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【閑話】某主従は弟たちの初恋を見守っている。《NL要素あり》
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吉田家のリビングで17人もの式神が揃うという壮観とも言うべき光景を目にしたその日。
どうやら本人に自覚はないらしいが、声が掠れていて明らかに体調が悪そうな瞳を気遣い、律と美作は話を早々に切り上げてマンションに戻った。
昼食には少し早い。
美作が紅茶を淹れ、二人でリビングに落ち着いて。
「美作」
「律さま」
呼びかける声が同時だったのは、ただの偶然だった。
ここはもちろん、美作が律に発言権を譲る。
「ねぇ、美作。瞳は大丈夫かしら……」
「そうですね……。正直、いろいろな意味でとても心配です」
「そうよね……」
律が吐息して、少しの沈黙が落ちる。
「最初は、風邪かと思ったのだけど……」
「はい」
「あれは違うわよね、そういうことよね?」
「おそらく……」
「瞳は気付いていなかったみたいだけど、シャツの襟元からキスマークが見えたわ……」
「首筋にも、名残がありましたね……」
なんてことはない、あからさますぎる瞳と円の情事の痕跡に、戸惑っているのだ。
そして、律は先程と同じ言葉を繰り返す。
「瞳は、大丈夫かしら……」
「男同士ですと、いわゆる女性役の方が負担が大きいと聞きますが……」
「ええ、そうね。私もその手の本は読んだわ」
「お二人を見る限り、明らかに瞳さまの方ですね……」
「そうね……。円ったら初恋だから……」
「無事に成就してくれたのは幸いですが」
そうなのだ。無事に、というよりは、やっと、円は初恋を実らせた。そこは律も美作も祝福している。相手は瞳だ。人柄になんの心配もしていない。
ただ、今日のあの話だ。
「円を人質に取られて、瞳がストレスを抱えてしまわないかしら……」
「円さまは相変わらずの通常運転でしたね」
「そうね。あと、精霊? 瞳に手を出そうだなんて、円が暴走しそうだわ」
「同感です」
「円は……随分と情熱的な子だったのね」
「今までは無縁な話でしたからね」
「本当に、早く穏やかに幸せな生活を送ってもらいたいものだわ……」
「はい……」
ふぅ、と律が吐息して、美作が大きく頷く。
「……ねぇ、美作」
「はい」
「……私の話も聞いてもらえるかしら?」
少し躊躇うように、ほんのりと頬を染める律に、美作はいいえ、と首を振る。
「その前に、わたしの話を聞いていただけませんか?」
美作が律に対して『否』と言うのは滅多にない。
律が少し驚いて、でもすぐに微笑んだ。
「……珍しいわね。いいわ、なぁに?」
律の了承を得ると、美作はスっと立ち上がり、律のそばに跪く。そして、その小さな手をとった。
「……美作?」
「身分違いは承知しております。ですが、言わせてください。幼い頃よりずっとお慕いしております。どうか、わたしと結婚を前提にお付き合いしていただけないでしょうか?」
「…………っ!」
真摯な美作の言葉に、律が息をのむ。
「ばかね……」
少しの沈黙の後、律が言った。その色素が薄い目には涙が浮かんでいる。
「私が、どれだけその言葉を待っていたと思っているの?」
「律さま……」
「私でよければ、喜んで」
「……ありがとうございます」
美作は、取っていた律の手の甲に、そっと口付けを落とす。
「あら。唇にはしてくれないのね?」
「律さまのお姿がせめてもう少し成長されるのをお待ちしております。……このままでは、わたしは完全に変質者ですからね」
「ふふふ、頑張るわ」
そう言って律と美作は笑い合う。
テーブルには、瞳がプレゼントしたペアのマグカップが並んでいた。
どうやら本人に自覚はないらしいが、声が掠れていて明らかに体調が悪そうな瞳を気遣い、律と美作は話を早々に切り上げてマンションに戻った。
昼食には少し早い。
美作が紅茶を淹れ、二人でリビングに落ち着いて。
「美作」
「律さま」
呼びかける声が同時だったのは、ただの偶然だった。
ここはもちろん、美作が律に発言権を譲る。
「ねぇ、美作。瞳は大丈夫かしら……」
「そうですね……。正直、いろいろな意味でとても心配です」
「そうよね……」
律が吐息して、少しの沈黙が落ちる。
「最初は、風邪かと思ったのだけど……」
「はい」
「あれは違うわよね、そういうことよね?」
「おそらく……」
「瞳は気付いていなかったみたいだけど、シャツの襟元からキスマークが見えたわ……」
「首筋にも、名残がありましたね……」
なんてことはない、あからさますぎる瞳と円の情事の痕跡に、戸惑っているのだ。
そして、律は先程と同じ言葉を繰り返す。
「瞳は、大丈夫かしら……」
「男同士ですと、いわゆる女性役の方が負担が大きいと聞きますが……」
「ええ、そうね。私もその手の本は読んだわ」
「お二人を見る限り、明らかに瞳さまの方ですね……」
「そうね……。円ったら初恋だから……」
「無事に成就してくれたのは幸いですが」
そうなのだ。無事に、というよりは、やっと、円は初恋を実らせた。そこは律も美作も祝福している。相手は瞳だ。人柄になんの心配もしていない。
ただ、今日のあの話だ。
「円を人質に取られて、瞳がストレスを抱えてしまわないかしら……」
「円さまは相変わらずの通常運転でしたね」
「そうね。あと、精霊? 瞳に手を出そうだなんて、円が暴走しそうだわ」
「同感です」
「円は……随分と情熱的な子だったのね」
「今までは無縁な話でしたからね」
「本当に、早く穏やかに幸せな生活を送ってもらいたいものだわ……」
「はい……」
ふぅ、と律が吐息して、美作が大きく頷く。
「……ねぇ、美作」
「はい」
「……私の話も聞いてもらえるかしら?」
少し躊躇うように、ほんのりと頬を染める律に、美作はいいえ、と首を振る。
「その前に、わたしの話を聞いていただけませんか?」
美作が律に対して『否』と言うのは滅多にない。
律が少し驚いて、でもすぐに微笑んだ。
「……珍しいわね。いいわ、なぁに?」
律の了承を得ると、美作はスっと立ち上がり、律のそばに跪く。そして、その小さな手をとった。
「……美作?」
「身分違いは承知しております。ですが、言わせてください。幼い頃よりずっとお慕いしております。どうか、わたしと結婚を前提にお付き合いしていただけないでしょうか?」
「…………っ!」
真摯な美作の言葉に、律が息をのむ。
「ばかね……」
少しの沈黙の後、律が言った。その色素が薄い目には涙が浮かんでいる。
「私が、どれだけその言葉を待っていたと思っているの?」
「律さま……」
「私でよければ、喜んで」
「……ありがとうございます」
美作は、取っていた律の手の甲に、そっと口付けを落とす。
「あら。唇にはしてくれないのね?」
「律さまのお姿がせめてもう少し成長されるのをお待ちしております。……このままでは、わたしは完全に変質者ですからね」
「ふふふ、頑張るわ」
そう言って律と美作は笑い合う。
テーブルには、瞳がプレゼントしたペアのマグカップが並んでいた。
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