祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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 二学期が始まれば学校行事の準備で大忙しだった。
 体育祭に文化祭、二年生の瞳たちは修学旅行まである。
 体育祭の準備はまだ大したことはないけれど、問題は文化祭である。
 あろうことか、瞳たちのクラスでは執事喫茶なるものを出店することになったのである。おまけに男子は強制的に全員が接客担当なのだ。


「それもこれも円が同じクラスにいるせいだ」
「なんで俺のせい!?」
「お前、学校一の顔面偏差値って言われてる自覚ないのか? そんなヤツにお嬢様扱いされたいと思うのは当然だろ?」


 昼休み。いつものように妖精たちに鍵を開けてもらって屋上でお弁当を食べている二人である。
 実際のところ、女子票が執事喫茶に集まり、男子票が他のものにバラけたことで決まったようなものだった。密かに瞳の素顔を見たいという意味での票も入っていたけれど、それは瞳のあずかり知らぬ事実である。


「顔面偏差値云々は瞳には言われたくない……」


 ボソリと呟けば、耳ざとく聞きつけた瞳にああ? と聞き返され、ナンデモナイデスとカタコトになって返すしかない円だった。


「まあ、オレは当日高熱出す予定だからヨロシクな」
「はい?」
「修学旅行もな」
「え、マジで?」
「マジだけど?」


 それがどうかしたのかと言いたい瞳である。
 執事の格好だなど、かなり本職に近い格好だしそもそも接客なんてガラではない。修学旅行に関しても前に休むかもしれない旨を伝えていたはずである。
 それなのに、円は本気で残念がっている。


「うわぁ、マジだったかぁー!」
「執事っぽい格好なら見てるだろ?」
「それはそうだけど! でも修学旅行!」
「お前は普通に行ってこいよ」
「そうじゃなくて!」


 修学旅行での班は今日のHRで決めた。円は何とか瞳を同じ班に引き入れることに成功したのだが。当の瞳はこの調子である。


「せっかく一緒に旅行できると思ったのに」


 くすん、とちょっと泣きまねまでする円に、さすがに瞳は悪いとは思ったけれど言ったことを覆すつもりはない。
 つまり、学校行事は全て欠席、である。
 もともと、授業の体育だっていつも見学なのだ。体育祭だなんてとんでもない。見学の理由は人前で着替えられないからであって身体はいたって健康だが、これは仕方がないと諦めてもらうしかない。


「一緒に旅行に行くくらいいつでもできるんだろ?」


 夏休み前にあっという間に予定を立ててしまった律の弟である。円だってやりそうだし、あの旅行は結局キャンセルになってしまった。きっとまた折を見て律が企画するだろう。
 そう思うと同時に、一緒に出かける約束もまだ果たせていないままだったことを思い出す。


「とりあえず、映画にでも行くか?」
「え?」
「ホラーと恋愛系はパスな。ついでにちょっと遊ぶとか?」
「あれ、瞳ホラーだめなの?」
「ホラーはな……本物が映り込んでる頻度が高いんだよ。見分けるのがめんどくさいから嫌」
「ひえ……」


 少し困ったような瞳に比べて、円は真顔である。それはそうだ、要らない情報を得てしまった。これからホラー系の作品を見るのが怖いではないか。


「日曜となると少し人が多いけどな……」


 問題があるとしたら、その点だけだ。
 平日は学校で放課後は律の事務所だし土曜日は円が小田切の所へ行く日だ。空いているとすれば日曜日。


「別に映画じゃなくてもいいけど……」
「んー?」
「あ、そういえば。瞳の誕生日っていつ?」
「秘密」
「……やっぱり?」
「察してるなら聞くな」


 瞳は円とは占いや呪いに関しての話をした事はない。おそらくは美作から何か聞いたのだろう。
 もっとも、瞳に関して言えば正しい生年月日など本人に聞く以外に方法がないほどには徹底して伏せられているのだけれど、それは別にどうでもいい。


「なんていうかさぁ」
「うん?」
「瞳が美作とはデートしてるのに俺はまだっていうのが気に入らないんだよね」
「……は?」
「瞳と買い物デートとか美作め!」


 憎いとでも言い出しそうな円に、瞳はオイオイと突っ込みを入れたくなる。買い物なら毎日のように一緒に行っているし、同居までしているのに何を今更。
 それを円に言えば。


「あれは日常のルーティンであって、デートではないんだよ!」
「はぁ……?」


 よく分からないが、円なりのこだわりがあるようだ。
 うーん、と考えて、瞳が下した決断はごく簡潔なもの。


「次の日曜日に急ぎの『仕事』が入らなければ一緒に出かける。それでいいか?」
「え、いいの?」
「こっちが聞いてるんだけど……。行き先は任せる」
「どこでもいい?」
「いいよ」


 なにやら嬉しそうで何か企んでいそうな円の様子に、瞳はちょっと不安を覚えたけれど気付かなかったことにした。
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