14 / 19
6-1 戦闘スタイル
しおりを挟む
ウッドは翌日から正式に護衛部隊配属となった。
「お前さんがリンクスの拾ってきた犬っころか!俺の名はトール・マレスだ。よろしく頼む!」
護衛部隊の隊長は厳つい熊みたいな男だった。短く刈り上げられた頭と無造作に伸ばされた無精髭がその強面をより一層引き立てていた。
分厚い身体から響き渡る唸るような低音ボイスはそれだけで相手を怯ませる効果がありそうだ。
「まずはお前さんの適性を見る。扱える得物はあるか?」
今日も今日とて広場では宴が開かれている。昼間のうちはリンクスは村の男たちの戦闘訓練に駆り出されていた。
ウッドは、護衛部隊隊長のマレスと共に教会裏の庭に来ている。
教会の裏側は広い庭と畑で構成されていた。陽当たりのいいその庭は生け垣や花が植えられ、所々にベンチが置かれている。
「こういうクネッとしたナイフと弓なら少し……。」
ナイフの形を手で示しながら答える。
「おぉ!ククリ刀か!そうか、山岳の民ならではだな。それと弓か。あぁ。悪くない。少し待っとれ。」
そう言ってマレスは両手を構え目を瞑る。すると、両手にククリ刀が2振り現れた。
「どれ、手合わせ願おうか。」
そう言ってククリ刀が1振投げ渡される。
ビリビリと殺気が肌を刺し、それだけでこの身が切り裂かれそうだ。
ジリジリと間合いをはかるが、全く隙がない。今斬りかったところで返り討ちに合うだろう……。
まるで野生の熊を相手にしているかのような迫力だ。……野生の熊……?そうか!熊を相手に狩りをする時は正面から行ってはダメだ。
ウッドは勢いを付けてマレスに斬りかかるとわざと弾かれ、その勢いを借りて植木に飛び込んだ。
元々は狩りで使っていた得物だ。平面での戦闘はウッドには経験がない。この庭を使ってゲリラ戦でも仕掛けなければ3秒と持たないだろう。
ウッドはククリ刀で庭の植木の枝を落として植木の隙間に道を作った。
きっとマレス隊長は、オレが落ちたところへアタリをつけてやってくるだろう。その時が反撃のチャンスだ。少しズレた位置からの奇襲で一太刀くらいは当ててやる!
逸る心を押さえつつ、反撃の瞬間を待った。
しかし、待てど暮らせどマレスはその場を動かない。ならば。と、なるべく音をたてないように植木を伝い、高い木に登る。
そのままククリ刀を構えるとマレスの死角から、彼目掛けて落ちていった。重力を利用して一太刀の威力を上げるのだ。
「っ!!!!」
獲った!!!そう思ったとき、マレスが振り向き半歩後ろに下がった。そしてそのまま腕を伸ばすとあっさりとウッドを捕まえた。
「作戦は悪くないがな。植木は人様の物だ。訓練では伐ってくれるな。」
そう言って小さな子どもにするように、両わきに手を入れ、腕を伸ばして高く掲げると、すとんと下ろした。
実力が違いすぎて打ち合いすらできなかった。それが、ウッドの現状だ。
「弓はどれほど使える?あの鳥を落とせるか?」
マレスは空高く飛ぶ鳥を指差した。正直遠すぎて黒い点にしか見えなかった。あれ程までの距離を飛ばすことはできない。そう、正直に伝えると、わかった。では、適当でいいからあの鳥を狙って射ってみろと、いわれた。
渡された弓に矢をつがえキリキリと引き絞る。届かないことはわかっていたが当てるつもりで矢を放った。
勢いよく飛び出した矢は、案の定届かず、やがて勢いを失い落ちていった。
矢の軌道を見届けると、マレスは筋は悪くないぞと、ウッドの頭を撫でてから、白い紙を渡した。
「これで最後だ。魔力を込めてみろ」
そう言って渡された紙を手にうーん!と力を込めてみる。強く握り過ぎて皺が入った以外は何も起きなかった。
がっはっはっはっは、と、マレスは豪快に笑った。
「魔力なしだな。なぁに、心配するこたぁない。俺が立派な戦士に鍛え上げてやるさ。」
ニッと笑ったマレスは、何枚かの羊皮紙を取り出しウッドに渡した。
「とりあえずは、これを毎日やるといい。話しはそれからだ。」
それから、こいつもやる。と口を縛った布を渡される。開けると中にはクッキーが入っていた。
「俺の部隊に入ったからにゃあ、雑用と不寝番は必ず付いて回る。そんなんじゃぁ、あっちゅう間にぶっ倒れちまうぞ。しっかり食ってもっと肉をつけるこったな。」
じゃあな。と、ウッドの頭をガシガシと撫でてからマレスはのしのしと去っていった。
広場に戻りクッキーを齧っているとリンクスに声をかけられた。
石畳の広場では今日も人の背丈ほどもある焚き火が組まれ、気持ちよく燃えていた。
焚き火の周りでは、陽気な音楽が流れ、酒や料理が振る舞われている。
そこから少し離れた広場の一角では、商隊の護衛部隊と村の男達が剣を交えていた。
「どうだったよ、マレス部隊長の実力試験は?」
「うん……。何にもできなかった。」
「そうか?それ、貰ったんだろ?本当に見込みがなけりゃ、あんた今頃、積載長様のところに突っ返されてるぜ。」
リンクスは羊皮紙を指差していった。羊皮紙には簡単な基礎トレーニングと、何人かの名前が書かれていた。
「なっつかし~なぁ。これさ、ここに書いてあるやつに勝負を挑んでくんだよ。一人倒せたら次、一人倒せたら次って感じでさ。そんで、最後にマレス部隊長様に勝てたら、晴れて対魔物戦闘に参加できるってわけ!」
簡単だろ?と、リンクスは笑う。
簡単かなぁ……。本当にあの熊みたいな部隊長を倒せるようになるんだろうか……。
「まぁ、まずは基礎トレだな。体力と筋肉つけないとな!頑張れよ!」
そう言ってリンクスは村の男達の戦闘訓練に戻っていった。
オレも基礎トレ頑張らないとな!
残りのクッキーを平らげてしまおうと手元を見ると跡形もなく消えていた。
どこぞの泥棒猫が去り際にかっさらって行ったのだろう。
あいつ……許さない……。
「お前さんがリンクスの拾ってきた犬っころか!俺の名はトール・マレスだ。よろしく頼む!」
護衛部隊の隊長は厳つい熊みたいな男だった。短く刈り上げられた頭と無造作に伸ばされた無精髭がその強面をより一層引き立てていた。
分厚い身体から響き渡る唸るような低音ボイスはそれだけで相手を怯ませる効果がありそうだ。
「まずはお前さんの適性を見る。扱える得物はあるか?」
今日も今日とて広場では宴が開かれている。昼間のうちはリンクスは村の男たちの戦闘訓練に駆り出されていた。
ウッドは、護衛部隊隊長のマレスと共に教会裏の庭に来ている。
教会の裏側は広い庭と畑で構成されていた。陽当たりのいいその庭は生け垣や花が植えられ、所々にベンチが置かれている。
「こういうクネッとしたナイフと弓なら少し……。」
ナイフの形を手で示しながら答える。
「おぉ!ククリ刀か!そうか、山岳の民ならではだな。それと弓か。あぁ。悪くない。少し待っとれ。」
そう言ってマレスは両手を構え目を瞑る。すると、両手にククリ刀が2振り現れた。
「どれ、手合わせ願おうか。」
そう言ってククリ刀が1振投げ渡される。
ビリビリと殺気が肌を刺し、それだけでこの身が切り裂かれそうだ。
ジリジリと間合いをはかるが、全く隙がない。今斬りかったところで返り討ちに合うだろう……。
まるで野生の熊を相手にしているかのような迫力だ。……野生の熊……?そうか!熊を相手に狩りをする時は正面から行ってはダメだ。
ウッドは勢いを付けてマレスに斬りかかるとわざと弾かれ、その勢いを借りて植木に飛び込んだ。
元々は狩りで使っていた得物だ。平面での戦闘はウッドには経験がない。この庭を使ってゲリラ戦でも仕掛けなければ3秒と持たないだろう。
ウッドはククリ刀で庭の植木の枝を落として植木の隙間に道を作った。
きっとマレス隊長は、オレが落ちたところへアタリをつけてやってくるだろう。その時が反撃のチャンスだ。少しズレた位置からの奇襲で一太刀くらいは当ててやる!
