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【閑話】西園寺円の個人的なお願い
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挨拶のキスを禁止された円だけれど、どうしてもどうしても譲れないものもある。
「瞳、お願いっ!!」
両手を合わせて円が瞳に頼み込むということを始めて、数分が経過している。
「……なんでそんなにこだわるんだ」
はぁ、とため息をつく瞳は、半ば呆れ顔である。
「だって! おやすみのキスは瞳が初めてちゃんとしてくれた挨拶のキスなんだよ!? それ継続したくて何が悪いの!」
「……ちょっとよく分からないんだけど」
『初めて』になんだかいろいろ付属している気がする。
「そもそも、『初めて』だってオレからしただろ?」
「アレは気持ちがこもってないじゃん!」
確かにファーストキスだけど、とブツブツ言う円が面白い。
一条のストーカーお嬢を牽制する写真を撮るための、アレはただの行為であってキスとは違う、などと言い始める円は必死だ。
綺麗に撮れていたからと画像を保存する程度には当時も浮かれていたわけだけれど。
「気持ちなぁ……」
気持ちがこもっている云々は置いておいたとしても、瞳は円以外となんかキスしたこともないししようとも思わないのだから比べようがないのだ。
それを言ったら、いつのどのキスから気持ちがあったのかなんて分からない。
「お願いー! 一生のとは言わないけど、ほんとお願いします」
「そこで一生のお願いにしないのが円だよなぁ」
「それはもっとしっかりしたものに使う」
「ふは。そうしておけ」
「言っておくけど、たぶんそれ使うの瞳にだからね?」
「これ以上なにさせる気だよっ!?」
円は突拍子もないことを頼んできそうでこわい。たまに考えが読めないというか、想像以上のことをやらかしてくれる。突然椿を召喚したりとか闇医者になると言い出したり、修学旅行を病欠したことだってそうだ。想像の斜め上を行く。
「いや別に、何に使うかは分かんないけど」
「お前こわい……」
「瞳に言われたくない」
とりあえず、といいながら瞳はため息をつく。
「明日は土曜日だろ? 早めに寝ろよ」
「ううぅ……」
「医者も体力勝負だろ?」
「うん……。寝ます。おやすみ」
「ん。おやすみ、円。ちょっとおいで」
「?」
ソファに座ったままでちょいちょいと手招きする瞳に、円はなんだろう、と近付いて。
瞳はする、と腕を伸ばして円の腰を引き寄せ、もう片方の手で円の頭を撫でると触れるだけのキスを唇に落としてやった。
「え……、あ?」
「ほら、早く寝ろ」
しれっと言う瞳の頬は少し赤い。
「瞳だいすきっ!!」
さっきまでのシュンとした様子はどこへやら、円は元気に瞳をソファに押し倒す。
「うわ、ばか! ちょ、……っ、ん、んん!」
ちゅ、ちゅる、と円が深いキスを仕掛けてくるから、瞳は必死に押し戻す。いくら力が同じ程度とは言え、体重までかけられたらたまったものではない。
「今日……は、もうダメ!」
「ええー?」
「お願いひとつ聞いてやったろ! ワガママ言うな!」
「ふふ、はぁい。ありがと、瞳。愛してる!」
はいはい、と言う瞳をぎゅうっと抱きしめて、円は自室へと戻っていく。
見送る瞳の顔は赤く染まっていて。
円は知らない。瞳だって、口にはしないけれど円のことが本当に好きで仕方ないのだということを。
「瞳、お願いっ!!」
両手を合わせて円が瞳に頼み込むということを始めて、数分が経過している。
「……なんでそんなにこだわるんだ」
はぁ、とため息をつく瞳は、半ば呆れ顔である。
「だって! おやすみのキスは瞳が初めてちゃんとしてくれた挨拶のキスなんだよ!? それ継続したくて何が悪いの!」
「……ちょっとよく分からないんだけど」
『初めて』になんだかいろいろ付属している気がする。
「そもそも、『初めて』だってオレからしただろ?」
「アレは気持ちがこもってないじゃん!」
確かにファーストキスだけど、とブツブツ言う円が面白い。
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「気持ちなぁ……」
気持ちがこもっている云々は置いておいたとしても、瞳は円以外となんかキスしたこともないししようとも思わないのだから比べようがないのだ。
それを言ったら、いつのどのキスから気持ちがあったのかなんて分からない。
「お願いー! 一生のとは言わないけど、ほんとお願いします」
「そこで一生のお願いにしないのが円だよなぁ」
「それはもっとしっかりしたものに使う」
「ふは。そうしておけ」
「言っておくけど、たぶんそれ使うの瞳にだからね?」
「これ以上なにさせる気だよっ!?」
円は突拍子もないことを頼んできそうでこわい。たまに考えが読めないというか、想像以上のことをやらかしてくれる。突然椿を召喚したりとか闇医者になると言い出したり、修学旅行を病欠したことだってそうだ。想像の斜め上を行く。
「いや別に、何に使うかは分かんないけど」
「お前こわい……」
「瞳に言われたくない」
とりあえず、といいながら瞳はため息をつく。
「明日は土曜日だろ? 早めに寝ろよ」
「ううぅ……」
「医者も体力勝負だろ?」
「うん……。寝ます。おやすみ」
「ん。おやすみ、円。ちょっとおいで」
「?」
ソファに座ったままでちょいちょいと手招きする瞳に、円はなんだろう、と近付いて。
瞳はする、と腕を伸ばして円の腰を引き寄せ、もう片方の手で円の頭を撫でると触れるだけのキスを唇に落としてやった。
「え……、あ?」
「ほら、早く寝ろ」
しれっと言う瞳の頬は少し赤い。
「瞳だいすきっ!!」
さっきまでのシュンとした様子はどこへやら、円は元気に瞳をソファに押し倒す。
「うわ、ばか! ちょ、……っ、ん、んん!」
ちゅ、ちゅる、と円が深いキスを仕掛けてくるから、瞳は必死に押し戻す。いくら力が同じ程度とは言え、体重までかけられたらたまったものではない。
「今日……は、もうダメ!」
「ええー?」
「お願いひとつ聞いてやったろ! ワガママ言うな!」
「ふふ、はぁい。ありがと、瞳。愛してる!」
はいはい、と言う瞳をぎゅうっと抱きしめて、円は自室へと戻っていく。
見送る瞳の顔は赤く染まっていて。
円は知らない。瞳だって、口にはしないけれど円のことが本当に好きで仕方ないのだということを。
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