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8-2 祭りの役割
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戦闘が終わった頃には夜もすっかり更けていた。
「隊長……こんなに……多いとは……聞いてませんよ……」
「彼女が引き受けた……穢れの他に……彼女の内からも……穢れが湧き出たのでしょう。詳しいことは聞いていませんが……状況から察するに……今回のカムペは彼女へ向けられた悪意でしょうから」
はぁはぁと肩で息をしながら皆座り込んでいる。もう、1歩も動けないといった様子だ。
「朝が来ます。引き上げますよ」
カパーはフードを深くかぶりながら皆に声をかけた。
カパーの号令で、皆、のろのろと立ち上がり木門へ向かう。
木門の前へ来ると、ギギギギギと待ち構えていたかの様に、門が開いた
「みんな~!お疲れ~!救護班には連絡入れてあるからな~。いつもの倍の人数出してくれるって~。はらへり共は積載長様のところへ行けよ~。今日の炊き出し確保してくれてるってよ~!」
真っ暗な門の上に一番星みたいな2対のトパーズが見えた。いつもの、のんきな声色に、ウッドは嬉しくなって両手をふった。
闇に溶け込んでしまって見えないが、きっとリンクスもブンブンと大きくふり返してくれているはずだ。よかった。リンクスはやっぱりリンクスなんだ。
「最初にどちらへ向かいますか?
ワタクシとしては、メルキュールさんの所で夕食にありつきたいのですが」
カパーの申し出にウッドは二つ返事で頷いた。ほんのついさっきまでは感じていなかった空腹が、カパーの言葉で急に襲ってきた。お腹の虫がきゅるるるる~と鳴き出す。
「聞くまでもなかったようですね。メルキュールさんの元へ急ぎましょうか」
カパーは穏やかに笑うと礼拝堂を目指して馬を走らせた。
「何故、私の天幕で行うのです?食事を手に入れたら速やかに立ち去るようにお伝えしたかと思うのですが?」
夕食後、ウッドはあの赤い目と向き合い、ソファーに座っていた。
「今晩はみなさん、こちらの天幕へ顔を出すでしょう。ワタクシの居場所は明確な方が良いかと思いまして」
「100歩譲って……いえ、1000歩譲って、空腹と疲労のあまり耐えきれず、こちらで食事を摂るまでは良しとしましょう。ですが、それ以上は面倒見きれません。続きはご自身の天幕でお願いします。」
「ははははは。ご冗談を。メルキュールさん、貴方はワタクシの天幕をご存知でしょう?とても人を招けるような空間ではありませんよ」
「貴方……、まだ、あの、足の踏み場のない……いえ……」
「あれで、どこに何があるのかはちゃんとわかっているのですよ。ワタクシ記憶に関してはスペシャリストですので」
「貴方の天幕を乗せているサラマンダーに心底同情しますよ」
「ワタクシはメルキュールさんを心底尊敬していますよ」
メルキュールは、はぁ……とため息をつくと諦めたように天幕の奥へと引っ込んでいった。
書棚を中心にタンスや棚がきっちりと整頓されており相変わらず綺麗な部屋だった。
物は多い筈なのに不思議と狭さや散らかっているという印象は受けない。
彼らしかぬ大きめのクッションや、上質な絨毯の上に敷かれているふかふかのラグなんかは、ここに入り浸っている真っ黒な山猫の巣だろう。
以前来たときも、彼はここで勝手にくつろいでいた。
「そちらの棚に茶器が入っています。お茶くらいでしたらご自由にどうぞ」
豊かな響きのある少し低い声がウッドを促す。思わず声のした方を仰ぎ見ると、奥の空間が中二階のようになっており、上から藤色のタレ目が優しくこちらを見ていた。
「それでは遠慮なく。」
カパーが答えると、貴方はいつも勝手にしているでしょう。等と言いつつストーブを差し示した。
そのまま、書類とにらめっこを始めてしまう。
「おや、お湯を沸かしてもいいそうですよ。彼も貴方には甘いのですね。メルキュールさんは子ども好きですから」
「子ども好きなわけではありませんよ。あまり勝手なことを吹き込まないでください」
「そうなのですか。では、そういうことにしておきましょうか」
カパーは、にやにやとストーブに向かった。勝手知ったる様子で近くの棚を漁るとカップといくつかの粉や茶葉を取り出した。
「どれがいいですか?甘いもの?苦いもの?酸っぱいものもありますね」
ウッドはう~ん、う~んと悩み、正直に白湯しか知らないことを伝えた。
「そうですか……。では、この辺りでいかがでしょうか?」
数分後、カップを片手にカパーはウッドの向いに腰を下ろした。
カップの中には赤みを帯びた暗い茶色のどろっとした液体が入っており、甘い匂いがした。これは、なんなんだろう?
