している『統領』を見て、心底思うニッグだった。
「お兄様、噂になっている試合の様子はご覧になられましたか? あのウエストバーン卿がご推薦されている方の、です。私は王城で政務をしておりましたので直接見ておりませんが、かなりの実力があると周囲が騒いでおりましたよ」
「……見た。一体、あれは何だ? 辛うじて目で動きは追えたが、どうやったらプレートメイルを着た人間をボールみたいにポンポン飛ばせるんだ? 本当に人間か?」
片方はニブルタール第1王女、もう片方は第2王子である。
ニブルタール国王には3人の子供がいて、第1王子、第2王子、第1王女の順番で生まれていた。
「何を他人事のように言っているのですか? その人と、お兄様はいずれ戦わなければならないのでは? 分不相応にもメアを娶りたいなんて言い出すから悪いです」
「うぐ、お前、実の兄に分不相応とか言うなよ……」
「30にもなったのに未だに想い人の1人もいない童て…おほん、お兄様がメアをとか世迷い事を言うからお父様も苦労されるのです」
「俺は軍事関係の仕事が忙しくて、そんなものを作る暇がなかっただけだ」
「それでウエストバーン卿の領地へ演習で行った時に、ちょこっと優しくされたくらいでメアを気に入ったと? とんだロリコンですね」
「お前、いくら辺境伯の娘と懇意だからって、兄に対する態度が辛辣すぎないか?」
「メアとは長年文通している友達ですから、ロリコンの変態とは比べ物になりません」
王族という割にはかなりフランクな兄妹の間柄に見えるが、今は他に監視の目がないからであろう。
「先日、メアからの手紙で、自分の事を本当に大切に想ってくれる騎士のような男の人に巡り会うことができたと報告が書いてありました。しかも、強さだけでなく優しさやユーモアも持ち合わせていると。盗賊に襲われた際は、メアが心配だからと世界に1つだけの魔法具をプレゼントされ、危険が及ばぬようにと単独で殲滅されたそうです。他にも惚気のような内容が山ほどありましたが、概ねで相思相愛のようですね」
「…………」
「あの子供だったメアが生まれて初めての盲目になるくらいの真剣な恋をしているのに、その間を引き裂くような無粋な真似をしているのが我が兄とは情けない。確かに王族や貴族として生まれた以上、女には自由な恋愛はできないのは覚悟しています。しかし、メアの場合はウエストバーン卿の公認の仲なのですよ? それを……」
実の妹である第1王女にぐうの音も出ないくらいボコボコにされる第2王子。
「俺だってごにょごにょ……」
「はぁ……まぁ、お兄様が撒いた種ですから、責任を持ってぶっ飛ばされてくればよろしいかと。現場には治癒士も待機していますから死にはしないでしょう。それにしても、それほどの強さがあるならば、是非とも国に引き込みたいところです。私も、時間を作って本戦は見に行きましょうかね」
「本人が了承すれば別だが、力ずくやメア関連の絡め手は悪手だと思うぞ。ここだけの話だが、あいつは黒竜王を従えているらしいからな。辺境伯は直接自分の目で確認したと言っていたから間違いないだろう。今は辺境伯の屋敷にいるらしいぞ」
「はい? 黒竜王というと、あの伝説の巨竜ですか? 魔導帝国を一夜で滅ぼしたという? どうすれば竜の巨体が屋敷に収まるのか不思議なところですが……もし、それが事実だとしたら、とても管理できるような人材ではないのですね。それは軍関係の会議でお聞きになったのですか? 他にはどんな話がありましたか?」
話題は移り変わって『統領』自身の話になると、
「例のアホ男爵の話あっただろ? あれのしっぽを掴んだのは、そいつらしいぞ。たまたま子竜を狙ってきた賊がアホ男爵の手の者だったらしい。10人全員生かしたまま、1人で捕らえたとウエストバーン卿が言っていた。あと、現在拠点にしているのが黒竜王の島で仲間が何人かいるらしいくらいか」
「ああ、あのバカ男爵ですか。あれだけ悪評がありながら今まで証拠がつかめなかったのは、誰かの手配でしょうね。なるほど、噂以上に優秀な人材のようです。少し興味がわいてきました。メアに頼んで、一度会わせてもらいましょうかね」
第1王女の発言に目を丸くして驚く第2王子。
「何ですか? その顔は」
「お前……政務にしか興味がない冷血女じゃなかったのか? 侍女たちも男に興味がないから心配しているくらいなのに、急にどうしたんだ?」
