祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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「まず始めに断っておきたいのは、これを話すのはオレの独断だということです。できれば、どうか最後まで聞いてほしい」


 瞳は、そう前置きして話し始める。


「事の発端は、マンションの近くを不審な男がうろついているという情報が入ったことです。これに関して、オレは美作さんと調査をすることにしました」


 円と律が美作を見るから、美作は静かに頷く。
 その様子を見ながら、瞳は言葉を続けた。


「男は『西園寺』について調べていたようでした。だけど、そもそも彼は西園寺の術者だった。九条という男です。それに関連して、オレは律さんと円の異母弟である真くんに会うことになった」


 そこから先は、美作にも話していないことだった。

 真から電話をもらったこと。西園寺邸へ行き、舞と会ったこと。舞から聞いた愛との関係。九条一族の企み。西園寺の現当主が呪詛にあったこと。正式な依頼として『仕事』に行ったこと。九条への制裁について。西園寺家の術者が不足している事実。
 瞳自身が見聞きし、感じたことの全てを言葉にして伝える。
 なにより、これは舞が伝えることを望んでいないということも。


「なに……なんで? それじゃああの人、私たちに誤解されたままじゃない……」
「それでもいいと。律さんと円が幸せであるなら、それが愛さんの望んだことだから、と言っていました」
「あの人の幸せはどこにあるんだよ……」


 望んではいなかった結婚。出産。それでも可愛い我が子。
 大切な人を失い、彼女の子供たちに憎まれて。そしてどこに幸せがあるのか。
 そう、円は言うのだ。


「舞さんは、自分の幸せより子どもたちの幸せを願う。そんな人だよ」


 そう。言葉にして表現するならそれがいちばん似合う。
 律はボロボロと泣いているし、円も涙を堪えきれない様子で。美作でさえも目が赤い。
 律は残っていたアイスティーをグイッと飲み干し、立ち上がる。


「西園寺の家へ行くわ!」
「俺も!」
「承知いたしました。すぐに準備します」


 三人は瞳の言葉を最後まで聞いて、そして信じてくれた。それがなにより嬉しい。


「瞳。一緒に来てほしいわ」
「……わかりました。ご一緒します」


 思い立ったらすぐ行動するのは律のクセなのか。
 本当にすぐに車に乗せられ、西園寺邸を目指していた。


「あの、本当に連絡しなくていいんですか?」


 運転席の後ろから助手席に座っている律に問えば。


「実家に帰るのに、わざわざ理由も連絡も要らないわ」
「…………」


 いったい何年ぶりの帰宅なのかは聞かないでおこう。そうしよう。
 西園寺の家までは以前の狐の件で近くに来たらしいので、なんとなくの位置は把握していた。車で30分程度。だが、美作は「捕まらない程度にとばして」来たらしい。30分もかからなかった。
 瞳は、西園寺の家を敷地の外からは初めて見る。
 広いとは思っていたが、かなり大きな家だった。
 門の前に車を横付けし、美作が呼び鈴を鳴らす。対応に出た女性が慌てているのがわかった。
 その後に、門まで驚いた様子で走ってくるのは五月女だった。


「美作!」
「五月女……」


 特に言葉を交わすでもなく、二人は握手をして、そして五月女は後ろにいる律と円に視線を向ける。


「おかえりなさいませ」


 100点満点の礼と言葉。
 律は少しためらって、それから意を決したように言う。


「ただいま」


 円は、そう言うにはもう少し勇気が必要なようだ。
 五月女は瞳に視線を移して、ありがとうございます、と言った。その目にも浮かぶものがあったことに、瞳は気付かなかったふりをした。


「さあ、早く行きましょう」


 急かすように律が言うと、五月女は先頭に立って歩き出す。
 瞳は門から入るのは初めてなので、なんだか不思議な感じだ。そんな瞳の前では、美作が律にコソリと大丈夫ですか、と聞いていた。
 律の身体は成長していないままだ。また気味が悪いと思われないか。それが心配なのは瞳も同じだった。
 円だって小学生の時に出て以来の帰宅だろう。ほとんど他人の家である。
 勢いに任せて来たはいいが、この後の方が心配なのだ。
 そんな思いをよそに建物にどんどん近付いて、とうとう玄関前である。五月女によって開かれたそのドアの向こうには、舞と真、それに幾人かの使用人たちがいた。
 一様に驚いたような、けれど嬉しそうな表情をしている。
 真は会ったこともない姉兄に驚き、舞は涙すら浮かべていた。


「おかえりなさい」


 舞が、なんのためらいもなくそう言うから、律の目にまた涙が浮かぶ。


「私は、あなたをなんと呼べばいいの?」
「どうか、『舞』と。愛にそっくりなあなたに、愛と似た声でそう呼ばれることが、私の夢でした」


 優しい声で告げられて、律が頷かないはずがなかった。
 義理の母であり、実のおば。そんな複雑な関係を、未だに受け入れきれない自分もいるけれど、この人が、愛と同じ気配をまとっていることが、今ならわかる。


「……舞」


 律がそう呼べば。
 今度こそ涙を零した舞に、律はふわりと抱きしめられた。
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