祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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 寝室を同じにしてから気付いたことがある。
 『精力絶倫』であるところの円であるが、意外にそのスイッチは簡単には入らず、そしてスイッチが入っていない時は夜であっても実に紳士的であることだ。
 昼間に紳士的なのはいつもの事だけれど、すれ違い生活が始まるまで毎夜抱かれる覚悟もしていた瞳にしてみたら、期待していたわけではないが少し拍子抜けである。


「それにしてもあの餅の量はヤバいだろ……」


 リビングからベッドに移動し、寝入るまでまた二人で話す。ここ二日はそんな生活だ。今日も二人並んで座り、話をしていた。
 今日は律の事務所の仕事納めで、事務所に行ったら『西園寺家から持たされた』と大量の餅を渡されたのだ。


「まあ、いくら食べ盛りとは言え、二人で食べる量ではないよな」
「だよね?」
「うーん。管理人さんに差し入れするか……。残りそうな分は冷凍するか」
「そうだね……」
「餅は嫌いじゃないし、大丈夫だろ」
「あ、瞳。ウチの豆餅食べてみてよ」
「うん?」
「俺も久々だけどさ。豆がね、大豆じゃないんだよ、ピーナッツなの。炒ったやつを入れるから香ばしくて美味しいよ」
「へぇ」


 美味しいものは瞳も好きだ。話を聞いただけでも楽しみになってくる。
 だが、そこで。ところで、と円が表情を微妙なものに変えて瞳に問いかけてくる。


「瞳さぁ。本気で真に会うの?」
「……仕方ないだろ。約束は約束だ。破るわけにはいかない」
「だってアイツ絶対に瞳狙いだよ?」
「だからこそ、だろ? 望みがないことはしっかりアピールしてくるから。な?」


 ひらり、と左手をかざして見せる。その薬指には、お揃いの指輪。


「まさか明日とか……言わないよね?」
「ああ。忙しいアピールもしないとならないからな。年が明けてからだな」
「瞳はいつでも忙しいでしょ」
「そうとも言うし、そうじゃないとも言えるな」


 まるで謎かけのようだ。
 本来、瞳の『仕事』は依頼があって成り立つものだ。今は風の精霊からの願いもあり、瞳の『本家』との関係を清算するために動き始めたところなのだ。おそらく、これから外部からの『依頼』は増えるだろう。
 けれど、そもそも瞳は高校生である。なにより学業を優先すべきと世間では言われる年齢だ。
 来年はその高校を卒業する年度で、瞳には就職活動という課題がある。実際問題としてはその課題はクリアしているけれど、対外的にはまだ公にできない。


「『仕事』の元凶には、年末も年始もないからな」


 つまりは、いつ『仕事』が舞い込んできてもおかしくないのだ。
 今までだって、朝突然に『依頼』が入り、そのまま出かけることもあった。円もそれを目の当たりにしてきた。


「俺が……手伝えればいいんだけど」
「焦るなよ。円はそこにいてくれるだけでいい」
「ねえ……。それ結構な殺し文句だって自覚ある?」
「えっ?」


 座っていた肩をグイと押され、どさりと押し倒される。


「あれ?」


 覆いかぶさってくる円を見上げながら、瞳はどうしてこうなったのか理解ができない。


「えと……、円?」
「……真に」
「ん?」
「真に会うってだけでも気に入らないのに、そんな殺し文句言われたら、我慢もきかなくなるでしょ」


 円の目に宿るのは、嫉妬だった。嫉妬に燃え、熱を孕んだ視線で見下ろされる。


「まど、か。……あ、ん……っ」


 ひく、と震えながら呼んだ声は、円の行動の呼び水にしかならない。
 円の手が瞳の髪をさらりと撫でる。ゆっくりと、唇を塞がれて声がもれた。


「ん……、んぅ、ふ……ぁ」


 深く、優しく。それでいて貪欲に求めてくるキスに翻弄される。
 無意識のうちに両腕を持ち上げると円の肩を滑らせて首に回し、縋り付くように抱きしめた。


「ぅん……、ん、ふ……ぅ、んく」
「瞳……」


 思うさま貪り尽くした円がやっと瞳を解放すれば、円の目には欲情の炎が灯り、瞳はとろりと蕩けきった顔で円を見上げていた。口端から零れた唾液を拭うことも出来ずに呼吸を乱している姿は扇情的だった。


「瞳……」
「ん……っ」


 耳元で囁かれて、身体がピクリと震える。


「抱きたい。抱かせて……」
「……っあ」


 直截すぎる言葉に、瞳の身体がふるりと震える。恐怖ではない。きっと期待だと思ったら恥ずかしくなった。思わず頬を染めて、ふいっと横を向く。


「瞳……」
「…………れ」
「え?」


 あまりにも小さな声で言ったから聞き返される。恥ずかしくて、更に顔を真っ赤にして、瞳はひそりと告げる。


「……抱いて、くれ」
「……っ!」
「あ……っん!」


 まさかとも思える瞳のセリフに、円が反射的に唇を奪う。


「んぅ、ん……っ、んん!」


 するりと瞳のシャツの中に這わされた熱い手が、これからの行為を物語っていた。
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