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1章 異世界転移は無理難題

1-23 俺、想定外の事態に直面するようです

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「ココが、ココがいなくなっただって!?」

 この日、俺の一日はあわただしく始まった。

 昨日いつものように川の字で寝て、朝3人で軽い食事をとり、俺とシオンはフェリア様の診断へ、ココは部屋で薬草の選別と薬湯の下準備をしていたはずだった。

「ハジメ、す、すまない……フェリアのほうには注意を払っていたのだが、まさか、ココ殿が狙われるとは思ってもみなかったのだ。本当にすまない……」

「そ、そんな……ココ様が……なんてことでしょう」

 フェリア様の診断が終わって、いつも通りアルバート様に報告に行こうとしたとき、アルバート様が部屋に駆け込んできたのだ。ココがいなくなったという話を持って。

「そんなことよりも! はやくココの行方を捜してください!」

「今、家の者を総動員して屋敷内を探している。外部には兵士たちを走らせている。全力で探しているから何らかの情報はすぐに入るはずだ……」

 焦りからか、思考が短絡になっている……落ち着け! 焦ってもいいことは一つもない。ハジメ、落ち着いてよく考えるんだ。ココはどこに行った? いや、どこに連れていかれた? きっと、何か糸口があるはずだ。よく考えろ!

「アルバート様! こんな手紙が!」

「何!? 早くよこせ!」

 執事の一人が手紙を持ってやってきた。その手紙には、こう書かれていた。

『ココという従者は我々が預かっている。今日から3日後に奴隷として売り払う。助けてほしければ、フェリアの身柄と交換だ。受け渡し場所と方法は追って伝える』



「ちっ、お前、獣人なのかよ! てっきりヒト族かと思ったのに……当てが外れたぜ」

「おいおい、旦那。話が違うじゃないか。獣人のメスじゃ、ヒト族の女に比べてかなり儲けが減っちまう。この埋め合わせはどうしてくれるんだ?」

 ゴルゴンとその取り巻きがココを見て、そう言い放った。ゴルゴンの周りの人間は明らかに人相の悪い連中が複数いて、それぞれが気持ち悪い目でココのことを見ていた。

「しょうがない。今回は、こいつを売った金はお前たちにすべてやる。だが、フェリアは私の物だ。埋め合わせもしてやろう」

「ひゅう。報酬には期待していいんだよな?」

 明らかにアウトローの集団である。サスラの街で、というかこの国での人身売買はご法度。捕まれば首魁は公開処刑、意図的に関わった者も両腕切断して追放という重罪(ほぼ死罪)である。それでもやるのは法を守る気がさらさらない、アンダーグラウンド的な集団だけ。金に目が眩んでいるもの達の悪魔の所業である。



 ココが攫われた。手紙の内容では3日後に売られるらしい。助けたければ、フェリア様の身柄引き渡しが条件。無論、アルバート様には、こんな取引に応じることなんてできないだろう。だが、そうなればココの身が危ない。どうする、どうする!?

 フェリア様への執着、あいつが犯人なのはほぼ確定だろう。それに、ここ最近、姿を全く見せていない。おそらくだが、身柄取引の時まで隠れるつもりだろう。居場所を虱潰しに探すしかないのか? 3日しか時間がないんだぞ!? くそっ!

「ハジメ、憤るのは当然だが、頼むから少しでも落ち着いてくれ。お前の顔が怖くなっていて、フェリアが怯える」

 ……そうだった。ふー、ふー。今、俺がここで焦ったり怒ったりしても、ココは帰ってこない。冷静になって考えるんだ。何か、何か手はないか……。

「お兄さん、私、ココ様との取引に参ります。手配をお願いできますか?」

「何を言っているんだ!? フェリア!」

「でも! 私がハジメ様にご恩を返すにはそれくらいしかできません!」

 フェリア様の提案は嬉しいが、もし仮に相手側にココを返す気が初めから無ければ、フェリア様をも危険にさらすことになる。一体、どうすればいい……?
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