95 / 186
092.
しおりを挟む
美作の料理の腕の件もあるので、美味しいであろうことは疑ってはいなかったが、昼食はとても美味しかった。
一見普通に見える瞳に気を使ったのだろうか、コース料理などではなくて安心した。
真は瞳の訪問が嬉しくて仕方がないのだろう、学校の事や護衛である術者の失敗談など、実にたくさんのことを話してくれて、舞も嬉しそうだ。
「真さま、お時間でございます」
「えっ、もう?」
どうやら日曜日だというのに今日も予定が詰まっているらしいが、真は嫌な顔ひとつ見せない。ただ、少ししょんぼりと、瞳や舞と過ごす時間が終わることを惜しんだ。
「吉田さん、また来てくれますか?」
「そうだな。真くんがそう望んでくれるなら」
「はい!」
じゃあ、午後の授業も頑張ってきます。と、真は張り切って部屋を出ていく。どうやら家庭教師が来るようだ。
「あの子、最近授業を増やしてしまったようで。少し心配です」
「そうだったんですか……」
瞳は、昨日の公園での真との会話を思い出しながら舞に伝える。
「真くんは、結構強いと思います。舞さんは思い詰めないでください」
「そう、あの子そんなことを……」
「舞さんは真くんに謝る必要なんてないんです。これは、彼が選んだ道です。応援してあげてください」
「はい……」
舞はほろりと零れ落ちた涙を拭って、今度は涙をグッと堪える。
「それで、西園寺の当主の件ですが」
「はい」
「信用できる術者は?」
「真の護衛の五月女と、律さん円さんについている美作です」
「もう一人いると、うかがいましたが……?」
「彼は、得体がしれません」
「では、五月女さんを」
「はい」
舞は手元にある小さなハンドベルのような鈴を鳴らして使用人を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「ごめんなさい、五月女を呼んできてもらえるかしら」
「かしこまりました」
使用人が下がれば、すぐに五月女が慌てた様子で駆け付けてくる。
「何かありましたか?」
「すみません、きちんと『視て』いないので何とも言えませんが、おそらく、当主には呪いがかけられているかと」
「! やはり」
「心当たりがおありですか?」
「旦那様のお部屋の周りの空気が澱んでいるのが自分にも分かります」
「そうですか……。そうなると、ここから先は正式に『祓い屋』への依頼となってしまいますがよろしいですか?」
瞳がそう言うから、会話から置いていかれている舞に、五月女はひっそりと説明を加える。
「奥様、これは極秘事項ですが、彼は『裏』の世界ではかなり有名な『祓い屋』です。依頼料も多額となりますが、『仕事』は確実です」
「わかりました。お願いします」
「かしこまりました。……玄武」
舞と五月女の会話によって依頼が成立したのを見届けると、瞳は式神を呼んだ。
「今回は格安で頼むぞ」
「内容によります。前回のようなことはご勘弁を」
「……気を付ける。それで、視えるか?」
瞳が直接部屋には行けない、触れられないとなると、瞳の感覚は使えない。式神に頼るしかない。
「……内通者がいますね」
「内通者?」
「術はふたつ……内側からと、外から」
「感覚を送ってくれ」
「御意」
椅子に座った瞳のそばに跪き、玄武は瞳の手を取りその甲を自分の額にあてる。そうすることで玄武が掴んだ感覚を瞳に送るのだ。
受け取る瞳は目を閉じる。
ああ、たしかに術は二方向から。どちらも良くない術だ。内側からのものは、この気配には覚えがある。あの、ホクロのある例の術者だ。
「五月女さん」
「はい!」
「左頬にホクロのある術者が居ますね?」
「はい、九条ですね。もしかして、彼が?」
「はい、おそらくは」
「そうでしたか……」
「驚かないんですか?」
淡々と受け止める五月女に、むしろ瞳の方が驚いた。一応、仲間ではないのだろうか?
