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それからは怒涛のような毎日だった。
加藤のパートナーである徹也の弟は、悪魔の烙印が消えたらしい。その加藤と徹也は高校卒業と同時に同棲を始めると教えられた。
円は希望進路の変更で新しい担任と多少揉めたりしたけれど、無事に受験に成功した。瞳も何とか無事に高校を卒業し、晴れて律の事務所で正社員として働いている。
ネロとピノも元気で、時折式神たちが二匹を見たいと念話でねだってくるのが瞳の悩みのひとつであった。悩みは他にもある。セレスティーヌとユーフェミアが、何も用事がないのに瞳たちのもとをたびたび訪れてきてはお茶会と称して歓談して去っていくのである。さすがの瞳も精霊には気を遣う。
大学に通い始めた円は、実習に次ぐ実習で疲れているにも関わらず、瞳とのスキンシップだけは忘れない。相変わらずというか、本当に円らしいといったところか。
そして、律はその姿を実年齢まで近付けていた。一時期は成長痛に悩まされたりもしたらしいが、円の大学卒業に合わせて、美作と結婚することになった。
なにより結婚と言えば、瞳と円である。二人は律たちよりも早く、20歳になるのを待ってパートナーシップ制度で晴れて書類上でもパートナーとなっていた。円は指輪の代わりにと、瞳と円と二人で一組のピアスを買った。お互いにピアッサーでファーストピアスを開けあい、ピアスホールが安定してからはそのピアスを着けている。
律の事務所も瞳が正式加入したことで徐々に依頼も増え、軌道に乗り始めた。
真は相変わらず瞳を諦めていないらしく、円と別れるのを虎視眈々と狙っているのだとか。色事関係に興味が無いように見える次期当主に、そろそろ見合い話でも、と当主が言い始めたという話は舞から聞いた。
初恋が瞳では、それは次の恋にはすぐには繋がらない、と言ったのは玄武だっただろうか、美作だっただろうか。
とにかく既にパートナーがいる瞳にはどうしようもないことだ、と思わざるをえなかった。
『篁』の家は、やはり『力』を失った。あの場に関係者全員が居て瞳の言葉を聞いていたせいか、瞳たちに害がおよぶことはあれから一切なかった。
そうして。
やっと円が国家資格を取得し、大学を卒業した春。
円は瞳と同じく律の事務所に所属することになった。
そのはずだったのだが。
「聞いてないんだけど!?」
「言ってなかったからな」
「なんで!?」
初出勤の日。つまりは瞳の正確な誕生日に、円はある意味ドッキリに見舞われた。犯人は瞳である。
土曜日だったけれど、やはり区切りの良い日からということで入社式でもしましょう、と。律が言ったのだ。そのはずなのに。
「なんで瞳が所長なの!」
そうなのだ。
年度切り替えを挟んで、所長が変わっていたのだ。律から、瞳に。
「初めから、そういう契約だったんだ」
「……どういうこと?」
「律さんの外見の変化は止まらない。美作さんとも関係が進むことはある程度予測してた。だから、オレから持ちかけたんだ。円の卒業と同時に、オレに事務所を譲ってほしい、と」
「でも。だって、じゃあ『謎の祓い屋』の方はどうするの? あっちでもまだ『仕事』してるでしょ」
「もう『謎の祓い屋』は必要ない。オレたちが全て解決できるはずだ」
『謎の祓い屋』としての『依頼』は、もう受けることは無い、と。
瞳はそう言った。
「式神たちともそう決めた。今後は『西園寺瞳』として、祓い屋を続ける」
「そっか……」
「不満か?」
「ううん。もう決めたんだよね?」
「そうだな。そのためには、円。お前の協力が必要なんだ」
「俺?」
「医者として、術者として、そしてなにより、プライベートも含めたパートナーとして。これからも一緒に生きてほしい」
「……なにそのプロポーズ。俺の時よりカッコイイでしょ、反則」
「受けてくれるか?」
「断ると思う? 俺の誰より大切なパートナーさん?」
「ふは」
「受けるに決まってるでしょ。と言うより、その立場も権利も、誰にも譲らないよ」
「そう言うと思った」
至極マジメに言う円と、くすくすと笑う瞳。
瞳は、相変わらずオッドアイを隠してコンタクトレンズをしている。外見で変わったとすれば、前髪を少し短くしたくらいだろうか。
他に誰もいない事務所。
二人、引き寄せられるように指を絡めて、唇を触れさせる。
今日からは改めて、事務所には看板を出すことにしている。もうすぐ業者も到着する頃だ。
それまで、もう少しだけ、と。瞳は円に口腔を貪られる。
「……っは。お前……、これからもコレを変える気はなさそうだな……」
「コレが無くなったら俺じゃないでしょ」
「外ではやるなって言ってるんだよ!」
「それは瞳次第」
「どういう意味だ?」
「自覚するまでは無理かなぁー?」
そう円が笑ったところでインターホンが鳴る。
『西園寺心霊探偵事務所』。
祓い屋、はじめました。
