魔王のいない世界で勇者になるには

蛍雪月夜

文字の大きさ
上 下
7 / 19

3-1 商隊の役割

しおりを挟む
「カパーさん、オレの秘密、聞いてくれますか?」

些かマシになったとはいえ、この時期の夜はまだ肌寒い。

昼間とは打ってかわって静かに整列する白い影が、ここだけを小さな村のように見せていた。

ズラリと並んだ天幕は昼間には見られないものだ。天幕により狭くなった空と草原を、月明かりと松明が照らしている。

「おや、ワタクシが聞いてもよいものなので?」

カパーはフフフと楽しそうに笑った。

「貴方に聞いて欲しいんだ。」

子どもが答えるとカパーは、おや、と真面目な表情を作った。

「こちらへどうぞ。そこだと冷えるでしょう。」

カパーは焚き火の向かいで折り畳み式の椅子に座っていた。

骨組みに大きな布を固定したその椅子は、椅子と言うよりも三日月型のハンモックのようだった。

ゆったりと包み込まれるように身体を預けていたカパーは、背もたれから身体を起こす。

「リンクスから新しい衣服を受け取ったのですね。お似合いですよ。」

黄色を基調としたコーディネートは明るくて真っ直ぐな彼に良く似合う。

裾の広いズボンやノースリーブのインナーは元気なイメージをより強くしていた。

彼は腕に持っていた白い布を被ると、外套はカパーさんの真似なんだ。と誇らしげに胸を反らせた。

「ウッドっていうんだ。オレの名前。」

「おや?貴方の村には名前がないと聞きましたが?」

カパーは、わざとらしく驚いたような顔をした。

「うん。だから、これが、オレの秘密。」

「そうですか。話してくださりありがとうございます。

ところで、秘密というのは1度誰かに話すと皆が知るところとなるのは御存じですか?」

いつものニヤリとした顔でカパーは言った。

「え?」

「本当に知られてはいけない秘密は絶対に誰にも話してはいけませんよ。

どこで誰が聞き耳を立てているかわからないのですから。ねぇ、リンクス?」

「ま~た、バレてた~……。」

一番近い天幕の影から黒い影がぬるっと出てくる。

月明かりの中では、彼の姿は闇に溶けてしまい、姿を現した今でも見失ってしまいそうだ。

トパーズの瞳が星のように彼の位置を教えてくれていた。

「リンクス、貴方は今日、不寝番ではないのですよ。夜更かしせずに休みなさい。それとも何か気にかかることでも?」

カパーはニヤリと笑う。

「わかってるくせに~。意地悪だなぁ。もう。
ウッドのこと本当にいいんですか?」

「おや?何のことでしょう?荷として預かったのは名前のない少年です。

この隊にはウッドという名前の者は居ないのですよ。

彼は、この広い草原で迷い、我々の隊にいつの間にか流れ着いていたのでしょう。

保護して差し上げなくては。それも商隊の務めですからね。リンクス、貴方が面倒をみておやりなさい。」

つらつらと話すカパーの声にトパーズの瞳がくしゃっと細くなる

「隊長ってば、ほんと素直じゃないよな~。しょうがねぇな。俺が面倒みてやんよ。ついてこいよ。ウッド」

言葉とは裏腹にリンクスは嬉しそうだった。

「兎の下ごしらえ教えてやるよ」
しおりを挟む
script?guid=on
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...