「失礼な、人並み程度には色々なことに興味はあります。ただ、今まで私にアプローチしてくるのは碌でもない人間ばかりで、琴線に触れるような人がいなかっただけですよ。それに、あのメアが気に入るほどの人ですからね。いずれにしろ一度確認しておかなければならないでしょう」
そんな妹の様子を見て、こいつ大丈夫かな? と思っている兄だった。
『統領』はウエストバーンの屋敷に割り当てられた自室で頭を抱えていた。
「何と言う事だ……まさか、この私が怒りに身を任せて、やり過ぎてしまうとは」
「ボスに対して、そんな舐めた態度をとったやつをぶっ飛ばしたからって気に病むことなんてありませんって。そんなことで悩むなんて、ボスは真面目すぎますよ~」
「いや、仮にも私は組織を率いている立場の人間だ。それが一時とは言え、怒りで冷静な判断が出来ない状況になるとは……自覚が足らない証拠だ」
「もしアレなら、僕がちょっと行ってきてビシッとシメてきましょうか? ボスのメンツを守るのも部下の役目です!」
「ニッグの気持ちはありがたいが、それはやめい。余計に話がややこしくなるわ」
しかし、起こしてしまったことはなかったことにはできない。
まぁ、その後すぐにウエストバーンたちに詳細を説明したので大した問題にはならないだろう。
「それで、ニッグは今日何してたんだ?」
「今日ですか? アリスさんに頼んでフルーツを買ってきてもらったので、それを食べながら日向ぼっこしてました。竜は基本的にスローライフ主義ですから」
「何という優雅な生活……ちょっと待て、金はどうした? まさかお前、アリスさんに集ったんじゃなかろうな?」
「そんなことしませんよぅ。ちょっと前に賊を引き渡しましたよね? あれで見舞金が出たそうなので、代金はそこから出してもらいました」
「……あとでウエストバーン様にお礼を言っておこう」
「よろしくおねがいしまーす」
自由気ままな生活を送るニッグに少しだけ嫉妬を覚える『統領』だったが、自分が留守番を命じて外出を制限しているので、それで怒るのも違う気がする。
「ボス様? お部屋に入ってもよろしいですか?」
「メア様ですか? どうぞ」
『統領』が入室の許可を出すと、ニコニコ笑顔のメアが現れた。その後ろにはメイドのアリスも一緒だった。
「私に何かご用ですか? ああ、アリスさん、ニッグが買い物を依頼したみたいで、対応ありがとうございました。代金の件は、後でウエストバーン様にお礼に伺います」
「いえ、食材の買い物のついでですから何も問題はございません。それに、ニッグさんは何でもおいしそうに食べてくださるので見ていて楽しくなってしまいますわ」
暇さえあれば、率先してニッグの世話を焼いてくれるアリスには頭が上がらない。
「ボス様、アリスは好きでやっていることなので、あまり気にしないでくださいね? あ、それよりも、予選通過おめでとうございます! 2次予選の相手も一捻りだったとお聞きしました。流石はボス様です! 本戦からは応援に参りますので、活躍する姿を見せてくださいね?」
「あ、ありがとう? でも、予選で少しやり過ぎてしまいまして、もしかしたら本戦には出られない可能性があるのですが……」
会話をしながら、少しずつにじり寄ってくるメアに動揺を隠せない『統領』だったが、邪険に扱うこともできないため、少しずつ後退して壁際に追い詰められていく。
「その点はご安心ください。お父様が言ってましたが、不問とすることに決定したそうです。お父様以外にも本戦出場者の何人かに口添え頂けたようです」
(ウエストバーンは兎も角として、他の本戦出場者がなぜ? まさか、私と戦いたいとかいうジャンキーな思考でもあるまいし、全く意図がわからん……)
「予選でそれだけ話題になったのですから、きっと本戦は大注目ですね! 今から楽しみです! あ、今日は予選でお疲れでしょうし、ゆっくりとお休みくださいね? それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさいませ、お邪魔致しました」
言いたいことだけ言って、嵐の様に過ぎ去っていくメアとアリス。
この世界の女慣れしていない『統領』は呆然である。
「女という生き物は謎ですね~。僕、人間じゃなくて本当によかったです~」
メアの対応に苦慮している『統領』を見て、心底思うニッグだった。
応援ありがとうございます!
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