味見をしようとした時、声がかかる。
「では、始めますよ。カムペと出会うことになった経緯に集中してください。」
「……はい。」
ウッドは、甘い匂いに後ろ髪を引かれつつ、エイルと畑の浄化に行った時のことへ意識を集中させる。
「目は開けたままで。そう、そのまま。目を合わせられないと記憶は覗けないのです。」
ぱちっと目を開きカパーの方を見る。
彼はフードを軽く後ろへ引き、赤い目と鼻までをさらしていた。
口元は相変わらず見えない。
「やはり、村人の羨望が悪意となり、カムペへと変わったのですね。もうそろそろ、お祭りで誤魔化すのも限界ですか……。
ウッドさん、貴方は、初めてカムペと対峙した時のことを覚えていますか?」
「うん。覚えてる。」
あの時の恐怖を忘れられる筈がない。暗闇の中でも音を頼りに何処までも追ってくる執念深さや、理不尽に振り上げられる蠍のようなしっぽ。やつらの口からは毒の涎が滴り落ち、触れるもの全てを腐らせた。
「あの時、貴方は何を思っていましたか?」
「あの時……」
あの時の感情をウッドはまだ整理しきれてはいなかった。たしか……カパーさんは、あの感情を『れっとうかん』と呼んでいた。
「この世界には大きく分けて魔物が2種類存在します。1つは、ルウォや、隊の荷を運んでいるような、生粋の魔物」
ウッドは手に持っていたカップに口を付ける。かなり熱い。ふーふーと冷ましていると黒い影がにゅっと現れた。
「いいもん飲んでんじゃ~ん!ひとくちちょ~だい」
そういって、ウッドの手からカップをもぎとるとどこかへ行ってしまった。
あいつ、ひとくちって、何だか知ってるんだろうか?
「2つ目は、人々の悪意が結晶となり生まれる魔物。聞いたことがありませんか?『いい子にしてないと魔王が来るぞ~』という言葉を」
「悪意……?」
「あまり良くない感情……とでもいいましょうか。人々がこれらを持つとその感情は魔物に変わります。みなさんがモンスターと呼ぶものですね。そして彼らは魔物同士で喰い合い、蠱毒よろしく、より悪意が濃くなったものが上位として君臨します。その最上級が魔王なのですよ。」
「モンスターが、悪いやつで、魔物は味方?」
「いいえ。単純に言ってしまえば、魔物は、魔力を持った生き物の総称であり、モンスターは蔑称です。
そもそも、モンスターも魔物も一見して見分けがつかない物がほとんどですから。
恐らく、主観でのみの区別でしょう。故に簡単にひっくり返るのですよ……」
カパーは、目を伏せ、少し言葉を選んでいるようだった。
「ちゃんと、ひとくちくれって断ってきたって~。え~!作り直すのかよ~」
カパーの声が途切れたからか、遠くでリンクスがなんか言っているのが聞こえる。
十中八九メルキュールさんに叱られているのだろう。あのやろ、どんだけ飲んだんだ……。
「ここは、もともと遊牧の民の地でした。ですから、我々行商人のように自由に国を行き来できる者への羨望が集まりやすいのです。そして、羨望は悪意に変わりやすい。我々も決して自由というわけではないんですけれどね……」
ここで1度言葉を切り、カパーはカップに口をつけた。
いいなぁ。せめて中身が何だったのか知りたい。
「もともと、自由の民を狭い檻の中に閉じ込めるのにはムリがあったのです。
日々募る不安や苛立ちから悪意が生まれ、やがてカムペへと形を成していく。
それがこの村の循環です。」
「ぐぇっ!だから……これ、飲んだら、やるから!!!踏むなって!!!いってぇ!!!しっぽ踏んでんだって!!!」
しっぽ!?あいつ、獣型になってんのか!?ちょっと見たい……。
「ですが、魔物となり、悪意が抜けることで、人々は皆、善性だけがのこり、平和が生まれます。これが、この国の仕組みです。」
「なる……ほど……?」
リンクスのせいで微塵も集中できなかった……。わかったような……?わからなかったような……?