【END】
加藤のパートナーである徹也の弟は、悪魔の烙印が消えたらしい。その加藤と徹也は高校卒業と同時に同棲を始めると教えられた。
円は希望進路の変更で新しい担任と多少揉めたりしたけれど、無事に受験に成功した。瞳も何とか無事に高校を卒業し、晴れて律の事務所で正社員として働いている。
ネロとピノも元気で、時折式神たちが二匹を見たいと念話でねだってくるのが瞳の悩みのひとつであった。悩みは他にもある。セレスティーヌとユーフェミアが、何も用事がないのに瞳たちのもとをたびたび訪れてきてはお茶会と称して歓談して去っていくのである。さすがの瞳も精霊には気を遣う。
大学に通い始めた円は、実習に次ぐ実習で疲れているにも関わらず、瞳とのスキンシップだけは忘れない。相変わらずというか、本当に円らしいといったところか。
そして、律はその姿を実年齢まで近付けていた。一時期は成長痛に悩まされたりもしたらしいが、円の大学卒業に合わせて、美作と結婚することになった。
なにより結婚と言えば、瞳と円である。二人は律たちよりも早く、20歳になるのを待ってパートナーシップ制度で晴れて書類上でもパートナーとなっていた。円は指輪の代わりにと、瞳と円と二人で一組のピアスを買った。お互いにピアッサーでファーストピアスを開けあい、ピアスホールが安定してからはそのピアスを着けている。
律の事務所も瞳が正式加入したことで徐々に依頼も増え、軌道に乗り始めた。
真は相変わらず瞳を諦めていないらしく、円と別れるのを虎視眈々と狙っているのだとか。色事関係に興味が無いように見える次期当主に、そろそろ見合い話でも、と当主が言い始めたという話は舞から聞いた。
初恋が瞳では、それは次の恋にはすぐには繋がらない、と言ったのは玄武だっただろうか、美作だっただろうか。
とにかく既にパートナーがいる瞳にはどうしようもないことだ、と思わざるをえなかった。
『篁』の家は、やはり『力』を失った。あの場に関係者全員が居て瞳の言葉を聞いていたせいか、瞳たちに害がおよぶことはあれから一切なかった。
そうして。
やっと円が国家資格を取得し、大学を卒業した春。
円は瞳と同じく律の事務所に所属することになった。
そのはずだったのだが。
「聞いてないんだけど!?」
「言ってなかったからな」
「なんで!?」
初出勤の日。つまりは瞳の正確な誕生日に、円はある意味ドッキリに見舞われた。犯人は瞳である。
土曜日だったけれど、やはり区切りの良い日からということで入社式でもしましょう、と。律が言ったのだ。そのはずなのに。
「なんで瞳が所長なの!」
そうなのだ。
年度切り替えを挟んで、所長が変わっていたのだ。律から、瞳に。
「初めから、そういう契約だったんだ」
「……どういうこと?」
「律さんの外見の変化は止まらない。美作さんとも関係が進むことはある程度予測してた。だから、オレから持ちかけたんだ。円の卒業と同時に、オレに事務所を譲ってほしい、と」
「でも。だって、じゃあ『謎の祓い屋』の方はどうするの? あっちでもまだ『仕事』してるでしょ」
「もう『謎の祓い屋』は必要ない。オレたちが全て解決できるはずだ」
『謎の祓い屋』としての『依頼』は、もう受けることは無い、と。
瞳はそう言った。
「式神たちともそう決めた。今後は『西園寺瞳』として、祓い屋を続ける」
「そっか……」
「不満か?」
「ううん。もう決めたんだよね?」
「そうだな。そのためには、円。お前の協力が必要なんだ」
「俺?」
「医者として、術者として、そしてなにより、プライベートも含めたパートナーとして。これからも一緒に生きてほしい」
「……なにそのプロポーズ。俺の時よりカッコイイでしょ、反則」
「受けてくれるか?」
「断ると思う? 俺の誰より大切なパートナーさん?」
「ふは」
「受けるに決まってるでしょ。と言うより、その立場も権利も、誰にも譲らないよ」
「そう言うと思った」
至極マジメに言う円と、くすくすと笑う瞳。
瞳は、相変わらずオッドアイを隠してコンタクトレンズをしている。外見で変わったとすれば、前髪を少し短くしたくらいだろうか。
他に誰もいない事務所。
二人、引き寄せられるように指を絡めて、唇を触れさせる。
今日からは改めて、事務所には看板を出すことにしている。もうすぐ業者も到着する頃だ。
それまで、もう少しだけ、と。瞳は円に口腔を貪られる。
「……っは。お前……、これからもコレを変える気はなさそうだな……」
「コレが無くなったら俺じゃないでしょ」
「外ではやるなって言ってるんだよ!」
「それは瞳次第」
「どういう意味だ?」
「自覚するまでは無理かなぁー?」
そう円が笑ったところでインターホンが鳴る。
『西園寺心霊探偵事務所』。
祓い屋、はじめました。
【END】
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