祓い屋はじめました。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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 美作の料理の腕の件もあるので、美味しいであろうことは疑ってはいなかったが、昼食はとても美味しかった。
 一見普通に見える瞳に気を使ったのだろうか、コース料理などではなくて安心した。
 真は瞳の訪問が嬉しくて仕方がないのだろう、学校の事や護衛である術者の失敗談など、実にたくさんのことを話してくれて、舞も嬉しそうだ。


「真さま、お時間でございます」
「えっ、もう?」


 どうやら日曜日だというのに今日も予定が詰まっているらしいが、真は嫌な顔ひとつ見せない。ただ、少ししょんぼりと、瞳や舞と過ごす時間が終わることを惜しんだ。


「吉田さん、また来てくれますか?」
「そうだな。真くんがそう望んでくれるなら」
「はい!」


 じゃあ、午後の授業も頑張ってきます。と、真は張り切って部屋を出ていく。どうやら家庭教師が来るようだ。


「あの子、最近授業を増やしてしまったようで。少し心配です」
「そうだったんですか……」


 瞳は、昨日の公園での真との会話を思い出しながら舞に伝える。


「真くんは、結構強いと思います。舞さんは思い詰めないでください」
「そう、あの子そんなことを……」
「舞さんは真くんに謝る必要なんてないんです。これは、彼が選んだ道です。応援してあげてください」
「はい……」


 舞はほろりと零れ落ちた涙を拭って、今度は涙をグッと堪える。


「それで、西園寺の当主の件ですが」
「はい」
「信用できる術者は?」
「真の護衛の五月女と、律さん円さんについている美作です」
「もう一人いると、うかがいましたが……?」
「彼は、得体がしれません」
「では、五月女さんを」
「はい」


 舞は手元にある小さなハンドベルのような鈴を鳴らして使用人を呼ぶ。


「お呼びでしょうか」
「ごめんなさい、五月女を呼んできてもらえるかしら」
「かしこまりました」


 使用人が下がれば、すぐに五月女が慌てた様子で駆け付けてくる。


「何かありましたか?」
「すみません、きちんと『視て』いないので何とも言えませんが、おそらく、当主には呪いがかけられているかと」
「! やはり」
「心当たりがおありですか?」
「旦那様のお部屋の周りの空気が澱んでいるのが自分にも分かります」
「そうですか……。そうなると、ここから先は正式に『祓い屋』への依頼となってしまいますがよろしいですか?」


 瞳がそう言うから、会話から置いていかれている舞に、五月女はひっそりと説明を加える。


「奥様、これは極秘事項ですが、彼は『裏』の世界ではかなり有名な『祓い屋』です。依頼料も多額となりますが、『仕事』は確実です」
「わかりました。お願いします」
「かしこまりました。……玄武」


 舞と五月女の会話によって依頼が成立したのを見届けると、瞳は式神を呼んだ。


「今回は格安で頼むぞ」
「内容によります。前回のようなことはご勘弁を」
「……気を付ける。それで、視えるか?」


 瞳が直接部屋には行けない、触れられないとなると、瞳の感覚は使えない。式神に頼るしかない。


「……内通者がいますね」
「内通者?」
「術はふたつ……内側からと、外から」
「感覚を送ってくれ」
「御意」


 椅子に座った瞳のそばに跪き、玄武は瞳の手を取りその甲を自分の額にあてる。そうすることで玄武が掴んだ感覚を瞳に送るのだ。
 受け取る瞳は目を閉じる。
 ああ、たしかに術は二方向から。どちらも良くない術だ。内側からのものは、この気配には覚えがある。あの、ホクロのある例の術者だ。


「五月女さん」
「はい!」
「左頬にホクロのある術者が居ますね?」
「はい、九条ですね。もしかして、彼が?」
「はい、おそらくは」
「そうでしたか……」
「驚かないんですか?」


 淡々と受け止める五月女に、むしろ瞳の方が驚いた。一応、仲間ではないのだろうか?


「最近、単独行動というか、不意に居なくなることが多くて裏で何かやっているな、とは感じていたのです」
「なるほど。『外』については少し探らせてください。あまりにも情報が無さすぎる」
「わかりました。旦那様は……」
「すぐにどうこうという術ではなさそうです。ただ、少しずつ体力を削られると思うので、食事は摂るように気をつけてください」
「はい」
「空狐。『外』の術者の特定と、依頼人の特定はできるか?」
「やってみます」


 突然現れた銀色の青年がまた消えるのを目の当たりにして、舞も五月女も、事態の重大さを実感し始めたところだ。とにかく何か大変なことが起ころうとしている。それだけは、二人にも分かった。
 状況がわかり次第、また連絡します。そう瞳が言って、『依頼』の件は終わった。
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