逸る心を押さえつつ、反撃の瞬間を待った。
しかし、待てど暮らせどマレスはその場を動かない。ならば。と、なるべく音をたてないように植木を伝い、高い木に登る。
そのままククリ刀を構えるとマレスの死角から、彼目掛けて落ちていった。重力を利用して一太刀の威力を上げるのだ。
「っ!!!!」
獲った!!!そう思ったとき、マレスが振り向き半歩後ろに下がった。そしてそのまま腕を伸ばすとあっさりとウッドを捕まえた。
「作戦は悪くないがな。植木は人様の物だ。訓練では伐ってくれるな。」
そう言って小さな子どもにするように、両わきに手を入れ、腕を伸ばして高く掲げると、すとんと下ろした。
実力が違いすぎて打ち合いすらできなかった。それが、ウッドの現状だ。
「弓はどれほど使える?あの鳥を落とせるか?」
マレスは空高く飛ぶ鳥を指差した。正直遠すぎて黒い点にしか見えなかった。あれ程までの距離を飛ばすことはできない。そう、正直に伝えると、わかった。では、適当でいいからあの鳥を狙って射ってみろと、いわれた。
渡された弓に矢をつがえキリキリと引き絞る。届かないことはわかっていたが当てるつもりで矢を放った。
勢いよく飛び出した矢は、案の定届かず、やがて勢いを失い落ちていった。
矢の軌道を見届けると、マレスは筋は悪くないぞと、ウッドの頭を撫でてから、白い紙を渡した。
「これで最後だ。魔力を込めてみろ」
そう言って渡された紙を手にうーん!と力を込めてみる。強く握り過ぎて皺が入った以外は何も起きなかった。
がっはっはっはっは、と、マレスは豪快に笑った。
「魔力なしだな。なぁに、心配するこたぁない。俺が立派な戦士に鍛え上げてやるさ。」
ニッと笑ったマレスは、何枚かの羊皮紙を取り出しウッドに渡した。
「とりあえずは、これを毎日やるといい。話しはそれからだ。」
それから、こいつもやる。と口を縛った布を渡される。開けると中にはクッキーが入っていた。
「俺の部隊に入ったからにゃあ、雑用と不寝番は必ず付いて回る。そんなんじゃぁ、あっちゅう間にぶっ倒れちまうぞ。しっかり食ってもっと肉をつけるこったな。」
じゃあな。と、ウッドの頭をガシガシと撫でてからマレスはのしのしと去っていった。
広場に戻りクッキーを齧っているとリンクスに声をかけられた。
石畳の広場では今日も人の背丈ほどもある焚き火が組まれ、気持ちよく燃えていた。
焚き火の周りでは、陽気な音楽が流れ、酒や料理が振る舞われている。
そこから少し離れた広場の一角では、商隊の護衛部隊と村の男達が剣を交えていた。
「どうだったよ、マレス部隊長の実力試験は?」
「うん……。何にもできなかった。」
「そうか?それ、貰ったんだろ?本当に見込みがなけりゃ、あんた今頃、積載長様のところに突っ返されてるぜ。」
リンクスは羊皮紙を指差していった。羊皮紙には簡単な基礎トレーニングと、何人かの名前が書かれていた。
「なっつかし~なぁ。これさ、ここに書いてあるやつに勝負を挑んでくんだよ。一人倒せたら次、一人倒せたら次って感じでさ。そんで、最後にマレス部隊長様に勝てたら、晴れて対魔物戦闘に参加できるってわけ!」
簡単だろ?と、リンクスは笑う。
簡単かなぁ……。本当にあの熊みたいな部隊長を倒せるようになるんだろうか……。
「まぁ、まずは基礎トレだな。体力と筋肉つけないとな!頑張れよ!」
そう言ってリンクスは村の男達の戦闘訓練に戻っていった。
オレも基礎トレ頑張らないとな!
残りのクッキーを平らげてしまおうと手元を見ると跡形もなく消えていた。
どこぞの泥棒猫が去り際にかっさらって行ったのだろう。
あいつ……許さない……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる