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第一章 謎の組織、異世界へ行く

悪事2 謎の組織、新天地で拠点作りを始める

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 あの怪しい会議から1年後。

 ここは所有権が宇宙登録されていない、とある星雲のとある惑星のとある島である。
 そこには新たな拠点を作るべく、元気に働く1人と1匹の姿があった。

「おい、トカゲ。次は、ここからあっちまでだ。手早く終わらせないと昼ごはんに間に合わないからな。サボるんじゃないぞ?」

 プロのアメフト選手クラスの厚い筋肉の鎧に包まれた人物。
 しかし、黒い全身ラバータイツのようなスーツを身に纏い、頭部には黒い金属製のフルフェイスの様相のため、普通に街を歩いていたら110番されてもおかしくない。

 どこぞの変態かと思わせる、彼の名前は『統領』。
 もちろん、これは本名ではない。コードネームである。

 その『統領』が話しかけたのは、体長30メートルはあろうかという巨体に黒曜石のように鈍く光る鱗を持つ爬虫類。口には人間など容易く噛み切れるような鋭い牙が並ぶ。

 その圧倒的な迫力を放つ生物の頭の上から『統領』は指示を出していた。
 但し、その内容は畑づくりのための土を耕すことだったのが涙目である。

「了解です! あ、ボス、僕はこれでも一応ドラゴン種なのですけど……トカゲ扱いは酷いですよ……」

 凶悪そうな外見に似合わない可愛い声が特徴の巨竜。

「私たちを見るなり、いきなり襲い掛かってきて無様に負けるようなトカゲに人権はない。まぁ、働き方次第では待遇を再考してやらんでもないが……」

「はい! 誠心誠意、頑張らせて頂きます! おりゃああああ」

 この惑星でも、もちろん最強種のドラゴン。
 正直な話、使いどころが間違っている気がするが、その圧倒的なパワーを利用して、頑強な地面をあっという間に掘り返していく。完全に重機扱いである。

「それにしても、お前。最初会った時はもっと低くて渋い声してなかったか?」

「あ、あれは外向きの声を作ってました! 威厳のありそうな良い演技じゃなかったです? ちなみに、こっちが地声ですよ」

 最強種にも意外と俗っぽい感性があったようだ。いや、この個体だけかもしれないが。

 この島は竜が住む場所であったため、完全に未開発のまま長年放置され続けてきた。
 過去には勢力圏争いもあったらしいが、最近は全く音沙汰なく、ずっとこの竜が1匹寝たり起きたりしているだけ。

 圧倒的強者が存在する土地には他の生物が寄り付かず、未開の森には果実などが群生していたが、安定した食料を得るには作物を育てる農業しかなかったのだ。あとは海で漁業くらいか。

「よし、今日はここまでだ。よくやった。では、船に戻るぞ」

「ありがとうございます! 了解です、ボス!」

 粗方、畑に使う部分の地面を掘り返した1人と1匹は、本日の仕事を終えることにした。
 そして、『統領』は竜の頭に乗ったまま、ズシンズシンと地震のような音と振動を伴って戻っていくのだった。


 島の開けた部分に鎮座する竜よりも巨大な銀色の船。
 これが彼らの拠点、この星にやってきた星間航行船である。

「おかえりなさいませ、『統領』。で、トカゲ、ちゃんと仕事しましたか?」

 拠点に戻った1人と1匹は、そこで待っていた人物によって迎えられた。

「はい、姉御! ちゃんと仕事してきました!」

「姉御って呼ぶんじゃねぇって言ってるだろ! 何回言わせるんだ! 図体ばっかりでかいくせに、この脳タリントカゲがっ!」

 スラッとした身体だが、要所要所で女性を強く主張している人物。
 『統領』と同じく黒い全身ラバースーツに身を包んでいるのだが、こちらは黒猫のような被り物のため、どこかセクシーに感じてしまう。
 彼女の名前は『参謀』。もちろんコードネームである。

 そして、『参謀』の竜の扱いは『統領』よりも酷いものであった……。

「次、間違えたら、使える素材をはぎ取って、肉はドラゴンステーキにするからな?」

「ひぃ、ごめんなさい! 『参謀』様!」

 凄む『参謀』に対して、気持ちいいくらいの低身低頭を見せた最強種は、頭の上に人を乗せていたことを忘れて土下座を敢行する。
 そして、予期せず宙に放り出された『統領』は顔から地面にハードランディングした。

「まぁいい。今日の仕事は予定通りに終わったぞ」

 何事もなく立ち上がり、今日の成果を報告すると、他のメンバーも続々と集まってきた。


「『統領』、言われたとおりに木を切ってきたけど、どこにおけばよい?」

「うむ、とりあえず船の近くに積み上げておいてくれ」

 『統領』よりも隆起した、ボディービルダーのような筋肉に包まれた人物。
 同じく全身黒スーツにライオンのような被り物。
 メンバー内のパワー担当、彼の名前は『怪人』。もちろん、コードネームである。

 大木を悠々と担いでは積み下ろしを繰り返す彼は、驚異的な膂力の持ち主であった。


「島を無人偵察機で少し調べてきたのですが、相当広いですね。それの割には陸地に生物がほとんど生息していないのが不思議なくらいです」

「あ、それはたぶん僕が原因ですね。結構長い間、ここを巣にしてますので」

 細マッチョのような薄い身体にタブレットのようなモニターを持った人物。
 同じく全身黒スーツに猛禽類のような被り物。
 メンバー内の発明王、彼の名前は『教授』。もちろん、コードネームである。


「ああ、トカゲ君。君はなんて素晴らしい身体をしているんだ……解剖させて?」

「うわーん! あね……『参謀』様、たすけてくださいー!」

 ギロッと睨まれそうになって、寸でのところで言い直した竜、命拾いである。

 最後に現れたのは、他の4人に対して明らかに小柄な人物。
 同じく全身黒スーツだが、ハムスターのような被り物が可愛い。
 メンバー内の癒し担当、彼女の名前は『医者』。もちろん、以下略である。


 昼食は固形の完全栄養食、宇宙ではこれが基本である。
 高カロリー、長期保存可、そして何より嵩張らない、栄養補給のみに重点を置いた逸品。
 ただし、長期間同じものを食すため、非常に飽きやすいという欠点もあった。

 それと島で取れた果物っぽいものがそのまま食卓に並ぶが、新鮮なものはそれだけで美味しかった。

「さて、拠点構築の目途が立ったので、そろそろ他の島の様子を見てこようと思う。目的はいくつかあるが、まず優先するのは食材の確保だな。出来れば、保存が効くものが望ましい。そして、私たちには家畜に出来そうな生き物が必要だ」

 徐に『統領』がそう切り出すと、同意するように全員が頷いた。
 どうやら、宇宙食に飽きて、久しぶりに肉をご所望のようである。
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