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本編

13 side.フィストス②

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 処女は硬いし面倒くさくて嫌いだ、という同胞を知っている。逆に、処女しか食わない変態悪魔も知っている。フィストスは強いこだわりを持たないが、どちらかと言えば少しは経験のある柔らかい女の方が好きだった。しかしながら、処女は有限である、とも思っている。
 そういう訳で、さっそく抱いた。

(……悪くないな)

 契約者エルフリーデは、破瓜がまだであることはもちろん、達することすら初めての、本当に本当の処女だった。
 思っていた通り身体は硬いし、胸も尻もあまり大きくないし、色っぽい雰囲気も皆無で、逃げようとすらするくらいだったが、処女であろうとよがらせることは難しくなかった。
 それでもまだ中だけで快感を拾うことは難しいらしい。昔、淫魔とつるんでいた時に手に入れた媚薬を唾液から出すことができたので、痛みはない様子だが。

「あっ、あくま……、あつ、い……あっ」

 あつい、などと言うのがおかしくて、少し笑った。
 中のいいところを探しながらとんとんと突いてやる。魂を縛って手足の自由を奪っているが、それでも跳ねる腰を押さえつけて、より深く穿つ。

「あああっ、ひぁ、あっ」

 この契約者の声はいい。柔らかい羽がフィストスの耳をくすぐっているようだった。はじめは我慢していたのに、今では刺激を与えてやる度に素直に鳴いている。
 身体の相性も悪くなかった。感度がいいから、もう何度か抱けば慣れてもっともっと楽しめそうだ。

「ぅっ、ひぅ、あ、あっ、はぁっ」

 顔を真っ赤にとろけさせて、うっすら開いた唇の端から唾液を垂らして。それを舐めたら甘いのか、などと考える。

 中は狭い。小さな穴で必死に己のものを咥えこんでいるさまは、見ているだけで満足できる。だんだんと柔らかくなってくるそこは抽送の度に絡みつき、奥から愛液をこぼした。

 じゅく、じゅぽ、と水音が立つほど濡れた箇所に指を添わせて、濡れた指で陰核をこりゅこりゅとこねる。

「やっ、やだやだ、あっ、それ、やだぁっ、あっ…………、っ!!」
「……っ」

 契約者が何度目かの絶頂を迎える。びくびくと腰が揺れて波打ちながら中を強く締め付け、持っていかれそうになるのを堪えた。もう少し楽しみたい。
 しかし。

「……」
「……ん?」
「……」
「おい」

 くたりとして動かない身体。ぴったり閉じられた涙でぐしゃぐしゃの目。どうやら、気をやってしまったらしい。
 フィストスが身じろぎすれば身体だけはわずかに反応を見せるが、これでは面白くない。

「はぁ……」

 契約者の中から抜いて、軽くしごいて昂ぶっていたものを吐き出した。微かに上下する白い腹に飛び散ったものをしばし眺めてから、魔法で跡形もなく消し去る。そして、しばらく考えた。

 確かに処女を暴いた。契約はこれで完了だが、到底満足はできない。かといって気を失っている女をそのまま抱くような趣味はないし、わざわざ起こして続けるのも興が削がれそうだ。

「また来るか」

 久しぶりの契約者なのだから、なにもたった一度で終わらせることもない。
 先にひとりで気絶してしまっては処女を貰ったことにならないから、とでも言えば、この初な小娘は簡単に騙されてくれそうだ。どんどん騙して、溺れさせて、次に口にする望みが何なのかを聞いてみたい。

「じゃあ、またな。エルフリーデ」

 そうだ、それがいい。むしろそれでいい。悪魔なのだから、いかに騙して奪って楽しむか、だ。

「なるべく長く楽しませてくれよ」

 まばたきをすれば、魔法で暗くしていた部屋に燦々とした光が差した。そうして大悪魔フィストスは、黒い霧となって消えた。



 ある日、シャンデリアと共に床に叩きつけられそうになっていた時はさすがのフィストスもひやりとした。悪魔とは言え常に契約者を監視しているわけではない。たまたまその気になって来てみなければ怪我をしていたのだろうか。それとも――死んでいたのか。

「ひとりで何してんだよ」
「シャンデリアを……磨こうかと……」

 そんなことは言われなくても分かっている。エルフリーデは誰もいなくなった温泉の玄関広間でひとり、梯子に登りシャンデリアを下ろそうとしていた。問題はなぜたったひとりでそのようなことをしているのか、ということだ。

 人間は転んだだけでも死ぬことがある弱い生き物だ。この契約者にもそうあっさり死なれては、今後の楽しみがなくなる。

「助けてくれてありがとう」

 文句を言ってやろうかと思ったフィストスだったが、腰を抜かしながら礼を言われてしまえばその気も失せた。

「……ここには温泉というものがあるんだろ?」
「え? うん、そうね、あるよ」

 悪魔には沐浴の概念がない。もちろんフィストスも同様で、だから温泉などというものにも特に興味はなかった。
 けれど、この年若い契約者がたった一回の処女を対価にして守ったものが温泉らしい。そう考えれば多少は気にもなってくる。

「入ってみたい」
「温泉に? それはいいけど」
「一緒に入る。行くぞ」
「えっ」

 フィストスに支えられながら立ち上がった契約者は、悪魔の言葉に素っ頓狂な顔を見せた。

「わ、私はいい。ひとりで入ってきて。もう誰もいないし、自由にしていいから」

 エルフリーデはよたよたとした足取りでフィストスから離れる。少し曇ったシャンデリアを見上げて続けた。

「あのね、男女別の温泉もあるんだけど、外の大きな露天風呂もおすすめなの。専用の服を着て男女皆で入って、ゲームとかもできるんだけど。夜は明かりがお湯に反射して、すごく綺麗でね」
「そうか、それはいいことを聞いたな」

 あからさまにほっとした様子の契約者に、嗜虐心のようなものが顔を出す。

『エルフリーデ』
「あ、ちょっともしかして……っ」

 そのもしかして、だ。
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