「我々が来る度に、カムペを大量発生させては、かないません。ですから、滞在中、祭りを執り行うことで、人々の気を逸らしていたのです。」
「それだけではありませんよ。村人は外に出られない以上食料の調達が叶いません。ですから普段は節制をせざるをえず、あまり豪勢な食事はできません。」
獣型のリンクスの頭を小脇に抱えてズルズルと引きずりながらメルキュールが口を挟んだ。
「しかし、食料庫がその場にあれば話は別です。商隊がいる間は、祭りが執り行われる。祭りが執り行われている間は、豪華な食事が好きなだけ食べられる。と報酬を付けているのです。」
ウッドの前まで来るとパッとリンクスの頭を放した。べしょっとリンクスが落とされる。
「ぐえっ!!!ホットチョコ取ってごめんなさい……」
あれ、ホットチョコって言うんだ……。
「更に言えば、祭りとはもともと、感情を解放する場でもあります。
普段抑圧された感情や、ストレスを、その場で発散させる役割を持つのです。」
カパーがメルキュールの言葉を更に補足する。
「歌い、踊り、笑いあって解消されるのなら、これ以上のことはないでしょう?
非日常と高揚感がそれを可能とするのですよ。」
飲んでみたかったなぁ……。ホットチョコかぁ……。どんな味がするんだろう……。甘い……とは言ってたよなぁ……。
リンクスが持ってくってことは美味しいんだろうなぁ……。
「ですが、今回はここまでのようですね。最低限、畑の浄化はしましたし、明日、ここを発ちましょう」
「リンクスから知らせを聞いて、こうなるのではないかと思ってはいましたが……急ですね。」
「苦労をかけますね。」
「いつものことでしょう。」
はぁ……。とため息をつきながらも、
メルキュールは優しく目を細めた。
「隊長……こんなに……多いとは……聞いてませんよ……」
「彼女が引き受けた……穢れの他に……彼女の内からも……穢れが湧き出たのでしょう。詳しいことは聞いていませんが……状況から察するに……今回のカムペは彼女へ向けられた悪意でしょうから」
はぁはぁと肩で息をしながら皆座り込んでいる。もう、1歩も動けないといった様子だ。
「朝が来ます。引き上げますよ」
カパーはフードを深くかぶりながら皆に声をかけた。
カパーの号令で、皆、のろのろと立ち上がり木門へ向かう。
木門の前へ来ると、ギギギギギと待ち構えていたかの様に、門が開いた
「みんな~!お疲れ~!救護班には連絡入れてあるからな~。いつもの倍の人数出してくれるって~。はらへり共は積載長様のところへ行けよ~。今日の炊き出し確保してくれてるってよ~!」
真っ暗な門の上に一番星みたいな2対のトパーズが見えた。いつもの、のんきな声色に、ウッドは嬉しくなって両手をふった。
闇に溶け込んでしまって見えないが、きっとリンクスもブンブンと大きくふり返してくれているはずだ。よかった。リンクスはやっぱりリンクスなんだ。
「最初にどちらへ向かいますか?
ワタクシとしては、メルキュールさんの所で夕食にありつきたいのですが」
カパーの申し出にウッドは二つ返事で頷いた。ほんのついさっきまでは感じていなかった空腹が、カパーの言葉で急に襲ってきた。お腹の虫がきゅるるるる~と鳴き出す。
「聞くまでもなかったようですね。メルキュールさんの元へ急ぎましょうか」
カパーは穏やかに笑うと礼拝堂を目指して馬を走らせた。
「何故、私の天幕で行うのです?食事を手に入れたら速やかに立ち去るようにお伝えしたかと思うのですが?」
夕食後、ウッドはあの赤い目と向き合い、ソファーに座っていた。
「今晩はみなさん、こちらの天幕へ顔を出すでしょう。ワタクシの居場所は明確な方が良いかと思いまして」
「100歩譲って……いえ、1000歩譲って、空腹と疲労のあまり耐えきれず、こちらで食事を摂るまでは良しとしましょう。ですが、それ以上は面倒見きれません。続きはご自身の天幕でお願いします。」
「ははははは。ご冗談を。メルキュールさん、貴方はワタクシの天幕をご存知でしょう?とても人を招けるような空間ではありませんよ」
「貴方……、まだ、あの、足の踏み場のない……いえ……」
「あれで、どこに何があるのかはちゃんとわかっているのですよ。ワタクシ記憶に関してはスペシャリストですので」
「貴方の天幕を乗せているサラマンダーに心底同情しますよ」
「ワタクシはメルキュールさんを心底尊敬していますよ」
メルキュールは、はぁ……とため息をつくと諦めたように天幕の奥へと引っ込んでいった。
書棚を中心にタンスや棚がきっちりと整頓されており相変わらず綺麗な部屋だった。
物は多い筈なのに不思議と狭さや散らかっているという印象は受けない。
彼らしかぬ大きめのクッションや、上質な絨毯の上に敷かれているふかふかのラグなんかは、ここに入り浸っている真っ黒な山猫の巣だろう。
以前来たときも、彼はここで勝手にくつろいでいた。
「そちらの棚に茶器が入っています。お茶くらいでしたらご自由にどうぞ」
豊かな響きのある少し低い声がウッドを促す。思わず声のした方を仰ぎ見ると、奥の空間が中二階のようになっており、上から藤色のタレ目が優しくこちらを見ていた。
「それでは遠慮なく。」
カパーが答えると、貴方はいつも勝手にしているでしょう。等と言いつつストーブを差し示した。
そのまま、書類とにらめっこを始めてしまう。
「おや、お湯を沸かしてもいいそうですよ。彼も貴方には甘いのですね。メルキュールさんは子ども好きですから」
「子ども好きなわけではありませんよ。あまり勝手なことを吹き込まないでください」
「そうなのですか。では、そういうことにしておきましょうか」
カパーは、にやにやとストーブに向かった。勝手知ったる様子で近くの棚を漁るとカップといくつかの粉や茶葉を取り出した。
「どれがいいですか?甘いもの?苦いもの?酸っぱいものもありますね」
ウッドはう~ん、う~んと悩み、正直に白湯しか知らないことを伝えた。
「そうですか……。では、この辺りでいかがでしょうか?」
数分後、カップを片手にカパーはウッドの向いに腰を下ろした。
カップの中には赤みを帯びた暗い茶色のどろっとした液体が入っており、甘い匂いがした。これは、なんなんだろう?
味見をしようとした時、声がかかる。
「では、始めますよ。カムペと出会うことになった経緯に集中してください。」
「……はい。」
ウッドは、甘い匂いに後ろ髪を引かれつつ、エイルと畑の浄化に行った時のことへ意識を集中させる。
「目は開けたままで。そう、そのまま。目を合わせられないと記憶は覗けないのです。」
ぱちっと目を開きカパーの方を見る。
彼はフードを軽く後ろへ引き、赤い目と鼻までをさらしていた。
口元は相変わらず見えない。
「やはり、村人の羨望が悪意となり、カムペへと変わったのですね。もうそろそろ、お祭りで誤魔化すのも限界ですか……。
ウッドさん、貴方は、初めてカムペと対峙した時のことを覚えていますか?」
「うん。覚えてる。」
あの時の恐怖を忘れられる筈がない。暗闇の中でも音を頼りに何処までも追ってくる執念深さや、理不尽に振り上げられる蠍のようなしっぽ。やつらの口からは毒の涎が滴り落ち、触れるもの全てを腐らせた。
「あの時、貴方は何を思っていましたか?」
「あの時……」
あの時の感情をウッドはまだ整理しきれてはいなかった。たしか……カパーさんは、あの感情を『れっとうかん』と呼んでいた。
「この世界には大きく分けて魔物が2種類存在します。1つは、ルウォや、隊の荷を運んでいるような、生粋の魔物」
ウッドは手に持っていたカップに口を付ける。かなり熱い。ふーふーと冷ましていると黒い影がにゅっと現れた。
「いいもん飲んでんじゃ~ん!ひとくちちょ~だい」
そういって、ウッドの手からカップをもぎとるとどこかへ行ってしまった。
あいつ、ひとくちって、何だか知ってるんだろうか?
「2つ目は、人々の悪意が結晶となり生まれる魔物。聞いたことがありませんか?『いい子にしてないと魔王が来るぞ~』という言葉を」
「悪意……?」
「あまり良くない感情……とでもいいましょうか。人々がこれらを持つとその感情は魔物に変わります。みなさんがモンスターと呼ぶものですね。そして彼らは魔物同士で喰い合い、蠱毒よろしく、より悪意が濃くなったものが上位として君臨します。その最上級が魔王なのですよ。」
「モンスターが、悪いやつで、魔物は味方?」
「いいえ。単純に言ってしまえば、魔物は、魔力を持った生き物の総称であり、モンスターは蔑称です。
そもそも、モンスターも魔物も一見して見分けがつかない物がほとんどですから。
恐らく、主観でのみの区別でしょう。故に簡単にひっくり返るのですよ……」
カパーは、目を伏せ、少し言葉を選んでいるようだった。
「ちゃんと、ひとくちくれって断ってきたって~。え~!作り直すのかよ~」
カパーの声が途切れたからか、遠くでリンクスがなんか言っているのが聞こえる。
十中八九メルキュールさんに叱られているのだろう。あのやろ、どんだけ飲んだんだ……。
「ここは、もともと遊牧の民の地でした。ですから、我々行商人のように自由に国を行き来できる者への羨望が集まりやすいのです。そして、羨望は悪意に変わりやすい。我々も決して自由というわけではないんですけれどね……」
ここで1度言葉を切り、カパーはカップに口をつけた。
いいなぁ。せめて中身が何だったのか知りたい。
「もともと、自由の民を狭い檻の中に閉じ込めるのにはムリがあったのです。
日々募る不安や苛立ちから悪意が生まれ、やがてカムペへと形を成していく。
それがこの村の循環です。」
「ぐぇっ!だから……これ、飲んだら、やるから!!!踏むなって!!!いってぇ!!!しっぽ踏んでんだって!!!」
しっぽ!?あいつ、獣型になってんのか!?ちょっと見たい……。
「ですが、魔物となり、悪意が抜けることで、人々は皆、善性だけがのこり、平和が生まれます。これが、この国の仕組みです。」
「なる……ほど……?」
リンクスのせいで微塵も集中できなかった……。わかったような……?わからなかったような……?
「我々が来る度に、カムペを大量発生させては、かないません。ですから、滞在中、祭りを執り行うことで、人々の気を逸らしていたのです。」
「それだけではありませんよ。村人は外に出られない以上食料の調達が叶いません。ですから普段は節制をせざるをえず、あまり豪勢な食事はできません。」
獣型のリンクスの頭を小脇に抱えてズルズルと引きずりながらメルキュールが口を挟んだ。
「しかし、食料庫がその場にあれば話は別です。商隊がいる間は、祭りが執り行われる。祭りが執り行われている間は、豪華な食事が好きなだけ食べられる。と報酬を付けているのです。」
ウッドの前まで来るとパッとリンクスの頭を放した。べしょっとリンクスが落とされる。
「ぐえっ!!!ホットチョコ取ってごめんなさい……」
あれ、ホットチョコって言うんだ……。
「更に言えば、祭りとはもともと、感情を解放する場でもあります。
普段抑圧された感情や、ストレスを、その場で発散させる役割を持つのです。」
カパーがメルキュールの言葉を更に補足する。
「歌い、踊り、笑いあって解消されるのなら、これ以上のことはないでしょう?
非日常と高揚感がそれを可能とするのですよ。」
飲んでみたかったなぁ……。ホットチョコかぁ……。どんな味がするんだろう……。甘い……とは言ってたよなぁ……。
リンクスが持ってくってことは美味しいんだろうなぁ……。
「ですが、今回はここまでのようですね。最低限、畑の浄化はしましたし、明日、ここを発ちましょう」
「リンクスから知らせを聞いて、こうなるのではないかと思ってはいましたが……急ですね。」
「苦労をかけますね。」
「いつものことでしょう。」
はぁ……。とため息をつきながらも、
メルキュールは優しく目を細めた。
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