「最近、単独行動というか、不意に居なくなることが多くて裏で何かやっているな、とは感じていたのです」
「なるほど。『外』については少し探らせてください。あまりにも情報が無さすぎる」
「わかりました。旦那様は……」
「すぐにどうこうという術ではなさそうです。ただ、少しずつ体力を削られると思うので、食事は摂るように気をつけてください」
「はい」
「空狐。『外』の術者の特定と、依頼人の特定はできるか?」
「やってみます」
突然現れた銀色の青年がまた消えるのを目の当たりにして、舞も五月女も、事態の重大さを実感し始めたところだ。とにかく何か大変なことが起ころうとしている。それだけは、二人にも分かった。
状況がわかり次第、また連絡します。そう瞳が言って、『依頼』の件は終わった。
一見普通に見える瞳に気を使ったのだろうか、コース料理などではなくて安心した。
真は瞳の訪問が嬉しくて仕方がないのだろう、学校の事や護衛である術者の失敗談など、実にたくさんのことを話してくれて、舞も嬉しそうだ。
「真さま、お時間でございます」
「えっ、もう?」
どうやら日曜日だというのに今日も予定が詰まっているらしいが、真は嫌な顔ひとつ見せない。ただ、少ししょんぼりと、瞳や舞と過ごす時間が終わることを惜しんだ。
「吉田さん、また来てくれますか?」
「そうだな。真くんがそう望んでくれるなら」
「はい!」
じゃあ、午後の授業も頑張ってきます。と、真は張り切って部屋を出ていく。どうやら家庭教師が来るようだ。
「あの子、最近授業を増やしてしまったようで。少し心配です」
「そうだったんですか……」
瞳は、昨日の公園での真との会話を思い出しながら舞に伝える。
「真くんは、結構強いと思います。舞さんは思い詰めないでください」
「そう、あの子そんなことを……」
「舞さんは真くんに謝る必要なんてないんです。これは、彼が選んだ道です。応援してあげてください」
「はい……」
舞はほろりと零れ落ちた涙を拭って、今度は涙をグッと堪える。
「それで、西園寺の当主の件ですが」
「はい」
「信用できる術者は?」
「真の護衛の五月女と、律さん円さんについている美作です」
「もう一人いると、うかがいましたが……?」
「彼は、得体がしれません」
「では、五月女さんを」
「はい」
舞は手元にある小さなハンドベルのような鈴を鳴らして使用人を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「ごめんなさい、五月女を呼んできてもらえるかしら」
「かしこまりました」
使用人が下がれば、すぐに五月女が慌てた様子で駆け付けてくる。
「何かありましたか?」
「すみません、きちんと『視て』いないので何とも言えませんが、おそらく、当主には呪いがかけられているかと」
「! やはり」
「心当たりがおありですか?」
「旦那様のお部屋の周りの空気が澱んでいるのが自分にも分かります」
「そうですか……。そうなると、ここから先は正式に『祓い屋』への依頼となってしまいますがよろしいですか?」
瞳がそう言うから、会話から置いていかれている舞に、五月女はひっそりと説明を加える。
「奥様、これは極秘事項ですが、彼は『裏』の世界ではかなり有名な『祓い屋』です。依頼料も多額となりますが、『仕事』は確実です」
「わかりました。お願いします」
「かしこまりました。……玄武」
舞と五月女の会話によって依頼が成立したのを見届けると、瞳は式神を呼んだ。
「今回は格安で頼むぞ」
「内容によります。前回のようなことはご勘弁を」
「……気を付ける。それで、視えるか?」
瞳が直接部屋には行けない、触れられないとなると、瞳の感覚は使えない。式神に頼るしかない。
「……内通者がいますね」
「内通者?」
「術はふたつ……内側からと、外から」
「感覚を送ってくれ」
「御意」
椅子に座った瞳のそばに跪き、玄武は瞳の手を取りその甲を自分の額にあてる。そうすることで玄武が掴んだ感覚を瞳に送るのだ。
受け取る瞳は目を閉じる。
ああ、たしかに術は二方向から。どちらも良くない術だ。内側からのものは、この気配には覚えがある。あの、ホクロのある例の術者だ。
「五月女さん」
「はい!」
「左頬にホクロのある術者が居ますね?」
「はい、九条ですね。もしかして、彼が?」
「はい、おそらくは」
「そうでしたか……」
「驚かないんですか?」
淡々と受け止める五月女に、むしろ瞳の方が驚いた。一応、仲間ではないのだろうか?
「最近、単独行動というか、不意に居なくなることが多くて裏で何かやっているな、とは感じていたのです」
「なるほど。『外』については少し探らせてください。あまりにも情報が無さすぎる」
「わかりました。旦那様は……」
「すぐにどうこうという術ではなさそうです。ただ、少しずつ体力を削られると思うので、食事は摂るように気をつけてください」
「はい」
「空狐。『外』の術者の特定と、依頼人の特定はできるか?」
「やってみます」
突然現れた銀色の青年がまた消えるのを目の当たりにして、舞も五月女も、事態の重大さを実感し始めたところだ。とにかく何か大変なことが起ころうとしている。それだけは、二人にも分かった。
状況がわかり次第、また連絡します。そう瞳が言って、『依頼』の件は終わった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる